42,新たな使者
二〇一二年九月三日 午前十時二十八分。
結局、和樹さんとは連絡がないまま夏休みが終わった。江の一件も片付かないまま、時間だけが過ぎてしまった。
江についても、自分の部屋に置いたままという訳もいかず、一緒に大学へと
「あんな子。うちの大学にいたっけ?」
「その隣のヤツは誰かな?彼氏?」
そんな外野の声が聞こえる程、彼女の容姿は周りから注目されており、俺自身にとっては気まずい限りである。
(親子なんて言った日には、学校の話題の的にされそうだな)
そうそうこの幻聴も、夏休みの間ずっと継続していたんだった。人とは恐ろしい一ヶ月程度の時間があれば、これ程までに慣れてしまうとは――。
(柔軟性がない人間は、自然と
小難しい事ばかりをいう幻聴だ。
◆
二〇一二年九月三日 午前十一時半。
大学内の中庭テラス
午前の講義が終わった為、俺と江は大学の学食へと足を運んでいた。そんな時、珍しい人物が学食に現れる。
その人物は大学の中で誰もが知る一番有名な教授で、彼女の講義を受けるには途方もない倍率抽選を突破しないといけない。
なぜそこまで注目されるかというと、理由は三つある。まず一つ目はテストがない唯一の講義である。但し、理由がない限り全て出席しないといけないが、テストがないのは大きい。
二つ目は講義の内容。「生活学」という特殊な講義名なのだが、中身は
ただ、その話は興味深い内容が多く。受講者で寝ている者はいない――という噂が広まっているのだとか。
そして、三つ目はその教授の容姿にあった。170センチの高身長で、黒髪ロングで紅い瞳に整った顔立ち。分野とは関係ない筈なのに白衣をいつも着用しており、ミステリーな要素も満載。
不定期に眼鏡をかける時があるのだが、その日はラッキーDay!その妖艶さに拍車がかかり、裏では
――と、三つ目の理由はとある友人の意見を抜粋しただけなのだがーー。遠目から見ても二度見はしてしまうのは否定しない。
が、こちらには関係ない事である。今日サークルの集会がある為、食事を終えた後、このままサークル棟に向かう事を江と喋る。
「すまないがキミ」
しかし、彼女が俺に話しかけた事により、関係なくなってしまう。
「え?俺ですか?」
椅子に座っている俺の左横から、こちらを見下ろしている上に目線があう。これで俺ではないのなら彼女は人ではないだろう。
「そうだ。君は鹿島 薫であっているかな?」
「はい、そうですが――」
香水なのか彼女から果実の甘い香りがした。
「では君があのサークルの新入りという訳だ」
「それって――」
俺が言葉を言いかけていた最中、彼女は一つの写真をみせてきた。その写真には1人の男性が写っていた。
「これは?」
その男性は俺と同年代くらいに見えたが、特徴的なところはない。強いて言えば幸が薄そうな印象くらい。撮った日付は2年前と比較的新しい。
「彼の名前は三笠 トオル。去年、ここを卒業した学生なのだが、連絡が取れなくてな」
まるで探偵に捜索願をしているような言い方だが、俺にこれを見せて意味があるのだろうか?
「教授。和樹君でもないのに、その説明は少々説明不足ではないですか?」
声のする方向に視線を移すとそこには美幸さんがいた。
「確かに、美幸さんの言う通りだ」
あれ?何だが違和感が――。
「すまない。説明不足で」
「いや、全然大丈夫です。ですが、何で急に俺に?」
「以前、彼が君の名前を言ったことがあってな。もしかしたら、君と彼が知り合いなのかと」
「残念ですがこの人のことは今日初めて知りました」
「そうか」
寂しそうな表情を浮かべる彼女は「急にすまなかった」と言い、すぐに彼女は立ち去ってしまった。
「美幸さんは、あの方と知り合いなのですか?」
「ええ、以前に和樹君経由で知り合って、今もあの人の講義を受けているのだけど――あれ?」
美幸さんは腕を組み、考え込みこう
「私、何故あの時、あそこに居たの?」
◆
二〇一二年九月三日 午後一時二十三分。
サークル棟内部
美幸さんと共に第七支部の部屋に入る。するとそこには既に、いつものメンバーが揃っていた。
しかし、そこには神を倒したあの女性と、見慣れない和服の女性がいた。
和樹さんの説明で二人とも、サークルに加入するとのことだったが――。
「えっと、グレイスさんってうちの学生じゃないですよね?」
「だから?」
間髪入れずに本人から言われ委縮する。そこに和樹さんが説明に入る。
話によればあの件はこれで終わった訳ではなく、近い将来何かが発生する可能性が高いらしい。その為、神を倒した彼女をボディーガードではないが、一時的にサークルに参加してもらう事となったとのこと。
確かに、彼女の強さは間近で見ていた為、心強い。ただ、近い将来についての予測は誰からか和樹さんに尋ねると「母からだ」少し不満げに応える。
「それで?隣の子は?」と美幸さんが質問する。「彼女は――」と戸惑っているうちに彼女自らが名乗りだす。
「
「カミス メイ」
反射的に俺はその名前を口にする。
自身の環境を変えた人物。いや、正確には名前だけが1人歩きしただけなのだが、ただこのタイミングで本人の名前が現れるのは驚いてしまう。
「こちらの事は知り合いからここの話を聞きまして、入学してすぐに伺う予定だったのですが、上京してすぐだった事もあり、休み明けの本日となってしまいました」
ゆっくりと丁寧な口調の彼女は、同年代とは思えない。口調だけじゃない、ほんの数分ではあるものの、彼女自身の長い黒髪を触るしぐさや、お辞儀の仕方。
「と、父――じゃない、和樹さんちょっと」
急に、江から服の
「あの人、母さん。母さんよ!」
「えっ!」
俺の声は皆に視線を向けられる程、大きかった。口元を抑え「すみません」と謝り。「少し席を外す」と江と一緒に部屋の廊下に出た。
「それホントか?」
「間違いないよ、だって昔の母さんと一緒だったもの」
ならそうなのか?娘である当人が言っているし――。と考えたが、過去の出来事を思い出す。
「いやいや、だったら何故、2人はあの人の名前を聞いて疑問に思わなかった?同名なのに」
「違う。母さんの名前はカミス メイじゃないの」
「じゃあ、本当の母さんの名前は?」
――
◆
二〇一二年九月三日 午後三時五分。
サークル棟内部
集会の内容はこの前の話がメインだった。場所は島根から神奈川、日としては1週間も満たない筈なのにとても長く感じた。
しかし、問題はこれで解決した訳ではない。未来から来た江は未だにここに居るし、和樹さんのお母さん、政子さんの予知夢もある。
そして、急に現れた「
2人の歓迎会という名目で、この後に飲み会を催す事となり、各々部屋から出て行ったが俺だけが部屋に残った。江については、他の女性陣に預けた。
その理由は――。
―――ジリリリリリ、ジリリリリ。
これだ。これを待っていた。
電話線に繋がっていない黒い電話がなりだし、「ガチャ」と俺はすぐに電話にでる。
最早、頼れる相手が敵であるのが情けない。ただ、こちらに敵意はない。もしかしたら、味方なのかもしれない。そんな淡い気持ちを何処かで持っていた。
「もしもし?」
ただ、それはやはり都合の良すぎる話だった。
「よお、鹿島 薫。元気だったか?」
相手の声は、メルクリウスだった。
6Ⅰ9~4回目の黒電話~(仮) 笹丸一騎 @Sasamaru0619
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