第16話

 ネット上のニュースサイトでは凄惨な映像が映し出されていた。


『ご覧ください! 中央に位置するメインシャフトが破壊されてしまったジンレオのコロニーです。現在、帝国艦隊が救助作業を実施中です。生存者から話を聞くと、ローグドローンが突然ワープして現れ攻撃を受けたということです』

『ローグドローンの残骸と思われる物体です。また複数の残骸からはプラウラドローンの特徴を持つ残骸も見つかり、政府はローグドローンとプラウラドローンの同時攻撃の可能性もあるという見解を――』

『ローグドローンの攻撃性が非常に高まっており、積極的に活動範囲を広げている傾向がみられます。最新の安全航路を確認し、船舶保険の加入を――』

『一年半以上続く隣国との戦闘に帝国経済は疲弊しているなかで、今回の敵性ドローンの活性化。これは隣国が引き起こした行為だと言う話も持ち上がり――』


 目まぐるしく移り変わる様々な情報源には総じて”プラウラドローン”と”ローグドローン”の文字が踊る。逆にシャビードローンという文字はほとんど見受けられない。作戦が成功しているのは間違いなかった。


「よしよし。これで人類は無関係なプラウラとローグに夢中になってくれるはずだ。その隙に私達はせっせと戦力を貯めていこう」

『主様の計略は素晴らしいモノです! 我々の英知の結晶!』

『観測ドローンによりプラウラとローグが大慌てしている様子が手に取るように分かります』

『今まで僕たちを散々馬鹿にしてきたのに、今では僕たちが彼らを馬鹿に出来ている』

『ねえ。あのさー』

『ワープが気軽に使えるから、隣の恒星系にまで素材集めに行けるようになりますから、工場をもっと拡大も出来ます』

『ただ、どうしても我々の工場は大雑把で、まだまだ精度的には稚拙なんだよね』

『ロボットアームは作れても、その操作がねー』

『全部手動だからねー。どうしてもムラが出るよね』

『プログラムを走らせるにも、そもそもの設計が難しいしね』

『全部ネットで拾ってきたり、拿捕したものを解析しただけだからね』

『あのさー!』


 わいのわいのと騒ぐシャビードローン達を、一つの声が遮った。


『なに?』

『ワープできる金属が作れるならさー』

「うん? 何かいい付与出来る特性がある?」


 そのシャビードローンはあまり見た事のない作りをしていて、どうやらかなり遠くからこちらに合流してくれた個体のようだった。珍しい事に、プラウラドローンと一緒に行動していたと話してくれたのを覚えている。だから船の形がちょっとプラウラドローンに似ているのかもしれない。


『ワープが付与できるならさー。ジャンプも付与できるんじゃないのー? ご主人様はジャンプドライブ装置を探しているんだよねー?』


 その発言に、まるで時が止まったかのような静けさが辺りを包んだ。もちろん、真空中なので最初から無音なのだが。

 

「……できるの……か?」

『……いける、気がする』

『これは! 盲点! 我々に盲点はないけれど!』

『レンズだからねー』

『はい! はいはいはいはい! これから試作やりまーす!』

『すごい、なんだろう、とても、いけるきがしてくる!』


 急激にテンションが高まり、語彙力が無くなるシャビードローン達。この高まり具合は初期のシャビードローンメンバーだ。ネットに毒され過ぎて、かなり個々の人格が定まってきたような気がする。


「え、ええー。なんか色々予定が狂うんだけど。これ、地球にいけちゃう?」

『おそらく、数カ月ほどでそれなりの代物が出来ると思います』

『たぶん、付与は出来る。でもそれを制御する条件付けに結構時間が必要かも?』

『ジャンプ先の座標がどうなるか分からない。ブラックホールとかあったらお陀仏』

『なむなむ』

「それは困るな。何かいい方法を考えないと……。あ。そうだ。さっきの子。ありがとう。すごく名案だよ」

『どうもー。あと、使えるか分からないけれどー、プラウラドローン達が持っている大きなお舟にもジャンプドライブ装置がついていたよー。それで飛んでいく時は、人間が使っていた座標を使っていたよー?』

「人間が使っていた座標?」

『ネットで検索検索ぅー』

『宙域ごとにジャンプドライブ搭載艦が飛んできてもいいように指定座標があるのでしょうか』

『でも、それって人間が使っている座標だから、僕たちが飛んだら周りは敵だらけってことにならない?』

『プラウラドローンが使っているんだから大丈夫じゃないの?』

「良し! みんなでいい方法を探すぞ! 地球に帰れるぞー!」


 シャビードローン達は喜々として素材を溶かし、様々なパターンで特性の付与を試みた。また後々ジャンプドライブ搭載艦を大量生産する可能性も考慮に入れ、ワープで飛べる距離の恒星系に次々と採掘施設を建設。そこからピストン輸送で鉱石等を工場に搬入する流通網を作った。

 規模が拡大すれば人間に見つかる可能性も大きくなったが、可能な限り戦闘を避け、シャビードローンに注目が移ろうとすると、ローグドローンとプラウラドローンのふりをして人類種のコロニーにちょっかいを出し、警戒感を煽る。

 そんなこんなでジャンプドライブ装置の開発に3か月。

 その装置の最適化に5カ月。

 座標の問題が最も難しかったが、これに関しては地道に解決するしかないという結論が出た。


 結果。私の悲願でもある地球帰還は実現する公算が高まった。


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