ゼファーのアルバイト編
デンジャラスタクシー
ある日のヴァイスシティ。
ゼファーは1人、自宅で求人の情報を眺めていた。しかし掲示されている求人は、どれもこれも使い捨てる気満々の、安い短期バイトばかりである。
「そろそろ口座に金を入れないと、生活費さえ困窮してしまう……」
既にゼファーの口座の残高は少なくなっており、早く
しかし今ゼファーは無職であるため、定期的な収入がない状態である。そんなゼファーが取れる手段は一つであった。
『んで、俺に連絡してきたわけだ』
『そりゃあお前は凄腕だゼファー。でも今のお前は無名のペーペーの
「事実を言わないでくれ……」
「そう言ってもな。事実だろプータローのゼファーくーん?」
ディランの言葉に返す言葉が出てこないゼファー。思わず通信を切りたくなってしまったが、そんなことをすれば本当に一文なしになってしまう。
仕方なくディランの言葉を聞き入れたゼファーは、なにか仕事がないか聞いてみると。
『ああ、あるぜ。短期の仕事がな』
「マジで!?」
『おうよ大マジ、大マジ』
まさかの返答にゼファーは思わず目を見開いてしまう。通信機越しのためにディランからゼファーの表情を見ることはできないが、含み笑いが籠もったような声でディランは言う。
「あるんだよ。お前みたいな無名の
「……なにか裏はないよな?」
『裏はないな。裏は』
要領を得ないディランの言葉に、ゼファーは思わず首を傾げてしまう。
『仕事内容は簡単なタクシードライバーだ。ただし勤務場所はサウスタウンだがな』
ディランの言葉にゼファーは若干顔を歪ませてしまう。サウスタウンはヴァイスシティにおいて最も治安の悪い地区であり、数多のストリートギャングが勢力争いに没頭している地区である。
「そんな所に行きたいやつの頭の中が知りたいよ」
『言うなよゼファー。俺もそう思ったさ、だがな
ディランはまるで頭を下げるような様子でゼファーに頼み込む。それを聞いてもう少し引き出せないかと考えたゼファーは、少しばかり思案した様子を見せつける。
「ん……もう一声聞きたいなぁ?」
『ぐ……どうせ受けないとヒモ生活になる無職のくせに!
「……オーケー受けるぜ。何がお前にこの依頼を消化させたいんだ……?」
『すまん。とりあえずこれだけは言える、乗る相手を俺は言えない』
普段は無頼漢なディランから、ストレス気味な雰囲気を感じ取り、思わず唾を飲み込むゼファー。
それほどまでに重要な依頼主なのか。思わず相手を聞きたくなってしまうゼファーであったが、なんとか口を閉じることに成功する。
『わりぃ、こればっかりは俺もな……』
ゼファーの気遣いに気づいたのか、申し訳無さそうに謝るディラン。
「いや、いいさ。とりあえず当日に
「そうしてくれ。仕事の日は決まり次第すぐに連絡する。じゃあな」
そう言ってディランは通信を切断する。それを確認したゼファーは、頭を悩ませながらベッドに飛び込むのだった。
「あああぁぁぁ! やばい仕事を掴まされたんじゃないだろうなディラン! 受けた俺も悪かったけどさぁ!」
ジタバタとベッドの上で悶えるゼファー。しかし受けてしまった以上、仕事は全力で完遂しないとゼファー自身の気が済まない。
――諦めるしか無い。
そう判断したゼファーは一眠りしようと瞳を閉じ、力を抜いてベッドにその身を預けるのだった。
******
3日後、ゼファーはディランから渡された車両に乗り、サウスタウンを軽くドライブしていた。ドライブの理由は、実際にサウスタウンを走る感覚を掴むためである。
10分ほど軽く走っただけでもガラの悪そうな男たちがゆっくりと、ゼファーの乗る車両に近づいてくる。
「よお、いい車に……」
そう言って男たちが懐の銃を抜こうとした瞬間、ゼファーは迷うことなくピストルを抜き、男たちの利き腕を撃ち抜く。
