21,再会?

薫の発言により、

全メンバーの視線が、薫へとそそがれた。


「母さんって、おい」


氷鷹の頬に、冷や汗がつたう。


「確か、薫のお母様は、亡くられた筈だよな?」


和樹の質問に、薫が黙って頷く。


「じゃ、じゃあ、あの人は、ゆ、ゆう―――」


「の、希ちゃん!な、何を馬鹿な事を―――、

 ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ―――だなんて」


「言えて無いっすよ、しゅうさん」


冷静なツッコミを護がした時点で、

薫が母さんと呼んだ人物が此方に、気付く。


それと同時に、薫以外の一同が一歩後退した。


「――――俺、確認してきます」


唯一、後退しなかった薫は、

宣言通り、鹿島商店へと前進する。


「お、おい!か―――」


和樹が無言で氷鷹に視線をやりながら、

左を挙げると、彼は続きの言葉を言うのを辞め、

見守る事にする。


「あ、あの?家に用ですが?」


薫は、他人の空似と判断したのか、

冷静さを保ちつつ、店の前の女性に声をかける。


彼女は薫を「あっ」っと、

薫が聞き取れるぐらいの声を発し、

何かを迷っているかのように、

下を向く。


その女性は、水色の髪で首あたりまで、

髪を一つにまとめていた。

また、山中には相応しくない赤いネクタイを

着用したスーツ姿。


「えっと―――」


薫の困った姿を見て、

「よし!」っと、また小声で、つぶやき。


「あ、あの私、鹿島かしま こうっと言います。

 ―――貴方の娘です!」


「「「「え――――――!」」」」


今度は大声だった為、背後の和樹を除く、

4名の声が重なった。


面倒な事になった。

しかし、彼女が―――そうか、だから。


「あれ?初めて?」


「え?は、はい―――」


和樹さんが、皆を落ち着かせる中、

俺はこうに、過去に行ったやり取りを伝える。


「電話の件、父さん―――。

 あ、“未来”の父さんから聞いてます。

 ただ、6回目の電話については何も」


「成程」


彼女曰く、未来の俺からメモと例の材料を

渡されたのが昨日。


今朝早く、此処へ向かったが、

店は廃墟で途方に暮れるも、

鍵は開いていたので、

室内で荷物の整理をしていたら―――。


「電話が鳴ったので、出た」


「はい!」


「でも、誰も出ず」


「はい」


「取り合えず、外に出たら―――

 俺たちに出くわした」


「はぃ―――」


頼むから、不安にならないでほしい。

確かに、信じ難い事だけど、

あの電話に常識など通用しない事は、

一番俺が、体で実証している。


とはいえ、江の話が事実として、

電話は時間をも越えてしまうのか―――。

ますます、誰がアレを配置したのか、

気になるところではあるが―――。


「概ね、経緯は分かったけど、

 何故に3週間前に?

