せめて終わりはクリーンに
レヴィがシャワーを浴びているうちに、ピザを注文したゼファーとマリア。
程なくしてシャワーを浴び終わったレヴィが、湯気を漂わせながらゼファーたちのいる部屋に戻ってくる。カジュアルなルームウェアを着たレヴィであったが、マリアの服を借りたのか胸元が苦しそうであった。
「はあ~疲れました。あ、マリアさんボディーソープ頂きましたよ」
「へぇ? 何回使ったのかしら?」
風呂上がりだというのにヘトヘトな様子のレヴィ。おそらく全身に付いた嘔吐臭を落とすために何度も洗ったのだろう、普段は色白なレヴィの肌が、真っ赤になっていた。
そんなレヴィの身体から漂う匂いに気づいたマリアは、レヴィとの距離を詰め愛用のボディーソープの使用回数を追及する。
「……3回程デスヨ」
「程? なら5回は使ったと計算させてもらうわ。いつかこの借りは返してもらわないとね?」
片言のレヴィの発言を聞いたマリアは、フンと鼻を鳴らしながら指を5本立てると、若干怒ったような様子でそう告げる。
マリアのリアクションを前にレヴィは、ショックを受けた様子で肩を落としてしまう。
「とりあえず座ろうぜ? 頼んだピザももうすぐ到着するはずだし」
「ゴホン。そうですわねも、う少し待てば本日の
まるで雌豹のように唇を妖艶に舐めたレヴィは、ゼファーとマリアに狙い定めたように見つめてくる。
肉食獣に狙われたようなプレッシャーを感じた2人は、思わず背筋が凍ったかのようにブルッと身体を震わせてしまう。
そうしているうちに、ピンポーンとインターホンが鳴り響く。
「ピザが来たのかしら?」
「かもな。俺が手伝うから、風呂上がりは食べる準備をしていてくれ」
まるで逃げるようにそそくさと出ていった2人を見たレヴィは、小さく「残念です……」と呟くが、すぐに皿や包丁を用意して食べる準備をするのだった。
程なくしてゼファーとマリアの2人が、3枚のピザを持って戻ってくる。ピザはできたてなのか、2人は熱そうに早足だ。
「あら、お早い到着で」
「ああもう来たよ。早く置かせてくれ、熱くてたまらん」
ゼファーの言葉にレヴィは素早くテーブルを片付け、ピザを置く場所を確保する。ドンと重たい音と共に置かれるピザ。
「うふふ、お腹いっぱい食べられますねぇ」
「食べたら太らないかしら……?」
レヴィとマリアはそう言いながらも、2人の表情は早く食べたいと言わんばかりであった。
「それじゃあ食べるとするか」
同時に3人の「頂きます」という言葉と共に、本日の戦勝会は開始された。
*********
窓から照らされた朝日を浴びたゼファーは、眠そうな表情をしながらもゆっくりと起き上がる。そして最初に感じたのはむせ返るほどのアルコール臭であった。
周囲を見れば歩くスペースが少ない程の量の空き瓶が、床に乱雑としている。
「うへぇ……」
思わずそんな言葉が漏れても仕方がない。だがさらなる異常がゼファーに襲いかかる。二日酔いによる頭痛であった。軽く呟いただけの音が、頭に響いて頭痛をもたらした。
このまま二度寝をしてしまおうかと考えたゼファーであったが、部屋中にむせ返るようなアルコール臭の中で寝るのはキツイ。
仕方がないので頭痛を起こさないように、ゆっくりと動きながら空き瓶を片付け始めるのだった。
10分後、なんとか歩けるスペースを確保できるようになった床を前にして、ゼファーは自分に褒美を与えたいほどに満足気だ。
「しかし、酷いものだな……」
空き瓶の山にカモフラージュされていて気づかなかったが、床にはそのまま寝てしまった思われるマリアとレヴィの姿があった。
2人とも下着丸出しのあられもない姿で横になっている。しかもレヴィは空き瓶を抱きまくらのように抱きしめて寝ているのだ。
眼の前に映る2人のあられもない姿を前にして、ゼファーは思わず頭が痛くなってしまう。何だこれは?一体何があったのだ?昨日のことを思い出そうとするゼファーであるが、浮かぶのは二日酔いによる頭痛のみ。
