23,再架電

二〇一二年七月二十日 午前一時。

恐山おそれざん 山頂さんちょう―――。



誰がいつ決めたのか、日本三大恐山の

一つとされる「恐山おそれざん」。

何を隠そう、霊界に近い=こちらの媒体の

電波がいい。仕組みは、知らない。


故に、夏だというのに夜は寒い。

青森はむつ市の恐山、山頂に、

僕がわざわざおもむいた訳なのだが―――。


憂鬱ゆううつだ―――」


ここ最近、面白い事が続いた為か、僕の心は、

上機嫌。それを不意にする嫌なヤツ―――。


あの金髪が、“私たち”の計画を狂わせた。

ただ、怒りよりも先に、彼等の安否あんぴが先行する。


「久し振り、“モイラ”」


突如とつじょ、空から舞い降りてきたのは、

少年のような声の男性。

その男、背丈せたけは低く、顔全体を

ヴェネチアンマスクでおおって表情が分からない。


「はぁ―――。勝手に僕の名前を

 別の人と差し替えるの、止めてくれない?」


「こりゃ、失敬」


思ってもいないクセに―――。


「で?天下のヨーロッパ様が、

 まだどうして、アジア東端とうたんの地へ?」


「君に会いに―――さ」


キモ、何故コイツがモテているのか、

理解に苦しむ限りだ。


「てのは、冗談。ホントは彼女に言伝を

 頼まれて―――」


怪訝けげんそうな顔で、相手を睨む付けるパルカに、

ようやく本題を話し出しだす

ヴェネチアンマスク。


「今から緊急会議なのに?」


「オレもそう思うけども、

 彼女には、誰も逆らえない。

 君が一番よく分かっているだろ?」


「分かった。で、内容は?」



『―――今回の件、

 君を監査役に任命する』



声真似が得意なのか、

ヴェネチアンマスクの声は、

一瞬だけ、

械音のような淡々とした女性の声に、変化した。


―――監査役。

つまり、メルクリウスに

手を貸す必要はないが、彼が失敗した時の

代償を私に課す。―――そう言いたい訳か。


「彼女に「了承した」っと、伝えておいて」


「え?ホントに良いのかい?」


「何故、貴方が躊躇ちゅうちょするの?」


「だって、万が一。今回の件が失敗したら、

君は―――」


「降格処分になる―――えぇ十分理解している。

 本来であれば、“第3”の時に、双子の兄の

 離反を止められなかった時点で、

 降格してない事が奇跡に等しいもの―――」


「いや、あれは、君が原因ではなく、アイツが、

 勝手に人間側に付いただけで―――」


「彼女に、その言い訳が通用すると思う?」


ヴェネチアンマスクの男は、

黙って、首を横に二度振った。


「この話は終わり、とにかく彼女に、

 僕の解答を伝えてくれる?」


「ああ、分かった。じゃあ―――」


不満たらたらな返事に、嫌気が差し、

相手を見送る事もなく、

携帯電話を操作するパルカ。


携帯の画面には、

鹿島かしま かおるの名前が表示され、

彼女は発信ボタンを、迷わずに押すのだった。



二〇一二年七月二十日 午前一時十分。

アパート「フシタカ荘」二〇一号室―――。


広島から神奈川に帰省してもう二日が経過した。

変わった事と言えば―――。


「スゥースゥースゥー」


俺のベットを占領している江が、

一昨日から、家に居候している事だった。


「はぁ―――」


名目上、親子だが年齢はほぼ一緒。

母親補正でどうにか冷静を装うも、

気が気でないのが、現状だった。


最初は、しゅうさんか、のぞみちゃんの家に行く

予定だったが―――。


『父さんの家では―――ダメですか?』


それを「ダメ」とは言えない。

それに、気になった事もあった。


電話の桜、江と話していて、

今の俺と、未来の俺の変化―――。


例えば、

何故俺は、江にだけ電話の話をしたのか?


未来の嫁さんしかり、桜しかり、

変な話ではあるが、家族に隠す必要性はない。


なのに、未来の俺は、死ぬ可能性がある桜に

ではなく、江にのみ話している。


まぁ、高校卒業と同時に家を出て、

音信不通だった為、タイミングをいっしたと言えば、

それまで―――。


だが、実際に江の話を聞いたら、

どうもおかしい。


錬金術に、自分の部屋や仕事さえ、

秘密で通している。

今の俺からは到底考えられない。


性格も淡泊たんぱくな印象で、

ザ・空気の読めないお父さんっといった感じ。

正直、一番そうはなりたくなかった。

何か、理由があるのか?


