18,陰謀

「ぜ、全員ですか?」


和樹の発言に、

戸惑いを隠せずにいる薫は、

違和感を覚えた。


「厳密には、“自分”以外はね」


更に、違和感を覚えた薫。


和樹が嘘を言っているとは、

今までの会話から到底思えない。

しかし、

彼の言葉を信じるのであれば―――。


「氷鷹もですか?」


「勿論」


平然と、返答する和樹。


「か、仮にそうだとすれば―――」


何故なにゆえに?―――そうなるよな」


また、先の事を読まれた。


「世界は、見えない部分がいくつもある。

 何故だか分かるかい?」


薫は、自分の額をトントンっと、

軽く叩きながら、無い頭を使って

答えを模索もさくする。


「それが小規模で、

 皆の目に触れないから―――とか?」


「分量、質量的な意味合いなら

 興味の有無も含め、大きさは大事。

 だが、それだと規則性はない

 それでは問題に、ならない」


う―――。これ以上っぽい答えが、

見付からない。適当に―――、


「じゃあ、

 それを誰もしゃべらない―――から?

 いや、違―――」


「正解!」


適当な方が、当たってしまった。


「随分と―――原始的ですね?」


「原始的な方が、良い事もある

 新しいから“良い”は、

 暴力的思考だよ」


一瞬、薫の脳裏のうりに、

カーミス・メイの本が浮かぶ。


難しい事を言いだした反面、

納得する部分も身近にあり、

その言葉に反論するつもりのない薫。


「見えなくするには、口にしない。

 至ってシンプル」


「裏切りとか―――なかったんですか?」


「だから、こうして面接をしている」


「それだけ?」


「まぁ、“無能者むのうしゃ”である自分がやるのは、

 滅多にないとは思うが―――」


「む、無能者」


「一般的な言葉だと、何も出来ないヤツ。

 っと、捉われても仕方がないが、

 異能世界の界隈かいわいだと、

 “異能者いのうしゃでない者”っと、いう

 “区別”する為の言葉だ


 今の内に慣れておいてくれ」


「は、はぁ」


「基本は、嘘か誠か

 判断できる異能者が面談をする。

 もし、メンバーに居なかったら、

 外部から招いて行うみたいだね」


それだけ和樹さんが、信頼されている。

直接、本人の口から言わずとも、

間接的に、そう言ったようなものだった。


かく、サークル内での詳しいルールは、

 後日という事で、今は“3つ”の事だけ

 覚えて帰ってくれ」


「3つ―――」


薫は、胸元のポケットから、

小さなメモ帳、ペンを取り出した。


「1つサークルメンバー以外の人物に、

  サークルの内容は、一切口外しない。

  勿論、肉親も含め―――」


「2つ基本、自由参加だが、

 月に1回の全体集会は参加必須。

 それと、緊急集会も必須。

 全体集会は、前回の集会で決める。

 次回は、来週水曜日の16時だ」


「質問いいですか?」


薫が挙手すると、和樹は、無言で「どうぞ」っと、手で合図した。


「緊急って、頻度ひんどはどのくらい―――」


「年に1回あるかないか、かな?

 

 緊急の時は、

 1つ目のルールに抵触した場合、

 若しくは、3つ目のルールに

 抵触した場合に、サークル長。


 つまり、自分が許可した場合に、

 発令する。

 前回は、自分がこのサークルに入った

 きっかけの時だから―――。

 2年と71日前かな?」


普通に、覚えているのか―――。

とても、同い年とは思えない。


「そして、最後の3つ目。それはー――

 メンバーの誰かが、

 危機に陥った時、“絶対に助ける”事」


「2のルールではないですけど―――」


頻度ひんど?これは心構えに近い事だからね。

 正直、今自分が口にしてしまったが、

 物事に“絶対”という事はない。


どこかで、何が作用するか分からない。

あくまで、“出来れば”っという

ニュアンスで構わないよ」


「分かりました」


薫は、言われた三つのルールについて、

書きまとめたモノを見返した。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


1:サークルメンバー以外の人物に

 サークルの内容は、一切口外NG

 ※肉親も含む


2:自由参加だが、

 月に1回の全体集会は参加必須

 +緊急集会も必須

 ※全体集会は、前回の集会で決!

