2章【一方、その頃―――】

05,謎の家族

運命って残酷で、悲惨で、ろくでもなくて―――、報われない。まるでドミノ。


1つ倒れただけなのに1つ、また1つ。連鎖して倒れていく。


最後に残るのは、無意味と化した「時間」と「努力」。


何故、こんな事になったの?私は、一体何を誤ったの?


緊急病棟で、危篤きとく状態の父を前にして、私はくちびるを強くむ。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


私には、双子の妹が居た。とても頭が良く優秀で、姉である私にないものをたくさん持っていた。


いつからだろう?

周囲の比較に耐えられなくなった私は、高校卒業を期に、定職も決まっていないまま家を出た。


最初は、バイトをいくつも掛け持ちし、唯一好きだった絵の勉強を二年間頑張り、とあるコンクールで運よく金賞を取った。


しかし、それだけでは食べていけず、バイトを続けながら絵を描き続ける。


その間で、両親、妹から何度も連絡があったに、私は無視し続けた。


決めていたのだ。

自分一人で人生を歩けるようになるまで、家族には甘えない―――っと。


努力は報われ、フランスで個展を開くまでになった。「いざ、フランスへ!」っと、飛行機に搭乗する矢先、母からの連絡があった。



―――父さんが、事故にあった。と



何かの冗談だと思った。けれど、母の声は震え、すすり泣く声が演技とも思えず、母が指定した神奈川の病院に赴いた。


父はかなりの重症だったらしく、普通の病棟ではなく、集中治療室に搬送されていた。


事の経緯を尋ねるも、誰も何も分からない。一昨日の朝、血だらけの状態で、通行人に発見された事のみ。


何の凶器で、どのように傷付いた事すらも―――。


折角せっかく、胸張って帰れそうだったのに、どうしてこんな」


彼女はガラス越しから父親を眺めつつ、ガラスを二度叩く。


さくら


「申し訳ない」っと、私の名前を呼ぶ母に釣られ、一筋の涙が、私の頬を伝った時。


ある人物が、此処に居ない事にようやく気付く。


「妹は?こうは何処?」


母は何故か迷った様子だったが、少し問い詰めると話し出した。


「お父さんのお手伝いで、一週間前から連絡が取れないの」


「えっ?連絡が取れないって、どういう事?目的地も聞いてないの?」


「桜も知っているでしょ?お仕事については―――」


「何も教えてくれない。そうだけど」


父は謎の多い人だった。技術者という事だけは認知していのだが、何の技術者でどのような事をしているか、家族全員が誰も知らなかった。


何故言わないのかも、分からない。


私が家を出た要因は、この秘密だらけの両親にもあった。


しかし、おかしい話だ。それは妹には関係ない筈、何故?


事の発端は、今から丁度一ヶ月前。父の部屋から怒鳴り声をあげたと言う。声の主は、妹の江だった。


だが、彼女は滅多に怒る事はない。私とのケンカ。いや、一方的に私が怒鳴っている事を、ケンカとは言わないか―――。


母も同じ意見だった為、部屋を出た妹に、訳を聞いたらしい―――。


『ちょっと進路の事で揉めただけよ。あ、父さんの用事で3週間出かけるから』


「実際、進路で揉めるような状況だったの?」


優等生とも言われていた妹に、そんな事がある訳もない。


薬剤師になる為の勉強も、既に決まった就職先のインターンも、何ら問題はなかったという。


「じゃあ、何を揉めた訳?」


結局、あの子も何も教えてくれない。だから、私は―――。


込み上げる怒りを殺し、彼女は、自身の手提鞄てさげかばんから携帯を取り出す。


そのまま彼女は、妹に向け電話をかける。だが、留守電にさえかからない。彼女は、頭を掻きながら溜息ためいきらす。


「取り合えず、母さんは一度家に帰って寝て。ずっと此処に居たのでしょ?」


「でも」っと、言い出したが、私は強引に母を家に帰宅させた。再び、病院へと戻った時には、太陽は沈みかけていた。


―――これからどうすればいい?


―――何をすればいい?


母の動揺した姿で冷静さを保っていた桜だったが、ここに来て徐々に焦りが浮き彫りになる。


まずはは落ち着く事を選択した桜は、病院の中央にある庭へ移動し、そこに設置されたベンチに腰を下ろす。


妹を探すにも、手掛かりは無い。しかも、父の容態も気になるから、病院に離れる訳にもいかない。


「もう、どうすれば」


文字通り、頭を抱えた私。そこへ―――。


「考え事?」


そう、声を掛けてきたのは、ブレザー姿の少女だった。


「えっ?」


誰かの面会に来た子かしら?でも、私が着いた頃には、面会時間を過ぎていた筈。


「僕に話してみない?」


黒髪のボブカットを揺らしながら、彼女の隣に、音を立てて座る少女。


「気持ちが楽になるかもしれないよ」


吸い込まれるようなその瞳と目が合った桜は、息を呑む。


明らかに、彼女は桜よりも年下。にもかかわらず、場を支配するかのような雰囲気により、桜を圧倒していた。桜は、この少女の出会いにより、人生の分岐点に経つ事となる。

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