第39話
宇宙人に童貞を捕食された、どこか満足げな少年をソファーに座らせ、シャビドとシャビードローンは今後のことについて話を始める。
「まずは少年よ。将来の夢とか、目指しているものはあるか?」
シャビドは変貌薬の適合者である少年を問答無用で宇宙に連れ出すことはせず、本人の意思を尊重することにした。
せっかくクズ親から解放されて、これから楽しい学生生活が待っているはずの彼を、無理やり拘束してしまうのは気が引けたのだ。そもそも、少年を助けたのは自分なのだから、そんな自分が彼を縛ってはいけない、という思いもある。
「ありません。でも……」
少年は少し言い淀み、チラリとシャビドの横に座るシャビードローンをみた。
少年の夜の相手をさせたシャビードローンは少年に合わせて、同じような年齢の少女の姿をしている。シャビドとは対照的にタレ目な、優しげな雰囲気を醸し出す少女だ。
少年はシャビドとシャビードローンの少女とを交互に見比べ、意を決したように言葉を発した。
「ぼ、僕に、娘さんをください」
どうやらこの少年は、考えすぎて勘違いする性格なようだ、とシャビドは表情を変えず冷静に思考する。とりあえず、まずは誤解を解こう、としたところで、シャビードローンから脳内通信がはいった。
『このまま勘違いさせて、本人の意思によって我々に協力するよう求めましょう』
『えー。せっかく自由にしてあげたのに、また縛るのはちょっと』
『本人が望むならいいのでは?』
シャビドはじっと少年を見つめる。少年はぐぬぬ、と覚悟を決めたように歯を食いしばっているが、ちらりとシャビドの隣に座る少女に目を向け、頬を染める。そして、さらに強く覚悟を決めたようだった。
『あまり気は乗らないけれど、本人は乗り気なんだよなぁ』
『地球において、世界中の数多の人間と性交に励み、研鑽を積んだ我々の房中術に落ちない者はいません』
『その経験値、私には絶対に共有しないで』
シャビードローンになる前は男性として生活していたのだ。男性とあれこれ致す経験を共有されるのだけは勘弁してほしい。
ちなみに、世界中に散らばったシャビードローンは割とホイホイ男について行って性交しまくっている。そして遺伝子データなどを抜き取って実験に使っている。
男はいい思いが出来てウィン。シャビードローンは実験が出来てウィン。お互い良好な関係が築けている。なお、遺伝子データが人道的に反する様々な事に使われていることを、提供者達は全く知らない。
シャビドはシャビドネットワークを使用して、今後の展開について大まかな道筋を立て、それから少年に今後の話をし始める。
「好きにしたらいい。だが、彼女を大切にするのはもちろんのことだが、自身の私生活についても」
「あら。それでしたら、ワタクシが万全のサポートをいたしますわ」
鈴の音のような声を奏で、シャビドの隣に座った少女がクスリと微笑む。
少女はソファーから立ち上がると少年の隣に移動し、彼の肩に頭をぽすん、と収める。
「ワタクシ、一夜で彼の虜になってしまいました。彼が求めてくれるのでしたら、私は彼の伴侶として、この身を捧げます」
そう語り、うるんだ瞳で少年を見上げれば、少年はもう完全に覚悟を済ませた男の顔になっていた。
シャビドは頭を抱えそうになったが、もうどうにでもなーれ、と少年についてのあれやこれやをすべて投げ捨てた。
「わかった。好きにしてくれ。今まで住んでいた部屋も好きに使っていい。彼女がそばにいる限り、家賃の心配もいらない。楽しく、学校生活を送ってくれ」
「ワタクシもあなたの学校に転校するわ。一緒に楽しい学園生活を送りましょう」
それから和気あいあいと乳繰り合い始めた少年と少女を「見てられない」と部屋に残し、シャビドは近くの漫画喫茶に避難するのだった。
この時を振り返れば、シャビドはもっと敵について考えるべきだった。
シャビドネットワークにハッキングができる敵が存在している中で、そのネットワーク上に敵に対抗しうる情報を流すべきではなかった。シャビードローン達と共有すべきではなかったのだ。
もしやるならば、完全に隔離されたネットワーク上で、対ローグ・プラウラドローンに関する研究をするべきだった。
すべての情報が共有されるシャビドネットーワークにおいて、どこか一か所にでも穴があけられれば、ほぼすべての情報にアクセスできるという恐ろしい欠点に、彼らはこの時、気が付いていなかった。
そのツケを、彼らはその数時間後に支払うことになった。
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