第11話


 約一年近くの時間をワープして、元々いたリージョンから隣の隣のリージョンへとたどり着いたシャビードローン達。国が管理するジャンプゲートを使うか、ジャンプドライブ技術を手に入れれば、一月もせずにたどり着ける距離であるが、シャビードローン達にはまだその技術もないため、時間がかかるのは仕方が無かった。例えるならば、高速道路を使わずに、ずーと下道で移動しているようなものだ。


 ワープで飛んでいる期間中は技術研究に費やし、いくつかの兵器をコピーすることと、熱反応装甲の開発が完了した。そして探索ドローンの改良も行いつつ、今後のメイン武器となる兵器の算定もある程度進んできた。

 

「ラムアタック艦隊はそれなりの戦果を出せる。だから、これは今後も残しておきたい。問題は大型艦に対する打撃力が無いことだ」

『あのビーム兵器は継続力はあるけど、瞬発力が無いからね』

『堅い船で後続にサポート艦が居たりすると、こちらが攻撃を開始してから回復されちゃうもんね』

「そうだ。だから、大型艦に対して、一撃である程度のダメージを与えられる兵器が必要になる」

『レールガンとかブラスターガンはどうですか?』

「弾を作るのが難しいのと、電気が必要になる」

『ミサイルも作るのが大変じゃないですか?』

「ラムアタックドローンが実質ミサイルみたいなものだから」

『なら、大砲でラムアタックドローンを打ちだしたらどうですか? 発射後の方向転換と戻ってくるくらいの燃料だけ詰めれば良くなるので、推進機も小さくできますよ』

「おお! それは中々良い案じゃないか?」

『さっそく検討に入ってみますね』


 そうした武装の研究の他にも、シャビードローンについての研究も少しばかり進めた。

 シャビードローンが持つ不思議な炉のことを私はマジカル炉と呼んでいる。これは電力を消費して、様々な鉱石やスクラップを溶かすことが出来る。そして溶かした後の金属に色々な特性を付与できる。特性の付与についてはできるモノとできないモノがあり、明確にあれはオッケー、これはダメという判断ができない。未だに法則性を見つけられていないからだ。

 ただ、溶かす物品の配合によって特性の付与に掛かる成功率が変わったりすることはわかった。この配合割合を見つけられれば、その特性が付与された金属を延々と作り続けることが出来る。

 現在のシャビードローンの炉は『衝撃や熱を受けると発電する金属』を作り続けている。この金属で船体を作れば、攻撃されることで発電が可能になる。そこで出来た電気をアーマー修復機能などに回せば、攻撃されても延々と回復し続ける無敵の船が出来上がる。まぁ、実際にはそう簡単にいくとは思えないが、理想はそんな船を目指している。

 

「しかし、前回のローグドローンの旗艦級からジャンプドライブ装置が手にはいらなかったのは本当に悔やまれる。あれさえ手に入っていれば地球まで行けたのに」

『ジャンプドライブ装置は旗艦級にしか基本的に搭載されませんからね。次の機会はそうそう簡単には巡ってこないかもしれません』

『ローグドローンはすごく警戒して巣に引き籠るだろうし、プラウラドローンも似たような感じで行動に慎重性が増すかもね』


 どちらにしても、当分は地球へ向かうというミッションの遂行は難しいようだ。


「仕方がない。着実に戦力増強をして、ジャンプゲートを取り込む方向に進もう。チャンスがあれば旗艦級を撃破する方向でいこう」

『では、このリージョンで我々の拠点となるべき恒星系を探しにいきましょうか』


 索敵ドローンを展開し、拠点となりえる恒星系を探す。これには膨大な数のドローンを投入しても数カ月を要した。人海戦術ならぬ、ドローン戦術を駆使して見つけた恒星系への移動に再びワープを使用し、実際に拠点となる恒星系に到着したのはさらに数か月の時間を要した。

 シャビードローン、ローグドローン、そしてブランクブレインの三つ巴の戦闘から一年と半年。漸くシャビードローンと私は新天地にたどり着いた。


「ここをキャンプ地とする!」

『一大拠点を作りましょう!』

『これだけの資源があれば、ダイソン球が作れますよ! そしたら、炉の稼働率を限界まで高めることができます!』

『ガス惑星もあるし、岩石惑星もあるし、氷の惑星もあるし、一通り全種類の材料は集められそうですね』


 とりあえずは、恒星系をぐるぐると回っている大量の小惑星群に船を止める。それから色々な設備をめちゃくちゃにくっ付けてデカくなっていた船体から、次々と設備を分離し、小惑星にくっ付けていく。さらにその小惑星同士を接続し、ドンドンと大きくしていた。

 

