6Ⅰ9~4回目の黒電話~(仮)

笹丸一騎

【島根編】

1章【確認】

01,1度目

二○〇七年六月十四日 午後五時。


6月中旬―――。

店の外では雨音が激しく、今帰路につくには面倒な状況だ。


まあ、しばらくは帰る予定はないのだが―――。


「前に来た客、いつ来たっけ?」


祖父の道楽で営むこの店は、利益を度外視した経営方針。

その結果、客が来るのは、週に1名来店すれば多い程。



―――そう、つまり!この店は「暇!」なのである。



それなのに、俺が此処でバイトをしている理由。それはそこらのバイトより、遥かに金額面で優遇されている事と、業務内容は、ほぼ座っているだけ。


高校一年生の俺にとって、このバイトを辞める理由など一つもない!


しかし、道楽とはいえ、祖父は一体何処から俺のバイト代と、店の維持費を捻出ねんしゅつしているのやら―――。


母の話だと、昔はとある界隈で有名な人物だった聞いた事がある。だが、俺の周囲に、祖父を知っている者はいない。


そもそも、祖父は今、日本にいないのだから、当たり前か。


「ふぁ―――あ、ホント暇だ」


欠伸あくびをつきながら、背筋を伸ばし、そのまま椅子にもたれ掛かり、

シミが目立つ汚い天井を見上げる。


この仕事の一番の天敵は、客を待ち続けないといけない事である。


「そろそろ、読みかけの本でも読もうかな」


そう思った矢先―――。


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。


急に背後の黒電話が、鳴り始めた。電話が鳴った瞬間、椅子から転げ落ちるも、急いで黒電話の前に立ち心を落ち着かせる。


電話なんて珍しい。だがこれで、暇という苦痛から解き放たれる。俺は、ルンルン気分で電話にでる。



―――それが、悪夢の始まりだとは知らず―――



「はい、鹿島かしま商店です」


祖父と自身の苗字が入った店の名を口にするのだが、電話の向こう側の相手は、

困惑しているようで、なかなか返答が来ない。


鹿島かしま商店?香取かとりではなくて?」


ようやく返答があったが、「香取?」


「はい、うちは鹿島商店ですが」


また、返答が返ってこない。この反応だと、どうやら間違い電話のようだ。


「いえ、いいわ」


はっ何が?いや、よくないだろう。


「明らかに店の名前が違う」みたいな反応しておいて「いいわ」って何!


「そちらは、商品の取り置きをして頂けます?」


「出来ますが、その必要はないと思いますよ―――」


そう説明をするも、相手は此方の言うことを聞かず、商品の名前を言い始めた。仕方がないので、渋々ペンを持ちメモ帳に記載する。


「黄の花を6本、水銀時計を1つ、白華はっかなえを9かぶ―――」


普通の人が聞いたら、「この人、何を言っているの?」っと、思われるだろう。


しかし、俺は躊躇ちゅうちょなく、言われた注文内容をメモ帳に書き留める。


―――そう、この店は普通の商店ではく、「錬金術」の店なのだ。


だから、普段の生活では聞かないような品々を呪文のように、つらつらと言われたところで、此方では何ら問題はない。


「以上ですか?」


一様、商品名を繰り返し確認すると「ええ、お願い」っとすぐ返答が返ってきた。


何か、違和感を感じる。

「では、最後にお客様のお名前を伺って、

 宜しいでしょうか?」


「カミス メイと申します」


随分と珍しい苗字みょうじではある。

俺は、商品を書いたメモ帳の一番下に、

「byカミス メイ」と記した。


「では、ご来店をお待ちしております」


―――チリン。


言い終えた数秒後、電話は切れた。

で、俺が何故いつ取りに来るのか

聞がなかなかったのか―――。


理由は、実に簡単。

いつ来たところで、先程の商品が無くなる事はない。


―――そう、何故ならば、ここは“暇!”だから!


それでも俺は念の為、言われた品物を黒電話の横にある棚の中に、

メモしたページを破いて一緒に置く。


それにしても、客が滅多に訪れないのに取り置きって―――。


それに数少ない。いや、少ないってもんじゃない。此処は、島根にある唯一の錬金術の店だ。かけ間違える事などあるのだろうか?


「香取って、確か、 母さんの旧姓だったような―――まぁ、いいか」


珍しい出来事で、苦悩したものの、再び、静寂せいじゃくな暇時間が訪れたが為、暇つぶしに持ってきた読みかけの本を手に持ち、読書を読み始めたのだった。

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