第17話


 このSFゲーム『とにかくおおきい大銀河』の中には、ちゃんと地球モデルが作られている。ただ、ゲーム内で地球にたどり着く方法はかなり困難であり、実際に多数の者達が挑戦したが、多くの者は途中で諦めたり失敗したりした。

 というのも、まずゲームスタート地点からみると、地球の位置が銀河の反対側に位置する事。単純にジャンプゲートを使っても、リアル時間で数カ月は必要なことがあげられる。

 もう一つの理由は、地球を手中に収めている国家とスタート地点の所属国家が常時戦争中であり、こちらの船で地球に近づくと、どこのコロニーにも着艦できず、常に軍や警察から追われ続けることにある。

 それでも奇特なゲーマーがどうにかして地球にたどり着き、スナップショットを撮ってくることもあったが、それは本物と遜色がない素晴らしい再現性だったという。ISSもちゃんと周回軌道上にあり、ゲーム開発者の拘りを垣間見たという。他にも月、火星、木星なども望遠鏡で見るのと全く同じ様子だった。

 そのようなネット情報もあり、私は地球帰還に大層心が躍っていた。

 シャビードローンなどという謎の種族に転生? してしまったことは別にして、ゲームだと思っていた世界が現実っぽく、その現実っぽい世界に現実のような地球が存在しているという事象は、自分がいたであろう地球に帰れる、という希望を抱くには十分だった。


「もし本当に自分が地球に帰れたとしても、この姿ではどうしようもないけれど……」

『姿形など、サイボーグ化でどうにでもなります』

『そうですそうです。お家に帰って、写真の一枚でも持ってきていただければ、それに合わせて複製できます』

『女体化も股間の息子の巨大化も可!』

「いや、そういう身体改造はいいから。どこでそういうの覚えたの?」


 どちらにしても、地球に辿りつけたら考えればいい。なんなら、地球人にとって初めての宇宙人との邂逅となる場合は、私が表舞台に立っても良い。そして地球に家を構えてのんびり余生を過ごせたらいい。

 とにもかくにも、地球は自分の生まれ故郷で在り、その場所が存在しているならば、自分はそこに帰らなければいけない。

 帰る手段は問わない。

 どれほどの犠牲を払おうとも。


「これさ。私達がジャンプして地球に近づくと、人類種も後を追ってきたりしないか?」

『すると思いますよ。今のところ、ジャンプ金属の起動には我々の炉が1000機は必要になりますから、旗艦級の船舶が必要になります』


 ジャンプ金属。

 シャビードローンが開発した周辺宙域まるごと別空間にジャンプする機能をもった物体。ジャンプするためにはジャンプ先での座標指定と膨大な電力が必要となる。


「全員で地球にいくとしたら、旗艦級10隻か。間違いなく目立つな」

『それだけの質量が動いたら、どうやっても誤魔化せません。確実に座標を特定されますし、補足されます』

『いっそのこと、ジャンプゲートを襲撃しながら、後を辿れないように破壊工作しつつ移動したらどうですか?』

「いやいや。ジャンプゲートはめちゃくちゃ防御が固くて無理だって話になってたじゃん」

『それはワープアタックが無い場合です。あと数カ月もすれば、コンデンサ金属も出来上がって、それが出来ればジャンプアタックも可能になります』

「待って。聞いてない話が出てきたんだけど。コンデンサ金属? ジャンプアタック?」

『電気を一時的に貯める金属です。これをジャンプ金属と組み合わせて、小惑星に取りつけ、ジャンプゲートの座標にジャンプさせます』

『相手は死ぬ』

『コロニーやジャンプゲート周辺はワープ妨害装置はついているけれど、ジャンプはジャンプ先から座標を送るので、ステルス観測ドローンをジャンプ先の座標に指定しちゃえば妨害装置を無視してジャンプ可能です』

『爆散四散』


 知らないうちにジャンプ機能について随分と勉強をなさっていたシャビードローンから詳細を聞いた。

 ジャンプはこちらから飛ぶのではなく、引っ張ってもらう必要があるとは聞いていたが、そうか。ステルスドローンと組み合わせれば、そういう使い方も出来るようになるのか。


『我々はリアルタイムですべての個が情報共有できます』

『ですので、観測ドローンがいる地点であれば、こちらから問答無用でジャンプすることができます』

「ということは……例えば、ジャンプゲート周辺の防衛艦隊を無力化して、ゲートを占拠しながら地球に行くことも可能なのか?」

『可能か不可能かの二択ならば、可能です。ただ、一度やり始めてしまうと、もう止まれなくなります』

『次から次へと敵が訪れるでしょうね』

『地球に到着するころには、全人類vsシャビードローンという構図が出来上がっているかも?』

「ダメじゃん」

『はい。この拠点であれば迎え撃つことも可能かもしれませんが、地球が存在する恒星系において、全人類の艦隊を迎え撃つことは不可能です』

「バレないように飛んでいけないか?」

『そうなると、ジャンプ先に観測ドローンを送る必要がありますが、その観測ドローンをジャンプして飛ばす座標がありません』

「ワープで飛んでもらうのは?」

『一つのジャンプ先までワープで数カ月必要です。地球までワープで飛びながら座標を指定していたら、百年以上かかりますが、どうですか?』

『それなら最初からみんなでワープで百年掛けて飛んだ方が良いですよ』

「……鶏が先か、卵が先かみたいな話になってきたな」

『……あまりおすすめしたくありませんが、解決先はあります』

「ほう。それはなんだ?」


 シャビードローン達がざわざわとした心情を伝えてきた。


『主様が義体に乗り込み、旅行者等を装ってジャンプゲートを使い移動。ジャンプ先の宙域で座標を調べ、単身で地球に向かっていただく事です』

「……座標をどうやって君たちに伝えればいい?」

『我々のネットワークに距離はありません。主様と一度接続した我々は、主様がどれほど離れていても、瞬時にデータのやり取りができます』

『もし何かあっても、主様の元にジャンプで飛んでいけるため、主様の身の安全は、前回の情報収集よりも安全だと言えます』

『ただし、一度我々がジャンプで姿をみせてしまえば、人類と敵対する可能性が非常に高いです』

『その後逃げ切るのも結構大変カモ?』

『でも、ジャンプして主様を助けて、またジャンプして拠点に戻って来れれば、負けはしないかな』

『この恒星系で防衛ならまず負けないよ!』


 人類のジャンプゲートを使って座標を得ていく。なるほど。ワープで数カ月飛ぶよりも断然早い。そしてもし失敗しても、ジャンプでここまで戻ってこれるなら、やり直しすることも可能と言えば可能か。ダメなら100年掛けてワープするという手もある。


「その方法が座標を得るのに確実で、かつ地球に戻れる時間を早められるなら、やろう」

『では、我々はジャンプゲートの使用に関する人類種のルールについてネットで調べます』

『新しい義体を製造しますね。ご要望があればお聞きします』

『最近手に入れた新作の人皮はお肌のツヤが良いので、いい出来になりますよ?』

「……おっさんは嫌だ、とだけ伝えおこう」


 すまない。若い美空の君たちよ。君たちの皮は我々シャビードローンが有効に活用するからコロニーの陰で泣かないでくれ。


『主様に万が一の時はすぐに駆け付けられるよう、全員分の旗艦を用意しましょう』

『拠点の防衛網も強化しておこう』

『近隣宙域に密にステルス観測ドローンを設置しましょう』

『それなら、別の恒星系でもダイソン球の建造を開始しましょう。エネルギーは多いに越したことはありません』

『どうせなら全部同時並行で進めればよいですよ』

『ドローンの数なら足りてますからね』

『なにせ、仲間が一万機以上も集まりましたから』


 こうしてシャビードローン達は活気づき、彼らの主は人の姿に偽装し人類種に近づくのだった。



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