「敢えて惑星上に降りず、小惑星帯に拠点を作る理由は?」

『惑星の重力が強すぎて、一度降りると重力圏を脱出する燃料が膨大になります。まず小惑星帯に工場を作って、そこで活動に必要な最低限のものをつくる。それから惑星上に必要となる設備を作って、さらにガス惑星から燃料の原料を持ってきて、軌道エレベーターの建造に着手。そこまでやって、ようやく惑星上で本格的な物資の製造に入ります』

「先は長い……」

『一年くらいで出来ると思いますよ?』


 ここ最近のシャビードローン達の進歩が著しくて、もう私は必要なんじゃないかと思う。勝手に進化して、勝手に色々最適化してくれて助かる。手間のかからないお利口な子たちだ。


「おおー。小惑星同士をくっつけて、大きくしていくのか。上手くくっつくもんだな」

『元々シャビードローンの船の核には小惑星を使っていましたからね。それと、今回から小惑星帯の電力は試作の電力供給支援艦から給電するようにします』

「その理由は?」

『太陽光パネルを敷き詰めると、工場の拡張が邪魔になりますし、細かい小惑星がぶつかって壊れてしまうからです。電力供給支援艦のテストも兼ねます』


 そうこうしているうちに、ドローン母艦の一つから電力供給艦の試作機が発艦した。大きさは人類側の船でいう戦艦クラス。この船は最新の熱を受けると発電する金属で船体が作られており、さらにシールド防御艦でもある。


「……シールド防御したら攻撃を船体で受ける事はなくなるから、発電しないのでは?」

『発電パネルを広げなくても船体だけで発電できるのが取り柄です。あと、シールド防御はレーザー兵器には有効ですが、実弾系とミサイルなどの爆発、衝撃系の攻撃には弱いです』

『それに電力支援艦の炉は鉱石は溶かせませんが、代わりに自然発電します』

「えぇ……鉱石溶かす機能を封じたら発電し始めるとか、マジカル炉すぎる」

『我々も初めて知りました。こんな機能があったんですね』

『自分のことなのに、今まで全然知りませんでした。これも主様の知識のおかげです』

「私、何も言ってないんだけれど」

『これで、我々の中でも役割分担が出来るようになりました』

『今まで溶かす炉ばかりあり過ぎて、採掘速度と発電量が追いついていないことが多々ありましたけれど、これで発電にも回せるようになりましたので、上手くバランスが取れます』

『一基で戦艦程度の大きさの船の電力は賄えますので、人類側の船を真似て艦隊が作れます』

『空母クラスなら5基程でいけますね』

「今のシャビードローンはどれだけ集まったの?」

『もうすぐ1000基です』

『遠方からワープで飛んで来ている子も含めたら2500基くらいなるよ』

「……君たち一人で何機のドローンが操作できるんだっけ?」

『簡単なのなら1000機くらい? 細かく動かすなら300機とかかな』

『採掘系なら1000機は余裕だよ。戦闘なら半分はイケる』

「少なく見積もって一人300機ドローンが操れるとして、現時点で30万機か。もう人類に勝てるんじゃない?」

『小さなコロニーくらいでしたら物量で攻め落とせると思いますよ。大きなコロニーだと防衛施設で接近前に大半が潰されてしまうので、無理だと思います』

『大きなコロニーを潰すなら、この前の旗艦級の全身を装甲で覆って突っ込ませて、近くで自爆させるくらいでないと難しい』

「はえー。宇宙の軍隊強すぎ。まだまだジャンプドライブを手にいれるのは先になりそうだ」


 そんな話をしているうちに、電力支援艦が小惑星群の工場へと電力を供給し始めた。電力が伝わると工場に光が灯り稼働が始まる。それと同時に採掘ドローンがせっせと鉱石を工場へと運び始めた。

 骨組みと、最低限の天井や壁だけで囲われた工場で鉱石が溶かされ、次々と素材の基が生み出されていく。

 一つ目の工場で作られた製品は、そのまま宇宙空間にポンと飛び出し、そのまま慣性に従って別の小惑星上に作られた工場の投入口へ入っていく。


「おー。ベルトコンベアー要らずだな」

『小惑星に推進機を取り付けて制御してますから、この程度は造作もありません』

『今の旗艦に搭載されている設備の大半を小惑星と惑星上に移動します。旗艦に搭載する工場群は修復用を多めに作りましょう』

「被弾してもその場で治せるようにか?」

『撃墜した船を溶かしてその場で装甲や弾薬などを作れたらいいかと思いまして』

「敵からしてみればたまったものじゃないな」


 倒された味方が取り込まれ、武器に生まれ変わって牙を剥いてくる。うーん。B級映画に出て来そうな理不尽な敵だ。


 こうしてシャビードローン達は人類のあずかり知らぬ辺境で、目覚ましい発展を遂げていった。

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