04,4度目

二○一〇年六月十七日 午後二時。


本日の天気は嵐。


豪雨と突風により、いつもの静寂せいじゃくさはなく、雷が不定期に鳴り響く。とてもじゃないが、暫く外に出られそうにない。


さて、例の電話だが、もうかかる事はないだろう。とはいえ、取り置きの商品はそのまま、同じ位置のまま残っている。


最早もはや、そういうオブジェの類となっており、何となく、片付けていない。


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。


「えぇ―――」


4度目の電話が鳴り出した。


電話に出てもいないのに、相手は―――、恐らく、十中八九、絶対に、「カミス メイ」だろう。


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。


ならば、仕返しをしてやろうではないか。いい加減、この恒例行事に終止符を!


「はい、香取商店」


そう、俺が考えた仕返しは、相手が永遠と言い続ける店の名前をあえて、あえて名乗る事で、相手の間抜け声を聞いてやる。


―――そのつもりだっだ。


「よかった。まだ、やっていたのですね!」


「まだ?」


「まだ」って、アンタが此処に電話をかけたのは、4度目だぞ。4度もかけたのに―――。しかも、今の時刻は、午後二時。


何なら今まで一番はやいぜ。

一体この女の思考は、一体、一体何なんだ―――!


ガシガシっと、自身の後頭部を掻き回す。


「よかった―――本当によかった」


え?泣いている、泣いている声だよね。

え?自分の希望通りの店だからって、泣く?


こっちが泣きたいのだけど、今までの三年間を振り返ると、

こっちが泣きたいのだけど。


「あ、あの〜。ご用件は?」


「ご、ごめんなさい。取り置き、お願いできますか?」


調子を狂わされっぱなしの4度目。

最初から今まで調子が、狂っていない事はなかった。


結局、注文内容と相手の名前までのやり取りをする。当たり前のように、内容は一緒。


それもそうか、店の名前以外、何も違う所はないのだから。


だけど、冒頭の反応が、どうしても引っ掛かる。


「香取」と「鹿島」、一体何が違うのだろうか?どうせ、取りに来る筈もないのに―――。


経緯が違っても、結果が一緒なら変わらない。

俺の心のモヤモヤ以外は―――。


「あ、最後に、来る予定のお時間を伺います」


一矢報いたい、その一心で―――ではなく、

ただ反射的に出た言葉だった。


まあ多分、明日とか明後日とか、適当に答えると思うが、これが一つの区切り、それを過ぎたら、コレは元の場所に戻す、そうしよう。


しかし、今まで以上に返答が返ってこない。

やっぱり、これは、ただのいたず―――。


「―――今日は、二〇三八年の六月十七日」


は?今なんて?二〇三八年?

今年って、二〇一〇年だよな?


黒電話横にポツンっと置いてある百均のカレンダーを凝視する。

うん、間違いなく。今年は、二〇一〇年だった。


―――ゴロゴロゴロゴロ。


この人は一体何を―――。


「なので、二日後の正午までには―――」



―――ドピシャ―――ン!!!



「え?」


雷が落ちた―――そして、電話が切れた。

同時に、店の電気も消えている。


慌てて窓の外は見ると、ウチだけが停電しているようだ。

築年数が、半世紀の木造建築、仕方がない。


「とりあえず、今度からは―――絶対に、期日は聞こう」


何とも言えない気持ちだ。またも翻弄するような発言ではあるのの、一番気になっていた疑問。


何故彼女は、品物を取りに来ないのか?

この事がに落ちた。


「そりゃ、来るわけないよ。だって、未来からの連絡なのだから!」


「ククククク」


変なスイッチが入ってしまったのか、自然とケラケラっと笑い出す。


「アーハッーハッハッハッーって、何でやねん!」


勿論、オーディエンスは誰一人としていない。

だから、俺のキレッキレのボケツッコミは、虚しさと、切なさと、心強さは―――ない、



奇しくも、そのタイミングで、店の明かりが復旧する。今だけ、今だけは、雨音が好きになった一日だった。

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