第12話


『敵情視察をお願いします』

「え?」


 そんなシャビードローンの訴えがあり、私は一隻のフリゲート艦に詰め込まれ、敵対勢力である人類のコロニーへと向かっていた。

 コックピットシートに座りながら、自身の体を確認する。船内のカメラに映し出された己の映像はどこからどうみても人間にしか見えない。違和感があるのは、首筋に備わったソケットの接続口くらいで、それ以外はほぼ生身の人間同様だ。

 もちろん、人間同様なのは外側だけであり、中身は全身サイボーグ化されている。脳みそには縮小した小型マジカル炉が入っている。

 そう。私の本体とも言えるマジカル炉が脳みそに入っている。

 一体どうゆう事なんだと色々言いたいことは様々だが、このシャビードローンの核というものが、マジカルな要素で出来ていることは確定した。

 溶かした金属に属性付与できる時点でチートでマジカルな炉だったので今更感はあるけれど、それでもこれほど理不尽な、物理法則やらいろいろな事象を無視した代物であるとは思わなかった。

 元々は身の丈3mはありそうな巨大な溶鉱炉が基準というか、標準的なシャビードローンの炉だ。これをバラバラに分解していくと、どういうわけかコーヒーカップ並みに小さく組みなおすことが出来る。もうこの時点でおかしいのだが、それは無視しよう。もちろん多数の部品が余るのだが、まぁそれもこの際は無い事にしておこう。

 さて、この小さく組み直したコーヒーカップサイズのマジカル炉であるが、性能は元々の大きさの炉と変わりなく発揮する。

 お分かりいただけただろうか。最初は全く意味が分からなかった。

 普通、小さくしたら性能が落ちる気がするのだが、そうはならないのがシャビードローン搭載のチートマジカル炉である。

 大きくても小さくても、鉱石を溶かす炉として使わなければ、自然発電で戦艦一隻分くらいの電力を生み出すマジカル炉。そんなチート的なマジカル炉が私の頭には埋め込まれている。戦艦一隻分という有り余る電力によって、私のサイボーグ化された肉体は超スペックを誇る。

 もうこの際、このマジカル炉については考えないようにしたほうが良いかもしれない。魔法的要素たっぷりの不思議な核とでも思っておこう。

 CPU兼発電機兼心臓なのがマジカル炉だとご理解いただければ幸いである。

 さて、そんな不思議チートなマジカル炉を積んだこのサイボーグ体であるが、元々は戦場で拿捕した船の乗組員だ。可哀想な事にこの体の素体となった彼女は、シャビードローンに生皮を剥され、脳みそを取り出され、体中を弄ばれた末に私用の義体に作り替えられてしまった。

 まだ十代の半ばとも思われるみずみずしいお肌や艶のある髪。

 船内のモニターに映し出される、それなりに整った容姿を見て「ああ。まだまだこの先の人生を歩むはずだった幼い少女の命を刈り取ってしまった」などと少々感傷に浸ってしまうのも仕方のない事だろう。

 人の命を奪っておいてなんだが、図らずしてTS転生というものを疑似体験して、ちょっとばかりテンションが高まってしまったのは見逃して欲しい。


 仕方ないじゃないか。

 元はむさくるしい男なんだもの。

 自分が美少女に生まれ変わったりしたら嬉しいでしょ?


 とにもかくにも、シャビードローン達から伝えられたのは「人間に擬態してコロニーの中の様子を見てきて欲しい。ついでに色々情報を買ってきて」というものだった。

 インターネットに接続して情報は得られていたし、わざわざ危険を犯してまで人類種の生活圏に紛れ込む必要があるのか疑問に思ったのだが、シャビードローン的には非常に重要なことらしい。


『まず一つ。我々シャビードローンと呼ばれる種族は、人類上の大分類として機械知性体という認識をされているようです。ですが、我々は機械知性体程の知力を有していません』

『そのため、インターネットに接続して閲覧をすることは出来ますが、あくまで一般人が閲覧できる範囲のみです』

『人類種の言う機械知性体や機械生命体というのは、電子の海を泳ぐ情報生命体のことです』

「よくわからないが、シャビードローン達にはインターネット上で出来ないことがある? ということかな」

『はい。我々はネットの海に潜ることは出来ません。ですので、ハッキングや情報の改ざんなどが出来ません。閲覧制限の掛かった情報にアクセスするには人類種同様、IDやパスワードなどの情報が必要になります』

『それらの情報を得るためには人類種に紛れ込み、電子的な要素ではない方法で得るしかありません』

「うーん……物理的に盗んでくるとか?」

『そうです。もしくは金銭などによる買収です』

『ハニートラップも可』

「可じゃないんだわ。嫌だよ。野郎とセクロスなんて絶対にイヤ!」

『百合というものがあると我々は理解し』

「ちょっと黙ってて」

『これらは我々シャビードローンでは不可能な事です』

『主様のように人類的思考力が無いと不可能です』

『肉体もないと無理です』

『ですので、主様に是非ともお願いしたい』

『ですです』

『お願いします。もっと情報が欲しいので、アクセス権を探してきてください!』

『何でもいいです!』


 他にも色々あるのだが、一番大きなのは情報収集だ。特に、通常の閲覧ではたどり着けない、会員制の様々なサイトへのアクセス権を得たい。

 最も簡単な情報収集は各種組合への登録や、有料サイトなどでの会員登録などがある。この辺りは自主的に動けば登録が可能なものばかりだ。もちろん、インターネット上でも登録手続きは可能なのだが、その際の本人認証がシャビードローン達では突破出来なかった。


会員サイト<あなたはロボットですか?>

シャビードローン『ぐぬぬ』


 こんな感じで、認証が突破できなかったらしい。ホント、良く分からない奴らだ。

 私が全部ポチポチして登録しても良かったのだが、どちらにしても生態認証などが必要なサイトや、本人が出向かないと登録できないようなサイトもあったので、最初から義体作成という話になったらしい。

 そこまでの思考が出来るのに、なぜ<あなたはロボットですか?>認証を突破出来ないのか理解に苦しむ。


「まあいいや。あまり考えても仕方ない。考え出したら、そもそも、シャビードローンってなんだよって話になるし」


 右手と左手の手の甲の皮膚を突き破って飛び出してくる隠しレーザー兵器の稼働状態を確かめたりしつつも船を走らせる。

 人類種のコロニーの位置は索敵ドローンにより把握しているため、そちらに真っすぐ飛ぶだけの簡単な操縦だ。そのため初めて生身の手と足で機体を操縦しているが、どうにかなっている。


「不安でもあるが、楽しみでもあるな……」


 こちらの世界に飛ばされて、突然自分の体がシャビードローンなどという不思議な存在になってしまうという体験をしたが、どうにか生きてこれた。いや、これを生きていると言えるのかどうかは定かではないが……。

 とにもかくにも、初めて人と触れ合うことが出来るかもしれない。


 私は不安と、少しばかりの機体を胸に抱き、仄かに光り輝く姿が見え始めた巨大なコロニーを目指す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る