それから、もう一つ―――。

未来のサークルメンバーが、江の話から

一切、話に出てこなかった。


たかが1ヶ月の付き合いで、

自惚うぬぼれているかもしれないが、

皆が事件を知って、見て見ぬ振りが

出来る人たちとは思えない。


しかし、今回参加した人たちの誰一人として、

見覚えがないそうだ。

そもそも、父親の知り合いに

会った事さえないらしい。


「よく父さんが言う、

 理想と現実は違うってヤツなのかな―――」


ブ―――ブ―――ブ―――ブ―――。


「え、こんな時間に?―――誰だ?」


時刻は、午前一時十五分。

アラームが鳴り続ける携帯を持った薫は、

携帯電話の画面で、相手を確認する。


「パルカって、登録した覚えがないけど―――」


―――っと、言っても仕方がないか。


薫は携帯電話の受信ボタンを押した。


「遅い」


今日の自称神様は、ご機嫌斜めのご様子だ。


「どうも、すんませんでした」


「何それ?謝っているつもり?」


神には日本のお笑いは、通用しないらしい。


「それより、君に伝える事があるの」


「何ですか?」


「君と黒坂 和樹の二人が、

 “神裁しんさい”に選ばれたわ」


「シンサイ?」


「神の裁きで“神裁しんさい”」


「あぁ―――なる、いや何で?」


「あの金髪が上に、報告したの」


やっぱ、神にも序列があるんだ。

和樹さんの読み通りだ。


「厳密に言えば、10人。

 いや、今は9人から構成された評議会に、

 議題提示したのが正しいか―――」


「それって、二人も入っているのか?」


「えぇ。逆にそれ以外が、議題提示の

 仕様がないもの―――」


「何故?」


「対等な存在以外、アイツ等は容認しないから」


「随分、視野が狭い事で―――」


「違いない」


互いに苦笑する二人。


「でも、俺は心当たりがあるが、

 何故、和樹さんも?」


「あの男は、理由は知らないけど、

 “場の支配”が効いてなかったらしい」


皆が次々倒れたヤツか―――。ん?


「和樹さんも倒れていたけど―――」


「金髪曰く、アレは“演技”だと―――」


否定出来ない。電話向こうの彼女と

同じような発言、行動が目立つからな―――。

あれ?それって―――。


「さきに言っとくが、アイツは僕じゃない

 因みに、金髪も上も僕が、

 メンバーに紛れている事は知らないから」


さいですか―――。

まぁ、もしそうだとしたら、

知恵比べで勝てる気が全くしない為、

有難い情報だ。


「選ばれた理由は、分かったけど、

 神裁しんさいって、具体的に何を―――」


「“Deadデット orオア Deadデット”―――よ」


「そこは“Deadデット orオア Aliveアライブ”じゃないの?」


「神は、優しくないの」


「さいですか―――」


「但し、一つ朗報」


朗報?


「二人の提示は“第三級”。

 これは、1人の神のみが裁きを下す意味なの」


「つまり、金髪さえ、どうにか出来れば、

 しのげる?」


「まぁ、一時的にだけど―――」


「因みに、それって時効って―――」


「ある訳ない」


「ですよね―――」


「但し―――」


はい、またもやお決まり台詞。


「この時代に、彼と対等に戦える人物は、

 限られる」


「そもそも、居るのか?」


「心当たりはあるが、時間がかかる」


「どのくらい?」


「明後日の夜までには―――」


「それって間に合うの?」


「金髪が動くのは、2月21日の朝から、

 つまり1日耐えれば―――ってとこ」


「無理じゃない?」


「君だけならね」


成程。和樹かずきさんならしのげる。

そう、彼女は踏んでいる訳か。


結果は違えど、二人の神に

認められている和樹かずきさんって、

ホントに何者だ?


「明日、和樹かずきさんに相談するよ」


「えぇ、そうして―――あ。

 彼に伝えておいて“海賊”が来るって」


「海賊?」


「そう言えば、彼なら分かるわ」


その言葉を最後に、電話が切れた。


怒涛の会話で、薫は溜息が漏れる。


そう言えば、もう一つ疑問があった。


「何で彼女は―――人間側何だ?」

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