03,3度目
二○〇九年六月十六日 午後三時。
「そんな馬鹿な事あるか?」
相も変わらず、誰も居ない静寂な店で一人ぼやく。
彼女は、やはり来なかった。
取り置きしていた品物。
特に植物系は、
また、今回は前回と違う。
2度目のメモに、電話のあった日時を残しておいた。
今日は、二○〇九年六月十六日 午後三時。
前回は、二○〇八年六月十五日 午後四時。
2つの日付の間には、1年と1日が経過している。
丸1年の時間が経過、流石に3度目の電話がくる訳―――。
―――ジリリリリリ、ジリリリリ。
「うッソォ―――」
自身の目を覆い
―――ジリリリリリ、ジリリリリ。
しかし、耳には電話の音が鳴り続け、逃避する事は許されなかった。信じられないが、これは現実。
自分に言い聞かせ、また動揺しないよう深呼吸を一つ付き、俺は渋々電話に出る。
「はい、鹿島商店です」
「鹿島商店?香取ではなくて?」
だが、彼女の言葉を聞いた瞬間。
今まで積もりに積もったストレスが一気に怒りへと転換され、抑えていた想いが、口から漏れだす。
「いいえ、鹿島ですよ。カミス様」
辛うじて敬語を保つも、これは最悪最低の接客だ。
「え!何で私の名前を?」
本気かよ、コイツ。
思わず受話器を耳から離し、罪のない受話器を睨みつける。
「これで、3回目ですよ、カミス メイ様」
「3回目?」
知らぬ振りも、ここまでくると怒りを通り越し、呆れた気持ちになっていく。
そうかよ、もういいよ。
「申し訳御座いませんが、当店は取り置きを行っておりませんので、別の店にてご注文下さい」
「ちょ、ちょっと、ま―――」
―――チリン。
電話の受話器を置き、強制的に会話を終了させた。結局、彼女は何がしたかったのか―――。
『3回目?』
自ら電話を切ってしまった手前、こんな事を思うのはおかしいが、俺が当初思った通り、悪戯の類ではない反応だった。
だがしかし、現実問題。
彼女は3度、しかも全く同じ台詞を3年連続かけてきた。これは揺るぎない事実。
「――――」
2度目のメモ帳をジッと、見詰めた後、俺は今日の日時を記載する。
その途中、一つの憶測が思い浮かんだ。
彼女は、計3度目も、
「鹿島」ではなく、「香取」かと尋ねてきた。
最初、俺は間違い電話だと思った。
当たり前だ、別の店を口にしているのだから、
そう思う事に、何ら不思議はない。
だけど―――。
もし、―――それ自体が、間違い。
いや、「勘違い」だったら?
嫌がらせが目的だったら、
もっと他にも言いようがあった筈だ。
例えば、うちで買ったモノに
クレームをつけるとか―――。
それを彼女は、わざわざ別の店の名前を出す。
その必要性などあるのだろうか?
この2年、錬金術師がうちに来店する度、「香取商店」について尋ね続けたが、誰一人としてその店の存在を知らなかった。
つまり、「香取商店」という店はない。
で、あれば、彼女は間違ってはなく、何かと「勘違い」して、「香取」っと、
言っているのではないだろうか?
そうであれば、彼女の言い方の違和感に説明がつく。俺が怒りを覚えたのは、彼女の言葉に「悪意」を感じなかった事が大きい。
勘違いであれば、悪意も糞もない。
そもそもの見ている景色が違う、それは致し方がない。
始めから誤った事を植え付けられれば、誰であろうと同じ事が起きる。
ただ、それだけ解決しても、片付かない事柄が、まだまだ残っている。
何故彼女は、同じ台詞しか言わないのか?
何故彼女は、約1年後に連絡するのか?
何故彼女は、品物を取りに来ないのか?
解決するには、もっと他の情報が必要だ。
計算で行った訳ではないが、
結果的に、想定外の行動を取れた。
しかし、彼女の行動に、変化する事はないようだ。それを裏付けるかのように、彼女から折り返しの連絡は来なかった。
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