オカルト研究第七支部 編
1章【再謀戦】(さいぼうせん)
17,謀(はかりごと)
二〇一二年六月二十日 午後四時半
「
薫は目的の部屋の前で、緊張していた。
それは何故か?
始まりは、自称神と薫が
呼ぶ少女の言葉から―――。
『手始めに君の大学にある
このサークルに入ってみて』
彼女は薫に一枚の紙を渡す。
『オカルト研究部、第七支部?』
以降、薫は自身の通う横浜の大学で、
記載されたサークルを探すのだったが、
一向に、見つかる事はなかった。
『はぁ~、何処にも無いじゃないか』
大学敷地内にある中庭のテラスで、
溜息混じりで、
学食のチョココロネを頬張る。
『何が?』
薫に返答し、向かいの席に座るのは、
彼と同じ学部であり、
友人の“
女性のように、
一つにまとめ、ポニーテールにする彼は、
一瞬、女性と見間違える程の美形で、
女性にとてつもなくモテている。
今も、周囲からうっとりとした眼差しで、
既に、この光景も1年と3ヶ月。
なので、特に気にする事なく、
俺は、会話を進めた。
『このサークルを探しているけど、
全然、見付からなくて―――」
薫は
『そんな訳、ないや―――ろう』
『おい、どうせやるなら
しっかり―――と―――』
薫も彼と同様、言葉途切れた。
理由は、今まで見た事がない
深刻な顔を友人がしていたからだ。
『オマエ、コレを見付けたら
どうするつもりだ?』
『どうするって、入りたくて―――』
薫の返答を聞くと自分の瞳を閉じて、
腕を組み、暫し、何かを考える
少しの沈黙の後―――。
『分かった、口利きしてやるよ』
『え!マジ?』
『但し!』
閉じた瞳を開け、薫に向けた視線は、
真剣な眼差しが向けられ、薫は唾をのむ。
『必ずしも、入れるか分からない。
サークルの長が、認められたら、だ』
『分かった―――けど、
何でオマエが、このサークルを知って?』
『簡単さ、俺は、そのサークルの
――――メンバーだからさ』
翌日。
薫はドアの前に立っていた。
アイツの話によれば、
サークル長と面談形式のテストを
行なって、“合格”すれば、
入会許可を得られるとの事だった。
言われた時間である事を確認し、
薫は、ドアを2回ノックした。
「どうぞ」
部屋の中から、男性の声が聞こえ、
言われた通りにドアを開ける。
部屋に入り、最初に目が入ったのは、
物凄いスピードで、
カタカタとキーボードを叩くスーツの男。
あれ?確か、サークルの長が面談するって
聞いた筈なのだが―――。
黒髪で大人びた顔立ちのその人は、
教員にしか見えない。
彼の視界に入ったのか、
こちらをチラッと見て―――。
「すまない、こっちが指定しといて、
急な要件が入ってね。
悪いけど、そこの
待っててくれないか?」
薫は、「はい」っと、返事して
スーツの男が指定する椅子に座る。
待っているまでの暇つぶしとして、
薫は部屋を見渡しだす。
オカルト、都市伝説、神秘体験。
どの本も、サークル名に沿ったタイトルの
本が陳列されていた。
流石、オカ研。どの棚をみても―――。
「えぇっ?」
視界に入ったモノに、
薫は思わず立ち上がった。
―――嘘だろ?
嫌な冷や汗が、
手が少し、震えていた。
その原因となるモノの正体は―――。
―――黒電話。
「待たせたね。今―――ん?
どうかしたか?」
「いや、あのあれは―――」
薫は、黒い電話を指さした。
形は鹿島商店とは異なるものの、
携帯電話が普及するこのご時世に、
必要とされないモノが何故あるのか?
「へぇ―――、アレに気付くとは―――」
「それって、どういう―――」
「流石、“母”に気に入られた人物だけある」
「母?」
「あぁ。自分の母は、滅多に人を
気に掛ける事はしない人でね。
しかもそれが、自分と同年代。
忘れる筈もない。
すぐに思い出したよ。
あれは確か、2年前の夏だったか?
母、気に掛ける?同世代、2年の夏!
「まさか―――」
「初めまして、黒坂 政子の愚息。
―――黒坂 和樹。よろしく」
和樹はそう言って、薫に握手を求めた。
「あ、いや、どうも」
間の抜けた返事をしながら、
和樹の握手に応え、
彼に促されるまま、再び着席する。
マジで?この人が?でも―――。
「やっぱり、学生には見えないか?」
「いっ!」
何処かの自称神と同じように、
先読みされた!?
「やはり、スーツはいけないかな
とはいえ、いつ会社に行かないと
いけないか分からないから
仕方がない事で―――」
気のせいか?
ちょっと、おかしな体験で、
俺自身が敏感になっているのかも―――。
「いや、それは気のせいじゃないな」
「えっ!」
「君、友人からチョロいって
言われないか?」
「アンタも、まさか“神”か?」
「神?」
自称神と重なる発言に、
薫は、思わず口を滑らせ、
自身の口を両手で隠した。
しかし、時既に遅し―――。
和樹の表情は、
先程までの穏やかな表情は失せ、
何かの逆鱗に触れたような表情で、
薫を睨みつけていた。
しかし、その表情も一瞬で―――。
「そっ、君も神の犠牲者か」
「えっと―――君も?」
「正確には、家の母が―――だけど」
「それは、どういう?」
「君は2年前、
母とフランスのマルセイユで会った」
薫は、黙って一度、頷いた。
「だが、それが本当の目的ではない」
薫は、黙って二度、頷いた。
「本当の目的は、とある人物に会う為」
薫は、黙って三度、頷いた。
「その人物は、“神”だった―――らしい」
薫は、黙って四度―――。
いや、三度頷き、最後に首を傾げた。
確か、政子さんは、
フランスで会った人物から
爺ちゃんと会うようにススめられた。っと、
言っていた。
つまり、あの自称神は、
電話の件だけでなく、最初から此処で
和樹さんと会す事も
想定済みだったという事なのか?
仮にそうだとするなら、
とんでもない策士だ。
「因みに、和樹さんのお母さんは、
神と何の話を?」
和樹は、黙って横に首を2度振った。
「残念だけど、あの人は自分に甘くない。
自分の“読心術”でも、読み取れない」
「読心術?」
「ああ、言っとくけど、
“テレパス”のような異能ではないよ。
単純に、相手の表情、仕草、情報を
抑えれば、誰だって出来る
一芸に過ぎない」
「いや、俺は無理かと」
和樹は、苦笑しながら腕を組んだ。
「少々、いやかなり脱線したね。
本題に入ろうか?っと、言っても
君は、既に合格だが―――」
「合格?」
「正直、君が鹿島 薫の時点でね」
「な―――」
「何故かって?それは、君が異能者に」
“偏見”を持っていないからさ」
また、先読みされた―――。
って、偏見って―――。
「うちの母は、“
有した。言わば“
世間から言われる立場。
人によっては、その事自体を
受け入れられない人がいる」
成程、“差別”か―――。
自分が持ってなくて、他人は持っている。
自分も持てるなら、そこまでではないが、
異能に関しては、生まれ授かるモノ。
他にも、金、地位、名誉、肌の色。
家族構成―――言えば切りがない。
「何を言いたいか、
何となくは分かりますけど、
それと今回の件と何が―――」
「それはオカルト研究部第七支部は―――」
「第七支部は―――?」
「メンバー全員―――“
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