ツギ・死ぬ

「なんだぁ!?」


「なんでもいい敵襲だ! 銃を抜け!」


「どっからだ。どこからフラッシュバンが飛んできた!?」


 混乱する5人のチンピラたちは、すぐに所持している武器を手に取る。

 しかし全員が準備するよりも早く、ゼファーはショットガンを構えて足音が出ないように意識しながら、チンピラたちとの距離を詰めていく。

 ゼファーはチンピラたちに照準を合わせるとトリガーを引く。つんざくような銃声と共にチンピラ一人の頭部が、発射されたスラッグ弾によって弾け飛んだ。

 1人目。

 心の中でゼファーはそう呟くと、2発目の射撃準備をしていく。

 だがそれより早く銃声を聞いたチンピラたちが、ゼファーのいる方向に銃口を向けると、闇雲に手に持った銃で撃ってくる。


「っく……」


 狙って撃ってきてない銃弾とはいえ、銃弾の雨にゼファーは思わずひやりとしてしまう。

 しかしゼファーは即座に地面へ倒れ込み銃を構えると、生きているチンピラに照準を合わせた。

 再度響き渡る銃声。

 それと同時に、一人のチンピラの胸に穴が開き、おびただしい鮮血が流れていく。

 2人目。

 再び心のなかで呟くゼファー。そしてそのまま近くにいたチンピラの首へ、ショットガンと腕で絞めていく。

 小さくギリギリと首の閉まる音がする中、力ずくでチンピラの首が回転しチンピラは絶命する。

 3人目。

 声を出さずに心の中で呟くゼファー。

 ようやく視界が戻ってきたのか、チンピラたちはゼファーの姿を確認すると、素早く照準をゼファーに合わせるとトリガーを引き、手に持った銃で射撃していく。


「ちっ……!」


 まだ生きているチンピラ2人の手にはサブマシンガンが握られており、放たれたサブマシンガンの銃弾を全て回避するのは、手だれのゼファーでも難しいものであった。

 走行することでサブマシンガンの銃弾を回避していくゼファーであったが、そのうち半分ほどの銃弾は命中してしまう。

 防弾ジャケットを着ていることで銃弾は貫通してないとはいえ、サブマシンガンの銃弾が命中すれば衝撃は襲ってくるために痛みはある。


「痛え……さっさと落ちろ!」


 ゼファーは即座にショットガンを2連射する。迷うことなく放たれたスラッグ弾は、チンピラの腹に吸い込まれるように命中する。

 スラッグ弾が命中したチンピラ2人の身体は、大きな穴が空きその惨状を物語る。

 そんな中ゼファーだけが立っており。周囲には5人のチンピラの遺体と、おびただしい鮮血が飛び散っている。

 

「はあ……SAERDのサポートがないだけでこのザマかぁ……とりあえずマリアのやつを助けに行こう」


 自分の不甲斐なさに感傷的なってしまうゼファーであったが、すぐに気を取り直しショットガンに銃弾を装填していく。

 建物の中からは銃声を聞いたチンピラたちが出てくるが、ゼファーは迷うことなくショットガンを構えトリガーを引く。

 銃声、銃声、銃声。

 ショットガンのスラッグ弾が命中したチンピラたちは、一人また一人と倒れていく。

 1発1殺を基本にゼファーは、そのまま急いで建物の奥へ奥へと走る。


「マリア……無事でいてくれ!」


 再度ショットガンに銃弾を装填しつつも、マリアの無事を思案しながらゼファーは今出せる全力で建物を走り抜けていく。


 *********


「つぅ……ここは……!?」


 先程まで意識をなくしていたマリアが覚醒すると、目に入ってきたのは知らない天井であった。

 さらにマリアは自分がロープで縛られて、動けないことを次に気づく。


「よぉ……ようやくお目覚めかあ?」


 自分が今置かれている状況から新たな情報を手に入れようと、周囲の様子を探ろうとするマリアの耳に、下卑たような男の声が入ってくる。


「あら、どちら様? 少なくとも眠り姫を目覚めさせる王子様には見えないわね」


「っ……てめえ。俺の顔を忘れたのか!」


「ごめんなさい。ほんとにどちら様?」


 火が燃えるように怒りを露わにする男の言葉に、マリアは言葉のトーンを下げつつもあえて煽るように小さく笑いながら、申し訳なさそうに視線を下げて男の素性を聞いてみる。


「ふざけんな! お前たちにチームを潰されたツギ・死ぬデスだ! お前と六条に小遣い稼ぎでよぉ!」


 ツギはマリアが聞いてもないのにベラベラと1人でに喋りだす。曰く自分のチームは30人以上のメンバーがいただの、曰く武器密輸で大金を稼ごうとしたらゼファー・六条に潰されて自分だけ生き残っただの。様々な情報を語っていた。

 しかしマリアにとっては、ツギの話は安眠音声に等しいぐらいどうでもよかった。


「結局さ、要約すると私とゼファーにチーム潰されたからこんな真似をしたってこと? 嘘ね。あんたは全部話してない」


 図星だったのかマリアの言葉に、ペラペラと喋るのを止めてしまうツギ。

 その間にツギへと視線を向けつつも、マリアはロープの拘束から逃れようと音が出ないように小さく身体を揺らす。

 そんなマリアの様子を見てツギは、だらしのない表情をさせて両手を卑猥に動かす。


「は! 誘ってんのかぁ? どうせチームを再建するのに金がいるんだ。てめぇのファックでポルノなビデオでリアリティビデオ立体動画でも作って、お前自身で金を稼いでもらおうか!」


「見た目も三下なら口も三下なのね。どうせこの騒ぎもあなた一人で立てたものじゃないでしょ? 例えば向こうの部屋にいる誰かさんとか」


 マリアの言葉に思わずツギは視線を扉に移してしまう。それを見たマリアは小さくクスリと笑みを浮かべた。

 部屋の向こう側にいる誰かについて、マリアは断片的にであるが気がついていた。だがマリアはゼファーのように、気配察知や戦闘が得意というわけではない。

 ただ部屋の向こう側の誰かが、マリアとツギの会話するたびに、その気配を発していたのだった。


「な……ぐっ……!」


 しかしマリアの言葉を聞いたツギには図星だったようで、その表情は険しいものとなっていく。

 反射的にツギは腰に携帯していたピストルを抜くと、マリアに照準を合わせトリガーに指をかける。


「あら、チームのヘッドは器が小さいだけじゃなくて早漏なのね」


「テメェ!」


 マリアの言葉に翻弄され続けるツギ。そのまま怒りの感情に任せて、ピストルのトリガーを引こうとするツギであったが、それより早く銃声が部屋の外から響き渡る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る