マリアと買い物

 無音となった部屋に10秒が経過した。


「はぁ〜緊張したぁ〜」


 蓮花との通話が切れたことを確認したゼファーは、正座を崩して自然な体勢をとる。

 脱力しふと部屋を見回してると、部屋の扉からこちらを見ている瞳と視線が合う。


「何やってるんだ……マリア?」


 名前を呼ばれたマリアは、ビクッと身体を震わせゆっくりとゼファーの前に出でくる。


「ゼファーが刀を持って通話してるから、なにか真剣な話だと思って出られなかっただけよ」


「そんな話してるなら、普通にフォーマルな場所で誰にも聞かれないようにして話すさ」


「分かってるわよ。でも楽しそうだったから……」


 マリアは髪を軽く撫でつつ、恥ずかしそうにゼファーとの視線を合わせてこない。

 初々しいマリアの反応がツボに入ったのか、ゼファーは思わずクックっと笑ってしまう。


「ちょっと何がおかしいの!?」


「いやなに、昔は仲介人フィクサー気取りでストリートギャングども集めて、武器をばら撒いて王様気取りだった女がねぇ……」


「それは禁句でしょ! 今は更生してゼファーの手伝いしてるし。あの時、SAERDの隊長さんと取引したおかげで、結果として無罪になったんだから」


 かつてのマリアの様子を知るゼファーは、今でこそ昔のネタでマリアをイジれるが、当時のSAERDとマリアの関係は、まさに戦争状態と言わんばかりのものであった。

 結果としてゼファーたちSAERD側がマリアを逮捕し、隊長であるアリエラがマリアとの司法取引を行った結果、マリアはゼファーに協力する身となったのだ。


「悪い悪い。それで何か用事でもあったのか?」


「ん……ちょっと買い物に行きたいけど、この前に誘拐されたでしょ。それでゼファーに付き添ってもらおうと思って」


「それぐらいなら、喜んで付き添ってやるよ。それで何を買いに行くんだ?」


 ゼファーの問いかけに、マリアは恥ずかしそうに俯いてボソボソと小さく呟く。

 だがマリアの小さな呟きは、ゼファーの耳には届かなかった。


「すまん、よく聞こえなかったんだ。もう1回言ってくれないか?」


「下着よ下着! 上下両方ともサイズが合わなくなったから全部買い替えないといけないの」


 羞恥に染まった表情で、マリアは大声で叫ぶ。

 マリアの主張を聞いたゼファーは、自分の失態にようやく気づく。そして反射的にマリアのメロンのような大きさの胸を、思わず凝視してまう。


「……っ。ゼファーさすがにデリカシーがないと思うけど? でもゼファーが見たいなら今からでも見せるわ。私の下着姿」


 そう言ってマリアは、ゆっくりと自分のボディーラインを強調するように手を動かし、そのまま服を脱ぎ始める。

 あえて男の情欲を煽るような動きをしつつ、マリアはシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ捨てるマリア。

 そうして下着姿になったマリアは、恥ずかしそうに胸元を両腕で隠しながらも、あえて扇状的に身体をくねらせる。

 目の前で始まったストリップショーに、ゼファーは思わず生唾飲んでしまうが、同時にマリアの下着が全体的に身体と合っていないことに気づく。


「あー確かにキツそうだな……胸とかお尻とか」


「分かればいいの。それで付き添ってくれる、王子様?」


「勿論、どこまでも付いて行きますよお姫様」


 男を虜にしかねない笑みを浮かべたマリアの誘いに、ゼファーは笑顔で快く頷き、マリアの手を取る。

 そんな二人の様子は、舞踏会に出たシンデレラと王子のようであった。


 *********


 ヴァイスシティの車道を、1台の車が軽快に走っていく。

 車の操縦席にはゼファー、助手席には着替え直したマリアが座っている。


「ねぇゼファー。下着を着て欲しいならどんな種類の下着がいい?」


「ん゛……そんな話を操縦中に言うんじゃありません」


「ふ〜ん、じゃあどんな時ならいいのよ。ランジェリーショップの更衣室の中?」


「お前……俺が更衣室に一緒にいる前提で話してないか」


 ジト目のゼファーの言葉を聞いたマリアは、イタズラが成功したような表情をしながら舌を可愛く見せつける。


「あれ、バレちゃった? でも更衣室で下着姿の私を想像したでしょ。一瞬だけハンドルがブレてた」


 ニコニコと笑うマリア。ゼファーは反論しようとするが、実際に下着姿のマリアを想像してハンドルを切りそこねたので、反論ができなかった。


「ふふ、ゼファーわかりやすい反応ね。あ、そこの店でお願い」


「……んん、分かった」


 そのままゼファーはハンドルを切って、駐車場に車を入れる。

 駐車するためのスペースはあったため、問題なくゼファーは車を駐車することができた。


「んーやっぱりゼファーの運転って、丁寧よね。やっぱり前職が前職だから?」


「いやそんなわけないだろ。普通の運転だろ」


「少なくとも無職じゃなくて、すぐにタクシー運転手やバスの運転手になれると思うけどねー」


「無職いうな!」


 怒り気味のゼファーの声に、マリアはわざとらしくキャーと、媚びた声を上げゼファーから少し離れていく。

 もっともマリアはゼファーと離れる意図はなく、そのままゼファーが来るのを待つ。


「それで下着売り場に直行でいいんだよな」


「勿論、ゼファーが行きたいなら水着売り場でもどこでも行くけど」


 ゼファーとマリアの二人は、大型店舗の中を仲良く並んで歩いていく。

 店舗の中には様々な客がおり、無骨なサイバーアームを両手に装着した客。全身を鋼鉄の身体へと置き換えた客に、表面を人肌と変わらないサイバーウェアに変えた客など様々だ。

 そしてゼファーとマリアが向かうランジェリーショップの客層は、女性客が大半で男性の割合は僅かであった。

 ――流石に見られてるな。

 ランジェリーショップを利用している女性客からの視線に、ゼファーは思わず反応して振り向きたくなる。たが今はマリアの買い物に同伴しているため、目立つような真似をゼファーは避けたかった。

 そんな風に集中して考えていたゼファーであったが、ふとマリアがゼファーの腕を掴むと、そのままゼファーもろとも更衣室に入り込む。

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