第7話


「大きくなったなぁ」

『それもこれも、あるじ様のおかげです』

『かんしゃかんげき』

『あざますあざます』


 よくもまぁぶつからないものだ、と感心するほどの密度でドローンが宇宙を飛び回っている。その中央に位置しているのが私の船だ。

 正確に全長を計ったりしていないが、10kmは超えていると思われる。図体はデカくなったが、中身はそれほど変わっておらず、相変わらず鉱石を溶かして色々作る製造工場だ。

 多数のシャビードローンが合流し、その分の炉が増えたことにより、制御できるドローンの数が増えた。その結果、採掘、修理、建造の全てにおいて、効率が倍どころか十数倍は良くなった。また生産ラインについても宇宙人類の採掘艦を手に入れたことにより、かなり高性能な機械の研究が可能となり、当初の製造ラインとは比べ物にならないほど効率化している。


 シャビードローン達による人海戦術と、宇宙人類からの技術模倣により、このバカでかい船が出来上がったというわけだ。

 こちらの世界では旗艦級クラス。ゲーム内ではタイタン級と呼ばれている母艦だ。


「さて。船ができたことだし、私の目的を話そう。私は『地球』という星に行きたい。前に説明した通り、随分と遠い場所にある。ジャンプゲートという国が守っている設備を使っても数カ月は時間がかかる。ワープで飛んで行ったとしたら数百年は必要な距離だ」

『数百年程度なら対した距離ではないと思いますが?』

「君たちの感性だとそうかもしれないけれど、私はなるべく早く地球に戻りたい」

『であるならば、ジャンプゲートを制圧するしかありませんね。それかジャンプゲートを取り込みましょう。そうすれば、自由に他の宙域へジャンプできるようになると思いませんか?』

「取り込む!? その手があったか! ポンちゃん、ナイスアイディア!!」


 あまりの提案に、思わず驚きの声を上げる。大きな船体がブルリと震えた。


『偵察した結果からみると、一番近いジャンプゲートはタユマタンというリージョンになりますね。ただ、今の戦力ではジャンプゲートを制圧するのはかなり難しいかもしれません』


 シャビードローンたちの戦力分析の結果、まだ我々の戦力は不足しているとのこと。その理由としていくつか上がったのが、ラムアタック艦隊が私達の主たる打撃力であることだ。

 

『巡洋艦までの艦種であれば、ラムアタックドローンによる飽和攻撃でかなりの効果が出ると思います。ただ巡洋戦艦や戦艦クラスになると、有効打が少なくなるかと思います』

『当然、それ以上の艦種には全く効果がないかも』

「やっぱり戦艦級は堅いかなぁ」

『ラムアタックドローンを戦艦並みに大きくするのも手ですが、動きが鈍ります。対戦艦用のラムアタックドローンを用意するのは、それ自体がコストに見合いません』

『突っ込ませるよりも、武器つけて戦わせた方が強いよ』

『ドリル戦艦を作ろう』

「最後の意見は却下だ。となると、普通に戦艦並みに攻撃力のあるドローン艦を作った方が良いか」

『そうなりますね。我々シャビードローン強みとして、電力に余裕がある事が上げられますので、強力なレーザー艦を建造するなどした方が良いかもしれません』


 私はそこで少し考える。自分の体に意識を向けて、レーザー兵器の製造ラインを見てみた。

 正直、レーザー兵器の製造はかなり手間取っている。理由としてレーザー兵器の製造は鉱石を溶かして固めるだけとはいかず、生産工程が複雑だからだ。また、細かな電子部品の製造も必要になり、私自身がどうやってこれを成しているのか良く理解できていない。

 だからなのか、あいまいなまま何となくレーザーが打てるレーザー兵器が出来ている。精度は良くない。時々壊れる。命中率も悪い。何もかもが中途半端な粗悪品レーザー兵器だ。

 運用方法としては防御を固めて接近戦に挑むことになる。こうすれば命中率が低かろうが関係なくなる。

 それに現在進行形で壊れた部品を分析し、次の製造に生かすことを繰り返しているので、そのうち品質は改善されるだろう。しばらくすれば普通に遠距離での撃ち合いも出来るようになるだろう。

 

