第25話


 地球にある日本国の首相が宇宙から来た一隻の未確認飛行物体とエルフ族の族長との懇談で右往左往しているなか、地球から見れば遥か彼方の木星近辺。ワープ技術のある宇宙民にとっては目と鼻の先で大戦闘が勃発していた。

 今までは地球への干渉を頑なに拒んでいたエルフ族の統括族長であるノージャ・ロゥリーが、ここにきて地球との友好と相互防衛条約の締結など極めて異例な行動に出た。さらに機械知性体の企みを知的生命体に暴露し、直接的な妨害工作まで実施してきた。

 これは機械知性体の予想を上回る出来事であり、彼らは大慌てでブランクブレイン勢の全艦隊に出撃命令を出した。しかし、ブランクブレイン勢の大半はゲームにログインせず、地球で日本国首相とエルフ族のノージャ・ロゥリーが仲良しこよしで会談している様をテレビ中継で見ている。

 機械知性体は未発展惑星の知的生命体が外宇宙から来た知的生命体とのファーストコンタクトというイベントに対してあまりにも軽視しすぎていた。これほどまでに大事になり、殆どのプレイヤーがログインしなくなるとは想像していなかった。

 こうなると、未発展惑星保護条例に違反することなく、地球に手出しができる手駒が使えなくなる。そこで機械知性体は作戦を変更した。


『未発展惑星保護法に違反したエルフ族の統括族長であるノージャ・ロゥリー氏の捕縛、及びその指揮下に存在する艦隊戦力の無力化』


 当初の予定ではブランクブレイン勢を利用し、未発展惑星保護法を逆手にとっての一方的な攻撃によりエルフ族を蹴散らす予定だったが、こうなってしまっては致し方ない。真正面から攻撃を仕掛けるしかなくなった。悪い事に、どこぞのあんぽんたんなブランクブレイン数人が戦艦で地球に突貫を試み、エルフ族の艦隊を刺激したおかげで、防衛側が準備万端で待ち構えているところへの全力突撃である。どれほどの損害が出るのか分かったもんじゃない。

 気乗りしないが、やらなければならない機械知性体と、金を貰っているのでやりたくないが料金分は頑張ろうとする傭兵艦隊は、そうこうしているうちに、木星付近の宙域でドンパチにぎやかに主砲の撃ち合いをはじめる。


 そんな中、ついに地球に降り立ったシャビドは追っ手の艦載機を華麗に撃墜し、まず借りていたアパートを確認しに行った。


「……不審死かー」


 道路にフリゲート艦を路駐し、びっくりして出てきたアパートの住人に聞き込みをした結果、ちょうど自分がこのシャビードローンという種族になった頃に事件が起きたという。誰にも見つけてもらえず、腐乱臭が漂い出してから警察に連絡がいき、死体が発見されたということで、今でも事故物件のまま誰も借り手がいないと言う。

 それを聞いてシャビドはちょっとばかり申し訳ない気持ちになった。

 

『追っ手が追い付いてきますよー』

『どうしますか? そろそろ我々も参戦しますか?』


 シャビドは路駐したフリゲート艦に乗り込み、スマホで動画を取りまくっている住民たちを尻目に空へと飛び立つ。そして、追加で現れたエルフ族の艦載機を的確に叩き落していった。

 市街地に墜落していく艦載機が地表で爆発し、結構な範囲を吹き飛ばしている。


『主様は大気圏内の戦闘の方が得意そうですね』

「そりゃ、生前は飛行機のゲームは結構やってたしね。宇宙船の操船方法よりかはよっぽど分かりやすい。宇宙船はどっちかといえば、ドローンっぽい動きするから」


 シャビドはせっかく日本に帰ってきたのだからと、追っ手の艦載機を追い払いつつ、地球観光を始めた。行く先々で大迷惑をかけるが、そんなことは知らん、とばかりに好き勝手世界中の観光名所を回る。

 SNS上にはシャビドの姿が拡散され、世界中で今一番注目されている人物になった。

 シャビドもただ単に世界旅行をしていただけではない。その間に木星付近で行われている戦闘の情報を得たり、エルフ族と日本国首相の会談を聞いたりと、今後のシャビードローンとしての計画を考えていたのだ。

 たったの数時間であるが、世界数か国を回る旅行を楽しんだ挙句、コックピット内でドイツで買ったビールを飲みながら、シャビドはついに決断をした。


「よし。この太陽系をシャビードローンの本拠地として改造しよう。地球を統治下に収めよう。やっぱり私は地球が好きだし、日本が好きだから、日本のどこかに家建ててそこに住もう」

『わかりましたー。では、移動を開始しますね。今の製造拠点はとりあえず本拠地の稼働が安定するまではそのまま継続使用します』

『拠点から地球までのジャンプ座標は取得済みですから、30分もあれば銀河の端から端まで移動が可能です』

『とりあえず、エルフと機械知性体を殲滅する感じでいきますか?』


 シャビドはそこで少し考えた。


「エルフ族は捕まえよう。魔法には興味あるし。それに地球を守ってくれる側の立場だったんだから、多少なりとも手心を加えてあげてもいいでしょ」


 シャビードローン達はエルフ族の艦隊は捕獲する方向で動き出した。

 既に木星付近の宙域に潜んでいたステルスドローン達が、現在戦闘中の艦艇を囲むような形で移動を開始する。


「じゃあ。ちょうどエルフの代表が国会議事堂にいるっぽいから、私はそっちとお話合いをしてくるよ。適当に戦っておいて」

『やったー! 久しぶりの戦闘だー!』

『相手は機械知性体と機械生命体だ! あいつら嫌い!』

『新しい武器と新しい攻撃方法をいっぱい使って、データ集めしなきゃ!』

『あるじさまー。地球にも行って良いですか? 機械知性体が使っている”ゲーム”とやらも取り込んで解析したいです』

「いいぞ。お前らも地球に来い。シャビードローン達の存在を世界に知らしめるのだ!」


 地球に帰ってきたことにテンションを上げるシャビド。主様の言葉に反応し、喜々としてシャビドジャンプを開始するシャビードローン達。


 ここに三つ巴の戦闘が開始された。


 木星付近で戦闘中の機械知性体及びエルフ族の艦隊は震撼した。

 なぜならば、突然至近距離に超巨大質量がジャンプしてくるという警告を受けたからだ。こんな戦場のど真ん中に現れる巨大質量といったら、旗艦級の存在としか思えない。


『!? 超大型の艦船がジャンプ!? こんな近距離に!?』

『ばかな! どこにもスタンパー艦がいないぞ! 誤作動じゃないのか?』

『もう来てる! なんだこいつ……て、敵性ドローンだ!! 攻撃開始! 攻撃開始!』

『敵旗艦級攻撃開始しました! シールドではじき……』

『2番エルマロー巡洋艦撃沈!!』

『大型砲による質量攻撃です!! シールドが持ちません!』

『敵旗艦数5……7隻です! あ、まだ増えます!』

『5番サンダロー戦艦大破! 航行不可です!』

『副砲はどうなっている! 近接防御は!?』

『妨害電波が強すぎて、敵をロックオンできません!』

『艦載機は!?』

『小型のドローンの体当たりにより、手当たり次第に落とされてます! 既に半数が撃墜されました!』

『何がどーなっている!?』

『味方の戦艦が内部から突然爆ぜたぞ!? どういう攻撃なんだ!』


 突然、四方八方からタコ殴りにされた機械生命体とその戦闘に参加していた傭兵艦隊。そしてエルフ民族の艦隊は慌てつつも的確に敵性ドローンを攻撃し始めた。しかしながら、どういう訳かドローンは機械知性体側に攻撃を集中している。