 まだ、未来は6/19ではなかった筈だけど」


「貰ったメモに―――どうぞ」


そう言って、江は俺に真新しいメモ一枚を渡す。


―――メモか。


トラウマっと言ってしまうと、

少々、言い過ぎだが、あの件で見たくないが、

見ないと話しも、何も進まない。


嫌々ながらも、

俺は、メモ用紙に目を通す事にした。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


すぐに、鹿島商店へ向かう事―――。


店に到着した後、すぐに電話が鳴る、

それに出れば、江は過去へと誘われ、

昔の私に、出会う。


出会った後、“過去”の私と共に、

下記の品モノを鹿島商店で探す事―――。


1、 鹿島商店の名簿リスト

2、 金色の鍵

3、 メモリーコード05


また―――、同行者の黒坂 和樹に、

付属の手紙を渡す事。

※中身は本人以外見てはならない。


上記を達成すれば、

江は元の時間に戻されるが、

過去の記憶は、なくなる。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


「付属の手紙は?」


「これです」


信用されているのは、嬉しいが安易な―――、

俺が約束破って見るかもしれないのに―――。


受け取った紙を見詰めながら、ほほを掻く薫。


「和樹さん」


例のあの本に興味深い一文がある。



規則を破らねば、新たな道は開けず―――。

されど、それは道徳心あればこその道なり。



正直、最初は意味が分からなかった。

いや、今も全部は理解出来てない。


ただ、結果を求めるあまり、

過程を蔑ろにした結果。良かった事は、

自身の経験上、あまりない。


未来の俺が、今の俺の事をどの程度、

信用しているかは分からないが、

和樹さんの信用は、変わっていないようだ。


俺は、メモ用紙の通りに和樹さんへ、

付属の手紙を渡し、事の経緯を説明した。


和樹さんは、少し考えてから、

手紙の内容を黙読する。


すると―――、


「なっ!」


今まで見た事のないくらい驚いていた。


「そうか」


が、すぐにその顔は安らいだ表情を

浮かべていた。


「ありがとう、江さん。

 これを自分に届けてくれて―――」


「い、いえ。私は何も―――」


「君も―――っと、いっても、未来の君へだが、

 感謝するよ。この“恩”は必ず返す」


そんなに重要な事が書いてあったのか―――?

まだ、1ヶ月ぐらいの付き合いだが、

人によく感謝は口にする事はあっても、

恩を口にするようなタイプではないとみていた。


1ヶ月で何を―――。

と、言われてしまうかもだが、

昔から何となく、確信を得た事柄が

外れた事がない。いや―――、


それよりも―――、

やらねばならない事がある。


「さて―――」


俺は腕をまくる仕草をして、

鹿島商店のドアに手をかけた。


「探しモノを探そう」


「は、はい!」


先程までの不安一杯の表情が一変、

満面の笑顔になる江。


うむ、笑顔が母さんと重なる事は、

本人に、言わないでおこう―――。



理由を他のメンバーに話すと、

こころよく捜索に加わってくれる事になる。


しゅうさんと、希ちゃんは、

建物の周囲を―――、

残りのメンバーで、

鹿島商店の室内を模索する。


とは言っても、1つ目と2つ目は、

探す必要がなかった。


1つ目の「鹿島商店の名簿リスト」は、

ここ数年の間は、俺が記載していたモノ。


電話横に、ほこりを被って置いたまま、

数分も経過せずに、江の元へ―――。


ただ、何故名簿なのか?

わざわざ、回収する意味が―――。

あ、いや、今それを考えても埒があかない。


続いて2つ目の「金色の鍵」。

これも心当たりがあった。


爺ちゃんの遺品の中に、

紛れていた事を覚えていた。

ただ、その鍵が何処を開けるモノかまでは、

分からない。


また、頭の部分と言えばいいのか―――、

手で持つ部分が、何かと対になるように、

欠けており、何か文字が彫られているが、

途中で途切れている為、読み取れない。


「Veri」?「acium」?


まぁ、これも“未来”の俺が、

必要であれば―――。


1つ目と同様に、江に金色の鍵を手渡した。

問題は此処からだ―――。



三つ目の探し物「メモリーコード05」。



これが、全くと言って身に覚えがない。

ゲームなどでお馴染なじみな、過去回想を

閲覧する目的のアイテムみたいな名称。


錬金術の素材や、薬の名称にも聞き覚えがない。

仕方がないので、メンバー全員で、

鹿島商店の隅々まで探す事となった。


しかし――――。


「見つからない―――」


「そもそも何で“05”何だ?」


氷鷹の言う通りである。

05があるなら、01から04まで、

規則的にある筈だが―――。


「いや、意味がない可能性もある」


和樹さんが、自身の汗を拭いながら、

薬品棚を開ける。


「意味がない?」


「ああ、うちのサークルっと一緒さ」


和樹さんがこういうのは、

オカルト研究部第七支部の

“第七支部”について―――。


何を隠そう、“第七”とうたっているのにも、

関わらず、その実―――、

第一から第六までの支部は、

―――存在しない。


創設者である、偉大な方々―――、

特に、初代サークル長が、

サークルの名前をつける際、


『沢山あった方が、見栄えがいい!』


という理由から、

今の名称になったという―――。


はい、頭が中学生ですね―――。

因みに、俺は最初に参加した定例会議で、

それを聞いて「くだらな」っと、思った。


「ちょ、ちょっと!みんな来て!」


急にしゅうさんが、店の外から大声で、

呼びかけてきたので、皆一緒に何事かと、

外に飛び出した。


「どうかしましたか?」


「確か、バスで話したのって、

 金髪で、グラサンで、

 季節外れの黒いタートルネックだったよね?」


「えぇ、そうですが―――」


指を震わせながら、彼女は俺たちが

来た道の方角へと指を差す。


「そ、そんな―――」


その方角には、見覚えがある

“金髪の大男”が、ゆっくりと此方へ

接近してくるのであった。

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