2章【致懐事変】(ちかいじへん)
29,拉致
二〇三八年六月二十日午後四時半。
所在不明―――。
私たちはいつまで、
この状態のままなのだろうか―――。
両目と口は布で覆われ、両手は縛られた状態。
唯一、耳からの情報を頼っても―――。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
そんな水音とエンジン音しか聞こえず、
少し肌寒い空間。
こんな状況になったのは何故か?
始まりは、江と一緒に神奈川に、
戻った時だった。
二〇三八年六月二十日午前十一時八分。
神奈川 病院―――。
『え?転院ですか?』
『はい、昨日の時点で―――』
『そんな話何も―――』
父との約束をした後、
江と二人で広島に1泊。
その後、父の入院している病院へと、
直行したのだが、受付で急な転院話。
病院側の話だと、昨日の昼過ぎ―――。
とある場所から、父が治る可能性が高い病院が
あると母へ連絡があったとの事だった。
それから、数時間も経過しない間に、
全ての事が、とんとん
母共々、昨夜には転院は完了したとの事だった。
『電話の一つでもよこしなさいよね―――』
江と病院の外に出てすぐ、私は母に連絡を取る。
しかし、呼び出し音は流れども、
一向に出る気配がない。
『仕方がない、転院先に向かおう』
『そうだね』
『それにしても、“この会社”が、
病院経営もやっている何て知らなかったわ』
病院から貰った用紙には、
転院先の住所と―――、
“黒坂コーポレーション”を意味する
『KC』のロゴと一緒に、
病院名が記載されていた。
二〇三八年六月二十日午前〇時二十分。
横須賀 浦賀駅付近―――。
電車で約1時間―――。
到着したのはいいが、一つ問題があった。
電車の道中に、どのような施設なのか、
携帯で調べたものの、該当する施設が、
見付からなかった。
『ダメ、姉さん。駅員さんも知らないって』
『そんな事ってある?』
病院から貰った用紙は、
恐らく、此処の病院のHPを
プリントアウトしたものの筈。
それなのに、最寄り駅の駅員が、
知らない病院って一体―――。
仕方がないので、私は携帯の地図アプリに、
病院から入手した住所を入力する。
『う―――ん、意外に遠い。
タクシー使うか』
『あ、丁度、あそこにタクシー。
私、行ってくるね』
江は、小走りで駅近くに止まっていた
タクシーへ向かった。
『姉さん!運転者さん、
その病院知っているって!』
『ホント!ラッキー』
二〇三八年六月二十日午後四時三十五分。
所在不明―――。
あの時の私を殴りたい。
タクシーに乗車し、少し移動した時点で、
私と江は、眠りに落ち。現在に至る。
「―――ろそろ、だ」
何かの障害物で、上手く聞き取れないのだが、
男の声が聞こえてきた。
ガコン。
何かの金属と金属が連結した音で、
地面が揺れた。
それから暫くすると、ガタンゴトンっと、
人の足音が近づいてくる。
「悪かったな、お二人さん。
目的地に着いたゼ」
その声は、例のタクシーの運転手の男だった。
しかし、足音から一人ではない。少なくとも、4人以上は居ると思う。
「せ―――の!」
「ふぇ?」
男の掛け声の合図と共に、私の地面が浮いた。
いや違う、これはタンカーか何かで、
運ばれているのか?
ガタンゴトンガタンゴトン。
ガタンゴトンガタンゴトン。
足音のみが続く中、
急に、周囲の気温が上がった気がした。
「あ、船長!」
人の気配が1人だけ、離れていくのを感じた。
「ご指示通り、お二人を―――え?
彼女たちを下に置け?
は、はい、分かりました」
男は言われるまま、
私たちを地面に置かれた。―――その直後。
バ―――――――ン!
えっ?何今の爆発音?