『ドローンへの攻撃を中止! 当初目標のとおり、機械知性体及び機械生命体並びに傭兵艦隊への攻撃に注力する!』 


 ドローンだろうが何だろうが、味方っぽい奴なら共闘するまでよ! と現場判断で攻撃目標の変更を指示する艦長たち。

 時間と共に防御陣形をとり始めたのは傭兵艦隊であった。船の船首を敵に向ける形で宇宙空間に球形の陣を敷き始める。全方位防御態勢であった。


『シールドを全面に集中! ケツは仲間が守ってくれる!』

『各艦操船システムを連携しろ! 仲間のケツを掘ったやつは帰ってから俺が掘り返してやる!』

『ドローン共は機械野郎ばかり攻撃しやがる! こっちの攻撃目標はどうする?』

『下手に手を出してこっちが狙われるのはごめんだぞ! 最初のデカ物アタックで損耗率が3割超えてんだ!』

『大赤字だ! 俺はもう抜けてぇ!』

『機械野郎共から通達。助けてくれ、だってよ!』

『ざっけんな! こちとらもう料金分以上に戦ってんだよ!』

『損害4割り超えたら逃げるからな! 命あっての傭兵稼業だぜ』


 シャビードローン達は傭兵艦隊と機械知性体等の艦隊を的確に見抜き攻撃を仕掛けていた。

 機械知性体が操る船が巨大なラムアタック大砲ドローンにより一撃必殺で爆沈していくなか、傭兵艦隊やエルフ族の艦隊の被害は非常に軽微で済んでいた。

 それでも、希少で有力なブランクブレイン勢の戦力を持つ機械知性体の艦隊は強く、エルフ族の艦隊の一部が大破等の被害を受けた。

 推進機を壊されたエルフ族の戦艦がフヨフヨと宙域を漂い始める。

 そこへ大砲から打ち出されて、狙いが外れて無傷だった大型のラムアタックドローンが方向転換しながら複数機やってきた。ドローン立は壊れて動けなくなった戦艦にゴンゴンと船体をぶつけて向きを変えると、そのまま寄り添うようにしてシャビードローンの旗艦級へと誘っていく。

 近づいてきたエルフ族の戦艦は超大型船の開いたハッチからやってきた採掘ドローンや整備ドローンに引き渡され、そのまま旗艦級の内部に取り込まれていった。

 取り込んだ戦艦は即座に分解され、中に居た乗員は可能な限り生きたまま外に放り出されシャビードローンが作った”飼育室”に放り込まれていく。船体は炉に入れやすい大きさに切り刻まれ、使える部品はそのまま使い、解析できそうなものは解析に回し、ダメな部分はシャビードローン達の核であるマジカル炉に突っ込まれていく。

 端から見たら、仲間の船が取り込まれたように見えたエルフ族は恐怖した。


『おい! あいつら、仲間の船を取り込んでやがる!』

『ふざけんじゃねぇ! なんなんだあいつらは!』

『敵勢力はシャビードローンと出ました!』

『シャビードローン!? そんな馬鹿な! あいつらにこんな組織的な行動が出来るはずがない!』

『なぜドローン共がこの戦闘に参加するんだ! 機械知性体共の仕業か!?』

『操られてるんじゃないのか!?』

『それにしちゃ、機械知性体側への被害が甚大なようだ』

『こっちは手加減されてるのか!?』

『壊れた船を取り込んでいるのは奴らの習性か?』


 エルフ族達は勝手に色々と勘違いを始めていく。

 だが、それは機械知性体も同じ事で、エルフ族の艦艇以上に容赦なくボコボコに落とされる様に平静を欠いていた。そのあまりの負けっぷりに歴戦の傭兵達ですらも、これはヤバイと次から次へと戦場からワープアウト。

 機微に敏い傭兵共は機械知性体と違い生身の肉体を持つ者が多い。彼らは生存第一で戦っている。死んでもバックアップがある機械知性体や機械生命体とは考え方が違い過ぎた。


 戦況は徐々にエルフ族が有利に傾いていった。そしてその戦場にいる者達は否応なしにシャビードローンの存在を認める事となった。

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