 次回は、6/27(水)16:00~

 頻度ひんどは、1年にあるかないか


3:メンバーの誰かが、

 危機に陥った時、絶対に助ける、事

 ※心構えとして…


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


「さて、今日は3年だけ残っているから

 そのメンバーだけ、呼ぶな」


そう言うと、和樹は自身の携帯を取り出し、

何処かへ電話をする。


「あぁ、護?鹿島 薫は合格だ。

 だから、こっちへ―――」


「あぁ、分かった」


「え!」


突如、薫の横に見知らぬ男性が一人現れた。

彼は、右手に携帯を持ち、左手は何故か

グットにしていた。


「よろくしな、鹿島かしま

 俺は、近衛このえ まもる―――3年だ」


「は、はぁ―――」


和樹と同様、面食らった為か、

薫は、気の抜けた返事をする。


「ちょっと!まもる君!

 アタシは飛べないんだから、

 普通に歩いてくれる!」


大声と共に、ドアが勢いよく開くと、

ショートカットの女性が、息を荒げ、

護を睨みつけていた。


「あぁー――すんません。

 美幸さん、忘れ―――」


「忘れていたなら、

 セイからの説教ね♪」


「い、いやだな―――。

 そんな訳ないですよ!

 あれ、ほら反射的に―――」


「もう、いいわ」


呆れた彼女は、薫に視線を移し、

握手を求めてきた。


真田さなだ 美幸みゆきよ、二人と一緒で3年。

 確か、薫君は、同い年なのよね?」


一瞬、和樹の方を見て問うと、

和樹は黙って頷いた。


あれ?俺、年齢言ったっけ?


「なら、美幸でいいわ」


「いや、いやいやいやいや」


「え―――何でよ」


初対面に、不貞腐れないでほしい。

が―――、こちらも理由はある。


「ひ、氷鷹は、先輩の事は何と?」


美幸みゆきさん」


「じゃあ、同学年の俺も美幸みゆき“さん”で」


「ん―――」


不服のようだ、説得失敗。


「まぁまぁ、美幸みゆきさん、

 今日はこの後皆、

 時間が空いている事だし、

 ご飯に行って説得しましょ?」


「ご飯!薫君も!」


先程、不機嫌は何処へやら、

まもるさんからのご飯の誘いで、

目を輝かせ、薫に問いかける。


「は、はぁ」


「OK、じゃあ、店選んでくる!」


そう言って、部屋から出て行った。


「台風みたいな人ですね?」


「違いないな、でも、美幸さんの前で

 それは言うなよ?」


「お説教ですか?」


「あぁ、―――怖いぜ」


俺は、まもるの絶望した顔を前に、

ちょっとだけ寒気がした―――気がした。

うん、美幸さんは、敵に回さない。

インプットOK。


「んじゃあ、行くか。

 あ、その前にトイレ―――」


言い終える前に護は、薫たちの前から、

姿が消えた。


「アイツ―――すぐ能力を使う」


悩ましい顔を浮かべる和樹は、

「自分もトイレに行く」っと、言い。

ドアのぶに手をかけた。


「薫は、中庭に居る幸さんと合流してくれ。

部屋の鍵は、戻った自分がしておくから」


「分かりました」


片手を挙げ、部屋から退出した和樹を

見送り、薫は部屋に一人になった。


「ふぅ」


何とか、自称神の指示通りに、

サークルに入る事が出来た。

しかしこの後は、どうすれば―――。


それに、三人とも、

それぞれに、違和感を覚えた。


まぁ、今はいいか。

とにかく、言われた通りに、中庭へ―――。



―――ジリリリリリ、ジリリリリ。



「えぇ―――」


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。


「確かに、どうすればって思ったけど」


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。


うん、電話線は、繋がっていない。


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。


黒電話について、

深く考える事を放棄した薫は、

電話を取った。


「は、はい、オカルト研究部」


「第七支部が抜けているよ、君」


そうですね、自称神様。


目頭を抑え、苦悩する表情を浮かべる薫。


「まぁ、いいか。それより、サークルに、

 潜入出来たお祝いに、有益な情報を一つ」


「何?」


既に、神である人物にも

無礼な態度を取る薫は、後々後悔する。


今後、悩みの種となり続ける問題を、

神から告げられる事に――――。



「―――僕。

 そのメンバーの“誰か”だから」

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