「おい!すぐに、彼女たちの拘束を解け。
でないと―――分かるよな?」
女性の怒鳴り声を聞き、
私たちを運んできた他の人たちは、
慌てて、目と口。そして、両手の拘束を解く。
「すまなかったな、この馬鹿共のせいで―――」
ずっと、暗闇だったから、目を開ける視界が、
眩しく上手く見られない。
徐々に視界が回復していくと、
私たちの目の前には、
信じられない光景が広がっていた。
そこには、様々な巨大コンテナが積み上げられ、
頻繁に運搬車が、私たちの横を通り
抜ける程の広い空間。
一見、何処かの格納庫かと思ったのだが、
江が見つめる先に絶句する。
「さ、魚?」
江が自身の口を抑えて
小さな窓の外から、大量の魚が泳いでいる。
「驚くよな、こんな場所で―――」
声のする方へ視線を向けると、
長い黒髪で、赤と黒の戦闘服?を身に
女性が腕を組んで、溜息を付いていた。
び、美人―――。
女性の私でも、
私の前に両手を差し出し、
江と同時に立たせてくれた。
凄い力。
手を握った瞬間。
私の何倍モノ力が伝わってきた。
彼女の背後に、
気絶する男は、この力で殴られたの?
―――うん、この人には逆らわない。
インプットインプット。
「まずは、改めて―――、
説明もなしにすまなかった」
彼女は、私たちに頭を下げた。
「え、えっと―――」
「そうだよな、戸惑うよな」
顔を上げた彼女は、苦笑しつつ
「道中に、説明するからついてきてくれ」っと、
廊下がある方向へ歩き出した。
私たちは、互いの顔を見合わせながらも
「行くしかないか」っと、アイコンタクトを
した後、彼女の後を追っていく。
「まずは、此処は横須賀の海域に停泊している
潜水艦の中だ」
「潜水艦」
窓の外に魚が居る事で、予想の一つでは
あったが、その割には、天井が高い。
私のイメージだと、狭くて暗かったのだが、
此処は正反対だ。
「本来なら、大西洋やインド洋付近を
行き来しているのだが、とある目的で、
ここ1ヶ月停泊している」
「目的って?」江がそう尋ねると、
「薫先輩の監視」っと、返答した。
「薫先輩って、父さんの?
いや、それより監視って?」
「桜ちゃんだっけ?」
「は、はい」
「君は、私と一緒に来て。
江ちゃんは、此処でご両親と待っていて」
私たちは、気付けば「
記載されたドアの前に居た。
ドアの横に透明の窓があり、
そこにはベットで横になっている
父さんと椅子に座ってウトウトっと、
寝かけている母さんの姿が見えた。
彼女は、詳細を説明せず、
すぐに歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「御免なさい、時間がないの
後で必ず、説明するから―――」
「姉さん、私は大丈夫だから
多分、あの人は大丈夫」
私の両手を握って、「頑張って」っと、
言っているようだった。
「分かった、2人をお願い」
江は黙って頷き、私も1度大きく頷いて、
彼女の後を追うのだった。
数分歩いた後、彼女は「
記載されたドアの中へ入ったので、
私も続いた。
入室した部屋は、やたらに暗く。
円形上の珍しい構造をしていた。
「ミーティングシステム起動、
ルーム“619”に入室」
彼女がそう喋ると、部屋全体が青白い光が差し、
円形の壁が、9つの長方形に分かれた。
9つの内、1つは暗いままだったが、
他の8つは、それぞれ別の光景が映った。
その映像には、8名の人物と声が聞こえてきた。
「いつから入室したの?」
「―――15分前」
「相変わらず、マメね」
「間に合った」
「能力使えば、いつでも一瞬じゃない?」
「昔より回数は増えても、有限なんですよ!」
「アンタ、ノイズ酷くない?」
「仕方ないだろ、
電波の悪い戦地から参加しているんだから」
「“異端会”って―――大変ね」
「遅れてすみません」
「いや、丁度時間だ」っと、
画面中央の黒スーツを着た人が、言うと、
先程ガヤガヤ喋っていた人たちは、
一斉に、口を閉じた。
先程の人物が宣言した。
「では、“オカルト研究第七支部”。
15期メンバーの“緊急集会”を開始する」
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