「レーザー兵器の製造拠点を襲撃して工場ごと取り込めば、もっと精密な兵器が作れるようになるかもしれないな」

『そうですね。戦力増強を優先するのもいいかもしれません。レーザーに拘らず、ミサイル工場やレールガン工場なども襲撃してはいかがでしょうか』

「全部モリモリ最強兵器でも作っちゃう? まぁ、それくらい余裕を持ってからジャンプゲート襲撃したほうが良いのかもしれないね」

『はいはい! はーい。意見いいですか?』


 別のシャビードローンが話しかけてきた。


「どうぞどうぞ。ご自由に発言していいよ」

『ローグドローンの連中を取り込むのが手っ取り早いと思いまーす』

『なるほど。それもいいですね』


 ポンちゃんが大きく頷いたのが分かった。


『ローグドローンは質量攻撃兵器を昔からずっと使っていて、その技術力は人間並みと言われています。人間の兵器工場を襲撃するリスクよりも、ローグドローンを取り込んだ方がリスクは低く、また我々の鬱憤も晴れます』

『あいつらきらーい。すぐ威張るもん』

『僕はあいつらに何度も撃沈させられたんだ。だから復讐してやりたい』


 やいのやいのと、ローグドローンに対する怨嗟の声があちこちから響いてきて、頭の中がごちゃごちゃしてきた。


「分かった! わかりました。ならローグドローンを襲撃しよう。そして質量兵器の技術を奪って、それを私たちのメイン武器にしよう。その後、戦力が整ったら人間の兵器工場を襲撃し、さらに戦力増強に勤めよう。この方針でいいかな?」

『賛成!!!』

『では各自、必要な資源の採取と計画立案をよろしく!』


 宿敵ローグドローンを倒せることとなり、シャビードローンたちは喜び勇んで活動を始めた。無数に飛び交う採掘ドローンがせっせと鉱石を母艦に運び込み、炉はいつにもまして熱量を増やしている。半導体製造に関係する化学薬品等はガス惑星から採取し(なんとかガス採掘艦が出来た)、母艦の化学工場で製造している。人間が居住することを考えなくていいので、有毒ガスが発生してもお構いなしだ。途中で爆発して火が付いたら消せばいいし、壊れたら直せばいい。次はもっと良くなる。


 こうして私の体でもある巨大な船を中心にした艦隊が出来上がった。

 対小型艦用にラムアタックドローン艦隊をおよそ二千隻。中型から大型艦を撃滅する為のレーザー搭載艦がおよそ五百隻。それらを収納する空母に該当する超大型艦が五隻だ。

 これが現時点での私の最高戦力になる。


『よし。いざ出陣!』


 号令とともに、無数の索敵ドローンが宙域全体に広がっていく。

 数日掛けて展開した索敵ドローンは、探知した艦船の情報をリアルタイムで送信してくれるため、この宙域内での状況は手に取るように分かる。


 そして索敵を開始してから数週間後。漸く目的のローグドローンを発見した。


「先客がいるみたいだ」

『これは漁夫の利を狙えるかもしれませんね』


 どういう訳か、私が見つけたローグドローンの母艦は多数の傭兵から襲撃を受けており、てんてこ舞いの大騒ぎな様子だ。


「これはチャンスだな! いくぞ!」


 シャビードローン艦隊はワープを開始する。ドゥン、という低い重低音の音と、微細に船体を揺らす周波数が体を包み込む。

 戦場は人類側とドローン側が入り乱れて戦っており、混沌としていた。そんな中へシャビードローンは飛び込んでいく。


「プライマリーターゲットはローグドローン。だけど邪魔してくるなら人間の船も落として良いからね」

『積年の恨み! ここで晴らしてやるー』

『楽しみだー!』


 ラムアタックドローンが先頭を突き進み、その後ろを母艦がついていく。

 湾曲したワープ空間内からは外の星々があっと言う間に素通りしていった。遥か彼方に見えたと思った巨大なリングを持つ惑星が、ぬるぬると隣を抜けていく様は見ていて面白い。

 ワープ先の座標は偵察ドローンから取得しており、うっかり惑星に突っ込んで爆散する心配は無い。

 やはり通信の中継ドローンと偵察ドローンが戦闘の要だったな。優先して増産していて正解だ。情報を制すものは戦いを制す。古事記にも書いてあった気がする。


 そうこうしているうちにワープ速度が落ちてきた。いよいよ戦闘宙域に到達したようだ。


「戦術は特になし! 全艦隊、突撃あるのみ!」

『誰が一番、船を落せるか競争だー!』

『いえー!』


 大いに盛り上がるなか、シャビードローン達は戦闘宙域にワープアウトした。

 ドゥン、という重低音を響かせワープアウトした戦場は、宇宙人類とローグドローンとシャビードローンによる三つ巴のカオス空間に変貌する。

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