第14話
それから3カ月ほど、私は拘束され続けた。
私の体は至る所を弄繰り回されたが、脳みそだけは触られなかった。むしろ、脳みそのせいで私がこれほどまでに長期の拘束をされたとも言えるし、脳みそのおかげで下手に触れられなかったとも言える。
『その全身サイボーグはなんだ! お前の頭には何が入っている! 素直に言わないとバラバラに解剖するぞ!』
そう脅してはくるのだが、どうやら明確に犯罪者と認定されないと、人権を無視した解剖は出来ないようで、私の身体検査は幾度となくレントゲンやスキャンを掛けられる程度に留まっていた。
軍医から始まり、どこぞの企業の研究チームなどが私の頭を見にやってきた。首筋のソケットに色々突っ込まれ、脳みそを覗かれる感覚もあった。だが、何も分からないらしく、皆が揃って首を横に振っていた。
そして最終的には『未確認生命体にアブダクション(拉致)され、何かしらの実験材料とされ放逐された人類種』という扱いになった。
そんなのあるの? と思ったのだが、珍しいけれど時々ある事件だという。
何も分からないけど、害はないと思うからヨシ! という理論の下、私は漸く解放され、しばらく監視付きではあるがコロニー内での自由行動を許可された。さらに生前(元の体)が所持していた預貯金なども手に入れる事が出来たため、コロニー観光に精を出すことにしたのだった。
「この謹慎期間中に色々なところに会員登録しておかないとな」
無料で会員登録できるものにはなるべく登録するようにし、行く先々でお店の会員となるよう申し込みをしていく。さらに出会い系や風俗系など、あまり健全でない方面にも手を伸ばしていく。
実際に対面で会員登録し、怪しい壺を売るアルバイトみたいなことをやりはじめようとした。その時は、私の監視に付いていた兵士の人が現れて、私の指導役という男を捕まえてどこかに連れて行ってしまった。どうやら指名手配犯だったらしい。
去り際に兵士の人から「大人しく仕手色!」と怒られてしまった。
商業組合と傭兵組合というものには登録済みであり、そこでこの体の持ち主の氏名や生年月日などを漸く把握することが出来た。
拘束期間中、うそ発見器を使われても私が氏名などを言えなかったのは、そもそもこの体の持ち主の名前を知らなかったことも原因だ。計らずして、『アブダクションされて人体改造された可哀想な娘』を演じる事が出来てラッキーだった。
「名前はアニーヤ。死亡判定時の年齢は14歳……14かぁ」
14歳で船員として仕事をやらなければいけないような劣悪な生活環境だったのか。それともこの世界では14歳で戦場に出ることが普通にあるのか分からないが、14歳にしてシャビードローンに生皮剥されて殺害されてしまったことについては、本当に申し訳ない。しかもこんな得体のしれない精神体の入れ物に魔改造されてしまっている。今頃コロニーの陰で呪詛でも呟いているかもしれない。
そんなこんなで、謹慎期間中はコロニー内を毎日プラプラと散歩し、手当たり次第に店に突撃しては会員権を得る作業をした。銀行口座なども無数にある支店に突撃しお金を借りまくり、そのお金で高額な年会費を請求される会員資格を取得するなどした。船と自分の体を担保にすることで、結構な額を借りることが出来たので、金の力を使って非合法な情報へのアクセス権なども手に入れる事が出来た。
いやー、コロニーの中で大麻作ったりしちゃってるんだねー。きっと後から私の監視についている怖い方々か、その方からの情報提供を受けたコロニー保安部の職員が、アポなしお宅訪問するかもしれないけれど、運が無かったと思って諦めてくれ。
え? 私は逮捕されないのかって? そこは大丈夫かちゃんと確認済み。閲覧や使用は個人の自由だけど、販売と拡散は違法になるそうだ。知るだけなら罪には問われないとのこと。
計らずして、おとり捜査官的な事をやりつつ、定期的に「素行を見直せ」と監視役から注意喚起を受けつつ過ごす事さらに3カ月。借金の返済期限が迫る直前に私の監視は解かれた。
「正直な所、お前を野放しにするのは気が引けるが、これも規則だからな。背中には気を付けて長生きしろよ。せっかく拾った命なんだ」
「長い間お世話になりました」
強面の兵士のおっさんに見送られ、私はコロニー内の警察署にさよならを告げる。もうここに、この体で来ることはないだろう。
監視が解けたなら、さっさとコロニーからおさらばするに限る。持っている端末に銀行からの通知が無数に届いているため、返済期限を一日でも過ぎたら船を差し押さえられそうだからだ。そうなってしまえば、シャビードローンの元に帰る事も出来なくなる。
私はさっさと係留中の船に乗り込み、さくっとコロニーから出立。しばらく適当な方向に進んでから、シャビードローンの観測ドローンからの信号を受診して、目的地を設定し、ワープ航法で我々の秘密基地へと向かうのだった。
私の後ろを追うように、複数の機影が追ってくることは、もちろん把握済みである。きっとこの船に発信機でも取り付けてあるのだろう。
しめしめ、である。
次の私はどんな見た目になるだろうな。
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