「ぜふぁ~しゅき~❤」
「もっと気持ちよくしてくださ~い❤」
だらしのない笑みを浮かべているマリアとレヴィは、幸せそうに寝言を呟いている。そんな2人を見て微笑ましくなるゼファーであったが、すぐにアルコール臭によって現実に引き戻された。
「とりあえず換気しよう」
部屋に設置されていたサーキュレーターを起動させ、部屋中の空気の流れをよくするゼファー。
後は時間が解決してくれるだろ。そう考えたゼファーは水の入ったコップを片手に、椅子に背中を預けると喉に水を流し込む。
冷たい水が喉を刺激し、一時の快感を与えてくれる。
思わず「あ゛~」とジジくさい声を上げてしまうゼファー。すぐにマリアとレヴィに視線を向け、先程の声を聞かれていないか確認してしまう。
チラリとマリアとレヴィが寝ている場所に視線を向けてみれば、まだ眠っている様子であった。
見られていないことを確認したゼファーは、思わず目を閉じて安堵の息を漏らしてしまう。
「ふふふ。可愛いお声でしたね?」
「そうねゼファーの意外な一面が見れたわ」
背後からマリアとレヴィの声が聞こえてくる。すぐさま後ろを振り向くとニヤニヤとゼファーを見る2人の姿があった。
「お前ら……いつから起きてたんだ」
「さあ? いつからでしょう?」
ゼファーの質問をはぐらかすマリア。
そのままマリアとレヴィは下着姿のまま、ゼファーに身体を預けるように抱きついてくる。
「ねぇゼファー。賞金首の件、確認してみない?」
ゼファーの耳元に猫なで声で囁いてくるマリア。その手には賞金首の掲示サイトを表示した携帯端末が収まっていた。
マリアの声に若干どぎまぎしながらもゼファーは、自身に掛けられた賞金の件は気になった。
「見してもらっていいか?」
「オーケー。ちょっと待ってね……はいここがゼファーの賞金について書かれてる所」
携帯端末に表示された液晶には、「出願者の死亡確認をしたため、当賞金首の賞金を取り下げます」と記載されていた。
「よし! これで俺の賞金が取り下げられたな。大手を振って歩けるぜ」
「嬉しそうねーゼファー。あ、賞金サイトのコメント欄すごい炎上してる。クフフフ」
思わずガッツポーズしたゼファーをまるで、慈母のように見ているマリア。だがすぐに彼女の表情は、一瞬でケラケラと笑う小悪魔のような笑みへと豹変する。
「それでゼファー。無事に生きて帰ってこれたし、ちゃんとした報酬を貰わないといけないわよね?」
「マリアさんその気持ち分かります! ここは強気に3Pでも……」
このまま淫語を垂れ流しそうなレヴィの口を無理矢理閉じるゼファー。その隙にマリアはゼファーの背中に、豊満な胸を押し付けてくる。
背中から感じる柔らかな感触にゼファーは一瞬動きを止めてしまう。その隙を見逃さないレヴィではなかった、なんとニコニコ顔でゼファーへダイブする。
レヴィ、ゼファー、マリアの順で挟まれた3人。真ん中のゼファーは2人の身体の柔らかな感触のせいで振り切れないでいた。
「それで、どうするのゼファー?」
「どうしますか? ゼファーさん」
マリアとレヴィの熱を帯びた艷やかな声が、ゼファーの耳元をゆっくりと犯していく。そう、2人のソプラノボイスが、ゼファーの頭に響いてくのだ。
徐々に青ざめていくゼファーの表情を見て、マリアとレヴィもさすがに気づき始める。
「ちょっと、ゼファー大丈夫?」
「ゼファーさん……もしかして」
「ぎも゛ぢわ゛る゛い゛……」
嘔吐5秒前と言わんばかりのゼファーの表情を見た2人は、急いで離れトイレまあでの道筋を開けていく。
「吐かないでゼファー! 此処私の家!」
「もう、あの臭いは嫌ですー!」
阿鼻叫喚状態の2人の言葉を無視して、ゼファーはトイレへ駆け抜けていく。
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