40,急変

黒坂和樹とその一行が、グレイスたちと合流した。この状況を喜びの再会であればと何度思った事か―――。しかし、現実はかけ離れていた。


誰もが疑惑の念を心に持ったままの再会で、学生時代とは異なる重い雰囲気が漂う中、和樹が話し出す。


「あと一人。呼んだ人物がいる」


「あと一人?誰の事?」


眼鏡をかけた女性が、和樹に尋ねる。いや、眼鏡をかけた女性は、流石に失礼か。何故なら―――。


「僕だ」


9名の目の前に自身の姿を現すと、和樹を除く全員がこちらに注目する。現したと言っても白いローブで顔を隠している為、あまり意味はないが―――。


「お初。いや、そうではないのだが、恐らく和樹以外、僕の事を覚えていないだろうから、自己紹介といこうか。


僕の名前は、オルタナ、ダヴー、アルテュール、マーリン。年代によって様々な名前が与えられていてね。


今、君たちにしっくりくる名前は、ヘルメス旅団の主かな?」


仁は「ダヴー?馬鹿にしているのか?」


グレイスは「和樹!何故コイツが!」


陳鷲チンジュは「ヘルメス旅団って、イギリスの書物から出てきた?」


希は「何故、アナタが」


響鼓きょうこは「コイツがあの連中の親玉」


美幸は「嘘でしょ?」


護は「どういう事か説明しろ、和樹!」


冥は黙ったまま、此方を見つめたままだった。


「やはり、早すぎたようだ」


その言葉を自身が口ずさみ、指を鳴らす。すると、一同の動きが止まる。それは、ここに居るメンバーだけではない。潜水艦を修理する者。看護に勤しむ者。死にかけ呻く者。


その全ての動きが止まる。2人を除いては―――。


「いきなり現れるのは、話が違う」


その一人は、和樹だった。


「これぐらいしないと時間が勿体ないし、アイツに申し訳がたたない」


「自信の都合で、今まで動いたのに?」


「そう言われると耳が痛い。しかし、これも全ては、大学時代。君と僕が交わした計画の為だ」


「計画。実際には何一つして好転しないこの状況下で、計画になっているのか」


「申し訳ないとは思っている。こちら側が一方的な指示を行って、君が皆を動かす。だが、その裏は何も知らず―――」


「分かっているのなら、いい加減。計画の概要をしてもいいのでは?」


「分かった、分かった。ただその前に、もう一人。聞いてもらう必要がある人物がいる」


そう言って、僕は和樹と共に、1人部屋の中で蹲る、とある彼女の元へと移動した。


「運命って残酷で、悲惨で、ろくでもなくて―――、報われない。まるでドミノ。


1つ倒れただけなのに1つ、また1つ。連鎖して倒れていく」


「―――」


「最後に残るのは、無意味と化した“時間”と“努力”」


「何故、その言葉を―――」


僕の言葉に反応した彼女は、ゆっくりとこちらを見てくれた。


「君が昔、言っていた。とは言っても、正確にはドミノと呼ばれる前のモノだが、君は覚えていないと思って―――」


「覚えてない?」っと、和樹が言った。


「この計画の肝となるのは、神々が僕たちの存在を如何に上手く隠せるかにあった。1人は記憶を完全に消し―――。


1人は記憶を消しつつも、深い深い記憶の底に隠れ、とある時を待っていた」


「とある時とは?」


「神々の敵が集まるまで――」


僕は一つの書物を懐から取り出して、空に投げる。すると、その書物から様々なイメージという名の記憶が、天井に3つの映像として投影される。


1つ目は、10名の武装した者が、見境なく人間を殺戮さつりくしている光景。


2つ目は、巨大な爆発物によって、巨大な都市が消えて行く光景。


3つ目は、火山噴火と共に、空から飛来する隕石が、次々と大地へ落ちていく光景。


4つ目は、巨大な津波によって大地を呑み込む光景。


「かつて、神々は4度。僕たち人間を滅ぼした。1度目は、人間の反乱。2度目は、人間を自滅へと追いやり。3度目は、自身を制御出来ず、暴走。そして、4つ目は、選ばれた者を選別した」


