新しい仕事
ドクターのあくどい表情を見たゼファーは、思わずドン引きしながらも胸を指さす。
「とりあえず胸の辺りを見てくれない? 昨日に重サイボーグとやり合って、ぶん殴られたからさ」
ゼファーの説明を聞いたドクターは大きくため息をつくと、何言ってんだコイツと言わんばかりの視線をゼファーに向ける。
「君ぃ、もしかしてコンバットメックやメタルビーストに乗らず戦ったわけじゃないよねぇ?」
「……戦いました」
ドクターの追求を聞いたゼファーは、申し訳なさそうな表情をすると、その場で土下座をしそうな勢いで頭を下げる。
ゼファーの謝罪を見たドクターは、再度大きなため息をつく。
「君さぁ、骨密度の上昇や特殊ナノスキンを埋め込んで頑丈になった訳だけど、不死身ってわけじゃあないんだよ?」
ネチネチとドクターは説教をしつつ、イラついたのか指をトントンと机に叩いている。
「とりあえずゼファー、X線で君の身体を見るから動くんじゃないよ」
そう言ってドクターはサイバーアイを操作する。
ドクターのサイバーアイはカシャンカシャンと音を立て変形すると、レントゲン撮影モードに切り替わりゼファーのレントゲンを撮影する。
「ふん、安心しな少なくとも胴体に異常はなさそうだ。新しいサイバーウェアへ入れ替えずにも済む。……全く面白くない」
何のサイバーウェアに入れ替えるつもりだったのか。ポツリと呟いたドクターの言葉に、ゼファーは思わず顔面を蒼白させかけた。
「胴体以外の部分も特別問題なさそうだ。それに君の身体に埋め込んだウェアは
「それはよかった」
ドクターの報告にゼファーは安心した様子で一息つく。
そんなゼファーを見たドクターは、カタログを取り出すとゼファーの目の前に突きつける。
「それよりゼファー、新しいサイバーウェアかバイオウェアを入れて見ないか!? 今なら割引もしてやるぞ!」
「いや、ドクター俺あんまり金ないし……」
「何を言っている! どうせSAERDから費用を一部負担してもらえるだろぅ! ……なんだもしかして辞めたのか?」
気づいてしまったドクターの言葉にゼファーは、気まずそうに視線を逸らす。
落ち込み気味のゼファーを見たドクターは、なんとも言えない表情でゼファーを見てくる。
「まさか本当に辞めたのか……あー悪かった今日の診察費は少し安くしておくから、帰って寝ろ」
「ドクター、優しくされると逆に傷つくんだけどぉ!」
「ふん、年上の優しさはタダなら全部貰っておけ。いつの間にかお前さんが、誰かに優しくしないといけない時になるからな」
昔を見つめるようなドクターの忠言に、ばつが悪そうにゼファーは自身の髪を触る。
ゼファーの様子に鼻を鳴らしたドクターは、薬を袋に詰めるとゼファーに投げ渡した。
「持っていけ。鎮痛剤だよく効くやつだから、本当に必要な時にだけ使えよ」
ゼファーが薬を確認すれば、袋の中には手術後の痛み止めに使用する強力な鎮痛剤が入っていた。
「いいのか? こんな強力な薬を出して」
「どうせ無職のゼファーお前さんには必要だろぉ? どうせ無職なんだから怪我をするんじゃない」
「何度も無職無職と連呼するなドクター!」
ゼファーはドクターの無職いじりに、遂に怒りが頂点に達したのか、思わず怒鳴り声を上げてしまう。
ゼファーの怒鳴り声を聞いても、ドクターはヘラヘラと笑いつつも、一通の電子書類をゼファーの携帯端末に送信する。
「それだけ元気があるなら心配はいらないな。ほら、今日の診察の明細だ。受付で払えよ? 無職」
「うるせぇ、無職じゃなくて傭兵ですー」
そう言ってゼファーは診察室を出て行くのだった。
診察室を出たゼファーは、すぐに受付に向かうと受付サイボーグに、先程ドクターが送ってきた診察の明細を見せる。
「はい、確認しました。診察費用は250ドルになります」
診察明細に書かれた費用と、受付サイボーグの言った費用が一致していることを確認したゼファーは、診察費用を支払う。
「……確認しました、またの診察をお待ちしております」
受付サイボーグは甲高い電子音声でそう言うと、ペコリと頭を下げるのだった。
*********
ゼファーがドクターの診療所を出ると、自身の携帯端末がメッセージを受信する。
すぐにゼファーはメッセージを確認すると、ディランからの仕事の斡旋についてであった。
「どんな仕事だ?」
ディランが斡旋してきた仕事の内容は、端的に言えば盗まれた物の回収である。
ノースタウンを縄張りとしているストリートギャングが、高級車を盗んだため、盗まれたの車を取り返すのが、ディランの持ってきた仕事の内容だ。
場所とどこのストリートギャングが盗んだのかを確認したゼファーは、少しだけ仕事を受けるか考える。
「よし、受けようか」
仕事を受けることを決断したゼファーは、即座にディランへ連絡を取る。
ツーコールもすればディランが通話に出てくれた。
『よお、ゼファー。仕事を受けてくれるか?』
「ああ、これぐらいなら俺一人でも大丈夫だろ。最悪に備えて、アーミーウルフを待機させておくから、アーミーウルフで突撃するし」
『それを聞いて、盗んだストリートギャング共に同情しかけたぜ。まぁ誰が盗んだのかバレた方がマヌケか』
「だな」
ゼファーとディランはストリートギャングには同情はせず、淡々と仕事について打ち合わせをしていく。報酬について、ストリートギャングを壊滅させた場合について、回収場所について、など様々だ。
「よし、大体の内容は分かった。盗まれた車を取り戻しくる」
『おぅ、さっさと行ってこい』
ディランの発言と同時に通話は途切れる。それを確認したゼファーは携帯端末を懐にしまうと、ストリートギャングと盗まれた車がある場所に向かって、ダッと走り始めた。
――情報のあった場所まで1キロ程度か。
ゼファーは走りながらそう考えつつも、自分の手持ちの武器を確認する。
愛用の刀に、ピストルと不足しない程度の量の弾薬。ストリートギャング程度であれば、ゼファーの力量も相まってストリートギャングを蹂躙できるだろう。
だが念には念を入れたゼファーは、昨日に回収したアーミーウルフを神経に埋め込まれたサイバーウェアで、命令してゼファーの近くまで移動させることにした。
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