ドワーフの脅威
『死ねえええぇぇぇ!』
もはや周囲の被害を考えないドワーフの銃撃に、ゼファーは心の中で冷や汗を流しつつも、なんとか回避をし続ける。
とはいえゼファーの身体の改造は、ハイエンドと言うには程遠い。
なぜならばSAERDの任務の都合上、安価な機械を埋め込むサイバーウェアよりも、高価で人工臓器や薬品等で肉体強化を行う、バイオウェアが優先されていたからだ。
それゆえ重サイボーグに比べると身体能力は劣ってしまう。
更に強化外骨格であるコンバットメックを、生身で戦うなど本来は論外なのだ。
――アーミーウルフが来るまで残り1分半、耐え切れるか?
ゼファーはアーミーウルフとの合流までの時間を確認し、合流までの時間の長さに苛立ちを隠せない。
『あああぁぁぁ! 死ねぇ!』
ドワーフのスピーカーから聞こえてくる正気を失ったような声と同時に、ドワーフはゼファーに向けてマシンガンを乱射し続けていた。
暴風としか言いようのないマシンガンのフルオート射撃を前に、ゼファーは回避に専念するしかない。
――クソ、バカスカ撃ちやがって。
思わず大声を出したかったゼファーであったが、叫ぶような隙がないために、心の中へ押し留める。
『ははは! あ!? リロードォ!』
ストリートギャングのリーダーが乗るドワーフはマシンガンを連射し続けていたが、遂に弾切れを起こしたのか、リロード作業を行い始める。
その隙を見たゼファーはすぐさまピストルを抜くと、ドワーフの装甲が薄い箇所に狙いをつけ、素早くドワーフに向け連射する。
しかしピストルの銃弾はドワーフの装甲を貫通せず、装甲に防がれてしまう。
『はっはぁ! 甘えよぉ! このドワーフは改造品なんだ、そんなチンケなピストルで貫通できるわけないだろぉ!』
「く!? 改造は改造でも、違法改造の類だろ!」
『そうとも言うなぁ!』
――まずいな。手持ちのピストルだと装甲を貫通しない。近づいて刀で斬れば、ワンチャンあるかもしれないが……。
ストリートギャングのリーダーの言葉を聞いたゼファーは、すぐに無言で思考し打開策を探す。だが今のゼファーの装備では、ドワーフを装甲を貫通する手段がない。
ゼファーが思考している間に、ドワーフがリロードを終えたのか、再度マシンガンを連射し始める。
鋼鉄の嵐としか言いようのないマシンガンのフルオート射撃を前に、即座にゼファーは壁で遮蔽をとって銃弾を回避する。
『だあああぁぁぁ、当たれ、当たれよぉ!』
既に1分以上ゼファーとの戦闘を続けているストリートギャングのリーダーは、怒りのボルテージが限界に達したのか苛ついた様子で叫んでいる。
そんなストリートギャングのリーダーの様子に、不信感を抱いたゼファーは1つの考えに到達した。
――あいつ
今の様子のストリートギャングのリーダーが乗るドワーフを放置してしまえば、人通りの多い場所で暴れる光景を予想したゼファーは、すぐさまこちらに誘導するようにピストルのトリガーを引く。
ピストルの銃弾はドワーフに命中するが、装甲を貫通することなく弾かれしまう。
だがこれがゼファーの狙いであった。
『そっちかぁ! 死ねええ、どぶねずみぃ!』
ゼファーのことしか目に入らなくなくなったストリートギャングのリーダーは、ゼファーに照準を合わせるとマシンガンを斉射する。
もはや自分の方に惹きつけるしかないと判断したゼファーは、あえて身を隠さずに走って銃弾を回避する。
――走れ、走れ、走れ!
マシンガンの銃弾に命中すればサイボーグ化しているゼファーといえど、無事では済まない。
時にはジグザグに、時にはジャンプし、時にはドワーフの持つアックスの間合いまで走り続け、マシンガンの銃撃を回避し続けたゼファー。
だがそんなゼファーの体力も遂に尽きてしまう。
「ハァー、ハァー、ハァー……」
『ひひひ、すげえなお前、コンバットメックを生身で相手して1分半も持たせるなんて。化け物か何かかぁ?』
「ぜー、ぜー、化け物かどうかは知らねえけどな。俺には2つの目的があったんだよ……」
『あ? 何だよ俺に聞かせて見せろよぉ!』
ゼファーの言葉に興味を持ったのか、ストリートギャングのリーダーが乗るドワーフはマシンガンを斉射するのを止め、まるで耳をすませるかのような姿勢をとる。
「1つ目に今日なぁ……夜に最高の女を抱くって決めてんだよぉ!」
『ほざけえええぇぇぇ! この
ゼファーの言葉に怒りの沸点が到達した様子のストリートギャングのリーダーは、怒鳴り声を上げゼファーをミンチにしようと、全長1メートルはあるアックスを勢いよく振り下ろした。
「2つ目は……ようやく3分経ったんだよボケェ!」
次の瞬間、ゼファーの怒りに呼応するようにアーミーウルフが、ドワーフに襲いかかる。
『なにぃ!?』
予想外なアーミーウルフの強襲に、驚きを隠せないストリートギャングのリーダーは、反応が遅れてしまいドワーフを転倒させてしまう。
アーミーウルフにのしかかられたドワーフは、起き上がろうとするが、アーミーウルフによって完全に四肢を押さえられており、起き上がることができない。
その隙を逃さないゼファーは素早くアーミーウルフに乗り込むと、急いで身体の埋め込まれているコードを接続させた。
「アオオオォォォン!」
ゼファーとの接続を喜ぶように、アーミーウルフは咆哮を上げ、ドワーフに向かって素早く噛みつこうとする。
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