怒った女は怖い
通信を切断したゼファーの視界に入ってきたのは、同情するような表情をしたディランであった。ゼファーからしたらディランに、同情されるようなことはした覚えがない。
「お前、あのレヴィから熱烈なラブコールを受けてるって噂本当だったのか」
「あのってのが何か分からないけど、レヴィは普段あんな感じじゃないのか?」
「いや、あそこまで媚びっ媚びっな声を俺は聞いたこと無いぞ」
ディランは何か恐ろしいものを見たと言わんばかりの表情をしつつ、先程のレヴィの声を思い出してるのかブルブルと震えている。
「そんなこと言うなよ。レヴィは夜のベッドじゃ可愛いもんだぜ、昼の戦場じゃ恐ろしいけど……」
ゼファーの言葉を聞いたディランは哀れみの表情をしつつも、無言でポンと優しくゼファーの肩に手を載せた。
「お前……あの重サイボーグに脅されてるなら俺は手伝うぜ? 俺も
「そこまで言うか!? 普通にSAERDに所属している頃からの付き合いなんだ、脅されるなんて滅多なことを言うなよ」
「あー、うん、分かった。でも何か困ってたら言えよ! 絶対だからな!」
必死そうなディランの様子にゼファーは首を傾げつつも、「ありがとう」とお礼を言いつつその場を後にし、マリアの家に向かうのだった。
*********
マリアの家に向かったゼファーの視界に映ったのは、ニコニコと嬉しそうな表情をしたレヴィと、げっそりとした表情で疲れた様子のマリアであった。
ニコニコ顔のレヴィについてはいつものことなのでスルーするゼファーであったが、疲れた様子のマリアはどうしたのか気になってしまう。
「おい、どうしたんだよマリア、そんな疲れた顔をして今回のMVPの登場だぜ?」
「決まってるでしょーレヴィさんに延々とゼファーとの夜の寝物語を聞かされていたのよ……どれぐらいディープだと思ってるのよ」
げんなりした様子のマリアの表情から察するに、先程の通話の後からずっと聞かされていたのだろう。疲れ切ったのかこのまま地面に倒れて、寝てしまいかねない。
「ほ、ほらさっさと家に入ろうぜ? レヴィもそれでいいな?」
「勿論です。なんなら
「俺は見られる趣味はないからノーサンキュー。ほらマリア立てるか?」
「うん……肩を貸して。立つのもしんどい」
「ふふふ。残念です、私の肩も貸しますね」
ゼファーとレヴィに支えられたマリアは、2人に支えられて宙ぶらりんとなった状態のまま、家に連れられるのだった。
マリアの鍵を使用して家に入ったゼファーとレヴィは、とりあえずマリアをベッドに寝かせると、ようやく一息つく。
「短い距離だったけど疲れたぁ」
「お疲れ様でしたゼファーさん。ところで此処で報酬を貰っても?」
金の髪を揺らしながらレヴィはゼファーに抱きつくと、耳元に口を近づけると艷やかな声で囁いてくる。リップが塗られた唇に、甘い香りのする髪を前にしてゼファーは、欲望に負けてレヴィへ手を伸ばしていく。
たわわな胸にゼファーの手が触れる直前、「へ~?」とゼファーとレヴィの耳に、マリアの怒気の籠もった声が聞こえてくる。素早く2人が声のする方向に振り向けば、そこには仁王立ちで立っているマリアの姿があった。
「はーいゼファー? 楽しそうなことをしてるわね。人の家でおっ始めるのは背徳感があっていいわね……自分の家でやられる時のダメージに目をつぶればの話だけど!」
マリアの表情は微笑むように笑ってはいるが、心の中では怒り心頭なのかその証拠に目だけは笑っていない。そんなマリアの迫力に気圧されたゼファーとレヴィの2人は、反射的に抱き合ってしまう。
「よ、よぉ……お早いお目覚めで、元気か?」
「ええ元気よ、今から家主に内緒でおっ始められると思うと、人をぶっ殺せるぐらいには!」
「ははは、ですよねー」
怒っているマリアをなんとか宥めようとするゼファーだが、マリアの言い分はもっともすぎて歯が立たない。そんなゼファーを見かねたのか、レヴィはゼファーに近づくと耳元てこう囁く。
「私がなんとかしますから。ゼファーさんは少し黙ってください」
ゼファーはマリアに気づかれないよう、レヴィの脚に指で◯を描く。ここは経験豊富なレヴィを信じようと思ったのだ。
「マリアさん、ゼファーさんと2人でヤルなんてケチなことして申し訳ありません」
指で金色の髪をかき上げつつ頭を下げるレヴィ。そんな彼女の言葉を聞いたゼファーとマリアの表情は、氷像のように固まってしまう。2人の様子に気づいていないレヴィは、止まることなく話を続ける。
「そうですよね。2人より3人。3人より4人のほうが気持ちいいですもの。マリアさんも混ざりたかったんですね!」
レヴィからの予想外の追撃にゼファーは硬直してしまう。その間にもマリアの腕を嬉しそうに掴んだレヴィの話は続いていく。
「ここは個人プールを借りて3人で水着プレイなんていかがでしょう? いえやっぱり家でお風呂に入ってソーププレイのほうが良いでしょうか?」
もはやこの場を支配しているのは、止まらない淫語を喋り続けるレヴィである。止まらない淫語の前に圧倒されたゼファーは、チラリとマリアの方を見てみると、一瞬で見るんじゃなかったと後悔してしまう。
菩薩のような笑みをしながらレヴィの淫語を聞き続けるマリアであったが、よく見れば額やこめかみはヒクヒクと痙攣している。おそらく怒りが徐々に溜まっているのだろう。ゼファーの目には、存在しないはずのマリアの怒りケージを幻視してしまう。
「少し隣の部屋に行きましょうか、レヴィ?」
「どうしたんですか? もしや2人で先に姦淫へふけるというのも乙です……」
「いいから来る!」
マリアの迫力に圧倒されたレヴィはシュンとした様子で、隣室に連れられていくのだった。2人が何をするのか気になったゼファーは、すぐに顔を覗き込ませるが、「ゼファーはダメ!」とマリアに追い出された。
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