「どこかで聞いたような話だな」


「ああ、どれもこれも古の書物に受け継がれてきた教訓さ。但し、年代や概要は全く異なるがね」


「それと計画と何が関係する?」


「この4つの出来事と、5つ目の今。様々な形で、神々は僕たちの反感を買った。しかし、どう足掻いても、個々の力では神々には勝てない


だから、その個々を一つの時代に集結させ、神々に対抗する。それが、この計画概要」


「集結すると言っても、時代がバラバラ過ぎて――。最初の出来事は今から何年前の事なんだ?」


「確か、2億と5000年くらい前かな?」


「とても現実的ではないと思うが―――」


「そうでもないさ、現に当事者が此処に居る」っと、僕は自身の胸を叩く。


「なっ!」


「そう驚く事でもない。最初の人間は、寿命そのモノを想定しないで製作されたからね。問題はその生き残りが、殆どいない事だけさ」


「仮にそうだとして、どう集結させる?君以外の人間は―――。いや、待てよ」


和樹は額に手を4度叩いて、腕を組む。


「常識を外し、幻想的に―――。そう肉体ではなく、魂の枠で彼が述べているとすれば、ここまでの経緯と状況。彼の行動と結果。


桜ちゃんへの執着と重要性。ここに皆を集めた理由。学生時代の“あの出来事”。もしかして―――」



―――自分たちが、神々の敵なのか?



和樹の回答に、思わず口角が上がる。


「ちょっとだけ違う。正確には君たち全員が、神々に恨みを買った。若しくは買うと思われる。関係者であるのさ」


「買うと思われる?」


「近い将来。神々は5度目の人類滅亡を計画する。それに辺り、黙っていない連中がいる訳さ。つまりこれは、過去、現在、未来。


全ての時間軸で、人類の総力を集結させる計画なのさ」


「「―――」」


「その為の第一歩として、今の我々だけで、神を一人。完全に消す必要がある」


「メルクリウスの事を言っているのか?」


「そうだ。今回の潜水艦の件も、アイツの仕業」


「だが、大学時代。彼は倒した筈」


「あれは偽物。本物は別にある」


「どういう意味?」っと、思わず彼女は口にする。


「神が強い理由は、滅びない事にある。それは寿命がなく、“代替品だいがえひん”が存在する―――」


「それって―――」


「腕がなくなろうが、目がなくなろうが、記憶媒体だけ、別の場所に保管され、新たな器に居入れ替え、再び目的の為に、行動する。そう―――」


「もしかして―――」



―――神は人工物。ロボットなのさ。



「ちょ、ちょっと待てくれ、人工物であるのなら、一体誰が、神を作ったと?」


「流石にそこまでは―――」


「じゃあ、何故アナタがそこまでを知っているの?」


「そこまで教えてくれた神が居る」


「―――成程、そう言う事か」っと、和樹は固まったままの8名に視線を移す。


「もう一人の神。いや、内通者か」


「内通者?」


「桜ちゃんの耳に入れてほしくはなかったのだが、あの8名の中に神が居る」


「それは誰から?」


「君のお父さん。いや、そこの彼から聞いたのさ」


一呼吸ついてから僕は、自身の白いフードから頭を出す。


「お、お父さん?で、でも何で―――」


「何で若いままなのかって?それはさっきの話で言った通り、寿命を想定していない。最初の人間だからね。まぁ―――」



―――君も、何だけど。



「えっ?」


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。



部屋の片隅に隠れていた黒電話が、鳴り出した。


「えっ?何故ここにも?」


「その電話は、君が本当は何者かを教えてくれる。実際、始まりはその黒い電話にあったよね?」


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。


「出れば―――全て分かるの?」


「あぁ、以前の君が忘れたかった事もだけど―――」


―――ジリリリリリ、ジリリリリ。


「分かったわ」っと、彼女は黒電話の受話器を持ち上げる。そして―――。


「もしも―――」


―――チリン。


その言葉と共に、彼女の姿は“現世”から消えてしまった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


次回予告―――。


鹿島 薫は、何故変わったのか?


いや、変化したのか?


その経緯は、脳内の言葉から始まった。


一方、現世から消えた桜は


見知らぬ森に迷い込み

見覚えのある人物と対峙する。


果たして、2人の行き着く先は―――。


次回、【人類旅行記 編】

お楽しみに―――。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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