10,その人は和服美人?

フランスはマルセイユのホテルのロビー。


此処で和服は一層目立つ為、周囲を通る外国人は、幾度も彼女に視線が注がれる。


彼女を一言で言うと、和服美人。短い黒髪に、黒い和服。


気品の雰囲気を漂わせている。この異国地で、注目されてもおかしくはない。


しかし、彼女が注目されているのは、見た目だけではないようだ。


少数ではあるのの、富裕層と思われる人物達が、彼女の名前を口にする。


「彼女は、まさかセイコか?」


「あの?まさか」


周囲の声は余所よそに、薫の祖父は「よく来たな」っと、薫に声をかけ彼を労う。


薫は、返答するも生返事もいいところ、彼の視線は、和服美人に向けられていた。それに気付いた彼の祖父は―――、


「ああ、急で言えなくて悪かった。彼女も同席してもらう。彼女は―――」


そう、薫の祖父が促すと、和服の彼女は一枚の名刺を彼に渡す。その名刺には―――、


「黒坂コーポレーション代表黒坂 董吉くろさか とうきちが妻、黒坂 政子くろさか まさこと申します」


~・~・~・~・~・~


株式会社 黒坂コーポレーション


特別顧問兼、執行常務


黒坂  政子 

~・~・~・~・~・~


「黒坂コーポレーション?って、あの大企業の?」


―――たまげた、やっぱりあの予言者だった。


薫が、驚いてもおかしくない。様々な分野で名を知られた日本有数の大企業。


海外のみではあるが、兵器や武器をも取引しており、最近では、自立型の人工知能について話題になっていた。


浅学せんがくの薫でさえ、認知している程、有名なのである。


そんな人物と「何故、祖父が一緒に?」そう顔に書いてあるのに気付いた祖父は―――、


「彼女とは、高校時代の友人でな」


同い年!


薫は、祖父と政子の顔を見比べる。確か、爺ちゃんは60才ぐらい―――。

髭や白髪な分、実年齢よりも高く見えて仕方がない


でも、黒坂さんは、40代って言われても、俺は―――疑わないだろう。到底、同い年とは思えなかった。


自己紹介を終えると、薫と薫の祖父は横並びに政子は、二人の中央向かい側という位置で、ロビーのソファーに腰を掛ける。


「偶然、フランスで再開し、今回の事を話したら、興味があると同席を希望してな」


今回の事?見た目の件は一旦置いとくとして、あの話を本気で?


「未来からの電話にですか?」


薫は不安げな質問に、政子は黙って一度頷く。


「私は夢で、未来を見る事が出来ます。違う目線からご意見をいえるかと―――」


「何より、私自身興味を持ちまして―――」


彼女が「予知夢よちむ」という異能能力を保有する「異能者いのうしゃ」である事は、あまりにも有名な話。


政治家、起業家、投資家、メディアの関係者。彼女の能力にすがる人物が、

あまりにも多かった結果。彼女は個人的に、占い師としての活動も行っており、テレビや雑誌で、特集されていた。


これは、都市伝説界隈では有名な話で、薫はこの手の話に、目がなかった。更に、彼女が此処に来たのも偶然ではないらしい。


政子の話によれば、事は一ヶ月前。とある知り合いにフランスへと呼ばれた。要件は全く関係のない内容だったのだが、分かれ際にこのような事を言ったという。


「―――昔の友人に会うといい。いずれ、息子さんの力になる」


「息子?―――ですか?」


「私には、貴方と同い年の息子がおりまして」


俺と同い年―――。約40才差の親子か。いや、今時珍しいくはないか。

しかし、「いずれ、息子の力になる?」とは、どのような意味なのだろうか?当然ながら、俺とその息子とは面識はない。


彼女も意味は分からず、半信半疑で祖父を尋ねたが、事の経緯を聞くと、この件に一つの疑問が湧いたという。それは―――、


「電話があった日。 何故、一年と一日なのか?」


彼女の能力は、予知夢と言いつつ、過去の出来事を俯瞰して見る事も出来るらしい。但し、夢の中だけの話らしいが―――。


それにより、概ねの俺が体験した事は認知しており、祖父にも事前に話してくれたとか。


説明する手間が省け、大変有難いのだが、その反面、彼女を敵に回すと取り返しのつかない事になりそうだ。


政子は、電話がかかってきた全4回の時刻を白紙の紙に記し、皆が座る中央の机に、その紙を差し出した。


薫も、何かの手がかりになるかと思い、全てのメモ用紙を机に並べる。


~・~・~・~・~・~


1度目 二○〇七年六月十四日 午後五時

2度目 二○〇八年六月十五日 午後四時

3度目 二○〇九年六月十六日 午後三時。

4度目 二○一〇年六月十七日 午後二時。


~・~・~・~・~・~


物の見事に、日にちは一年と一日が経過していた。


「―――いや、それだけじゃない?」


祖父は、時刻が記載された箇所を指さした。


「時間は、1時間ずつ、減っている」


薫のメモには、最初の時刻までの記録も、記憶もなかった。しかし、政子さんのお陰で、はっきりとした規則性が判明した。


「安易な推理だけど、時刻は何かのカウントダウンかな?」


「その可能性は極めて高いな。但し、問題は何のカウントダウンなのか?


「確か、商品を受け取りに来るのは、二〇三八年の六月十九日正午ですよね?」


政子の質問に、薫は「えぇ」っと、返答した。


「六月十九日に、何か心あたりはない?」


政子は薫の祖父に問いかけるも、首を左右に二度振って解答した。


「錬金術と何か関係性あるとか?別に時間と関係なくても―――」


「と、言われてもな―――いや、待てよ」


何かに気付いた薫の祖父は、薫のメモ用紙を手に取る。


「まさか、そんなまさか―――」


驚きを隠せないまま薫の祖父は、自身が愛用している大きなバックパックから、

一つの分厚い本を取り出す。その本のタイトルは―――。


「―――錬金術の仕組みと謎」っと、しるされていた。

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