仕事開始

 10分以上走り続けたゼファー。途中アーミーウルフも合流し、ストリートギャングの根城にしている場所まで残り少しであった。


「あの場所か……ここからは慎重に行こうか」


 程なくしてストリートギャングの根城がゼファーの視界に入ってくると、ゼファーは隠密行動をとり始める。

 足音をできるだけ小さくし、ゆっくりとそれでいて素早く移動するゼファー。

 アーミーウルフもゼファーに習うように、ゆっくりと音を立てないように移動していく。


「あの車どれぐらいで売れると思う?」


「そりゃあ結構な額だろ。いい武器が買えて、女も抱きまくれるに決まっている!」


「へへ、今からでも股間がいきり立つぜ」


「その爪楊枝閉まっておけよ。ギャハハ!」


 ストリートギャングの根城の前では、3人の三下たちが見張りをしながら、下卑た笑みを浮かべて会話をしている。


 ――歩哨としては落第点だな。


 3人の三下の様子を見たゼファーは、思わず心の中で呟きながらも三下たちの様子を観察している。

 そして三下たちが一斉に笑い警戒が緩んだ瞬間、ゼファーはピストルを抜きトリガーを連続で引く。

 連続で響き渡る銃声。

 ゼファーが抜き打ちして放たれた3発のピストルの銃弾は、外れることなく3人の三下の頭部を撃ち抜いた。


「……クリア」


 ピストルを構えたままゼファーは素早く移動をすると、三下たちの呼吸が止まっていることを確認する。

 死体を確認したゼファーは迷うことなく、建物内に侵入していくのであった。


「おい、今の音聞こえたか?」


「あ、さっきの銃声か。どうせ外の連中が遊んでいるだけだろ」


「……ならいいけどな」


 建物に侵入したゼファーは、物陰に隠れて周囲を見渡しながらスニーキングしていく。

 その途中、外の銃声に気づいたと思わしきストリートギャングを発見したゼファーは、優先順位にそのストリートギャングを入れる。


 ――余計な騒ぎを起こされても面倒だからな。


 そう判断したゼファーは、感のいいストリートギャングに狙いを定めて隠密行動をしていく。

 ゆっくりと足音を殺して近づいていくゼファー。

 少し時間が経つと感のいいストリートギャングは、敵が近づいていることに気づかない様子で、他のストリートギャングと離れて一人になる。


「はぁ……早くあの車を売った金が欲しいぜ」


 そうぼやく感のいいストリートギャングに、ゼファーは素早く背後に近づくと無言で首を締め、そのままゴキッという音とともに首の骨を折る。

 事切れたことで力が抜けた遺体を掴んだゼファーは、遺体を他のストリートギャングから見つからないように物陰へと隠す。


「順番としては盗まれた車のキーを見つけるのが先決だな」

 

 優先順位を決めたゼファーはとりあえずガレージを目指して、音もなくスニーキングを再開する。


「見つからないな……」


 ストリートギャングの根城を探索するゼファーであったが、一向に盗まれた車のキーが見つからない。


 ――先に車を探したほうがいいかもしれない。


 そう判断したゼファーは探索する場所を変えるために、部屋を出ようとした。


「あ……」


 ガチャリと扉を開けた瞬間、ゼファーとストリートギャングの目が合った。


「侵入……」


「ふん!」


 ストリートギャングが叫ぶよりも前に、ゼファーの拳がストリートギャングの口に叩き込まれた。

 ぐらりとバランスを崩すストリートギャング。その口からは折れた歯がポロポロと落ちていく。


「せい!」


 続け様にゼファーはストリートギャングの頭を掴むと、そのまま顔を殴り続ける。

 1発、2発、3発。

 既にストリートギャングの顔の造形は酷いものとなっているが、ゼファーは拳を止めることはなかった。


「は!」


 最後にフィニッシュと言わんばかりのゼファーのストレートが、ストリートギャングの口内にヒットし、その一撃で男は絶命した。


「ん?」


 ストリートギャングが死んだことを確認したゼファーは、男の懐から見えるある物に注目する。

 それは何かの鍵のようであった。

 盗まれた車のキーなのかは分からないゼファーであったが、何かに使えると判断し、鍵を懐にしまった。

 それからゼファーは建物を探索し続けるが、目的の車は見つからず、只々ストリートギャングの死体だけが増えていく。


「参ったな……」


 ストリートギャングを探そうとしても見つからない状態に、ゼファーは自分の浅はかさを責め立てる。

 仕方がないので一度建物の外を探索しよう。ゼファーがそう考えた次の瞬間、外からピストルの銃声とは比べ物にならない大きな銃声が聞こえてくる。

 予想外の音に驚いてしまうゼファーであったが、すぐに落ち着くと銃声の聞こえてきた方角に向かった。


『全員、集まれやー!』


 銃声がする方に向かったゼファーの前には、ゴブリンより重装甲なコンバットメック――ドワーフがマシンガンとアックスを持って暴れていた。


『さっさとこい! お前ら侵入されてるぞ!』


 マシンガンを上空に連射し続けるドワーフのスピーカーからは、怒り狂った様子のストリートギャングのリーダーの声が聞こえてくる。だが、いくら騒いでも部下のストリートギャングたちは集まってこない。

 理由は一つ、部下のストリートギャングたちは、皆ゼファーが始末したからだ。

 それを知らないストリートギャングのリーダーは、怒りに身を任せて自分の居場所を知らせるようにマシンガンを乱射し続ける。

 侵入者を呼び寄せていることに、気づかないまま。


『クソ、怖くなんかねぇ。このドワーフの力を使えば隠れている奴なんて、すぐ見つけちまう!』


 ストリートギャングのリーダーの言っていることは本当だ。

 ドワーフはゴブリンに比べて電子戦機能を向上させており、隠れているゼファーを見つけることは朝飯前であった。


『そこかぁ!』


 直後にドワーフは突如、ゼファーのいる方角を向くと、片手で持ったマシンガンのトリガーを引く。

 チェーンソーの排気音の如き銃声が、ゼファーの耳へ届く前にゼファーは即座に回避行動をとる。


『見つけたぁ! お前、俺らの縄張りに入ってんだ、命とってもいいよなぁ……!』


 ドワーフのスピーカーからは、焦燥したようなストリートギャングのリーダーの声が聞こえてくる。


 ――ちょっとヤバいかもしれん。


 即座にゼファーは神経に埋め込まれているサイバーウェアを使い、アーミーウルフを呼び出す。

 アーミーウルフがゼファーの元に来るまで、残り3分。

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