このまま男たちの仲間が来られても困るゼファーは、アクセルを全力で踏み抜き車を走らせる。
「クソ! 待ちやがれ!」
後方では男たちの
最も罵声を全部聞き流せなかったゼファーは窓から腕を伸ばすと、男たちに中指を突き立ててやった。
より一層
「ざまぁ見やがれ」
先程の男たちを巻いたことを確認したゼファーは、思わず大笑いたくなってしまうが、なんとか口を抑えて我慢する。
ふと、時計を見ればディランに指定された時間が近づいているため、ゼファーはアクセルを踏み指定された地点に向かうのだった。
「一体誰が依頼人だ?」
ディランからは一目で分かると伝えられていたゼファーであったが、周囲を見渡してもヴァイスシティの住人しかいない。
そうしているうちに約束の時間になる。
次の瞬間、周囲のざわめきが止まり静寂に包まれ、人々の視線は一箇所に集まっていく。それに気づいたゼファーはそちらへと視線を向けた。
そこに立っていたのは見る人全てに、絵画の世界の住人を思わせてしまう雰囲気を持った金髪の女性であった。
金髪の女性の服装は、白のワンピースに麦わら帽子と、清楚なイメージを思わずせる服装で、女性を見たゼファーは思わず見惚れてしまう。
「これは……」
ワンピース姿の女性は周囲の目など無視していた様子であったが、ゼファーの顔を見るとニッコリと笑みを向けてくる。
周囲の男性からは嫉妬と羨望の入り混じった視線がゼファーへ降り注ぐなか、金髪の女性はゆっくりとゼファーの乗る車に近づいてくる。
「あなたがゼファー・六条でいいのかしら?」
「!? ああ、俺がそうだ。あんたディランに依頼を出した奴であっているか?」
そのまま近づいてきた金髪の女性はゼファーの耳元に口を近づけると、魅惑的な声で小さく囁いてくる。
一瞬驚いた驚いたゼファーであったが、すぐに仕事モードへスイッチを切り替える。そして女性に小さな声で問いかけると、コクリと女性は頷いた。
直後、ゼファーの表情は厳しいものとなる。
「急いで車に乗れ!」
「え?」
ゼファーはそう叫ぶと、素早くピストルを抜く。その視線の先には武器を持った男たちの姿が5人、ゆっくりと近づいてくる。
男たちの手にはサブマシンガンやアサルトライフルなど、どれも殺傷力の高い武器ばかり。
金髪の女性は驚いた表情をするが、ゼファーの表情を見てすぐさま車の助手席に乗り込む。それを確認したゼファーは、全力で車のアクセルを踏み抜いた。
車の重々しいエンジン音が鳴り響くと同時に、ゼファーと金髪の女性を乗せた車は走り出す。
「逃がすな!」
「撃て!」
男たちの叫びが聞こえると同時に、銃声がゼファーの耳に届く。助手席では金髪の女性が、銃弾から身を守るために小さくなっていた。
車を運転しながらもゼファーは窓からピストルを構え、男たちへ引き金を引く。
狙って撃ったとはいえ、動きながら放たれたピストルの銃弾は男たちに命中しない。しかし一瞬動きを止めることには成功する。それが狙いなのだ。
刹那、動きを止めた男たちの眉間に、追加で射撃したピストルの銃弾が命中し、男たち3人の命を奪った。
――残り2人。
口に出さずゼファーはカウントする。そして素早くゼファーはハンドルを右に切ると、車両を路地裏に走らせた。
「クソ! どこに逃げた」
「探せ。あの女は必ず確保するんだ」
路地裏を走るゼファーの耳に、そんな声が聞こえてくる。そしてチラリと助手席を見れば、女性が不安そうな目でゼファーを見てくる。
「お客さん。どちらまで?」
「え?」
予想外だったのか、ポカンとした表情を見せてくれる金髪の女性。その表情だけでも、今日仕事を受けてよかったと、ゼファーに思わせるような表情であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます