決戦開始!
プロフェッサー・ネクロネットが居る建物を目指してゼファーの乗るアーミーウルフは、人通りの少なくなったヴァイスシティを疾走する。
すでに大規模な銃撃音を聞いたヴァイスシティの住人たちは、安全な建物へ避難したのだろう。歩道に人は全くと言っていい程に歩いておらず、車道も逃げる車が僅かである。
「人通りが少ないと走るのが楽でいいな」
「ワゥ!」
嬉しげなゼファーの言葉にアーミーウルフは小さく叫び返し肯定する。そうして走っている中、ゼファーの耳に集音マイクが強烈な銃撃音を拾ってくる。その音はゼファーにとって、SAERDに所属していた時に何度も聞いた音であった。
「んーこれはジーラスのロングレンジライフルの音か。ってことはアリエラは約束通り攻めているわけだ」
アリエラと結んだ約束が履行されたことを確信したゼファーは、無意識に悪そうな笑みを浮かべつつ目的地までの距離を確認する。
「マリア、目的地まで残りどれぐらいだ?」
『目的地まで残り……1000メートルだね。頑張ってゼファー』
「勿論、任せろ。俺の首へ掛けた賞金以上に後悔させてやる予定だ」
やる気満々のゼファーの言葉を聞いたマリアは、可笑しかったのか思わずクスリと笑ってしまう。マリアの笑いを聞いたゼファーは、コホンと咳払いをしつつも、プロフェッサー・ネクロネットのいる目的地を視認する。
「あれか?」
『えっと……そうねあの建物がネクロネットのいる拠点のはず』
「分かった。一旦通信を切るぞ」
『大丈夫よねゼファー?』
「次通信をするときは、俺の戦勝報告だよ」
そう言ってゼファーはマリアとの通信を切断する。
――勝てればの話なんだよな。
マリアには言えなかったがゼファーはプロフェッサー・ネクロネットが、何か切り札を隠していると睨んでいた。もしその切り札がゼファーの手に負えない物であれば、生きて帰るのは難しいだろう。
とはいえゼファーもマリアの手前、あんなことを言ったために諦めて死ぬつもりは無いのだが。
そうして思案しているうちにアーミーウルフは目的地に辿り着く。
「あそこか……」
目的地は大型のトラックを収納できそうなガレージで、一見するとヴァイスシティではどこにでもある建物である。
しかし建物周辺にはピリピリと殺気立った様子の男たちが立っており、彼らは公に武器を見せびらかしてはいない、だがよく観察すればアサルトライフルなどを隅に隠して置いている。
「ビンゴ……さあパーティの開始だ」
ゼファーが小さく呟いた瞬間、目的の建物から爆発音が響き、そして炎上した。
「なんだ!?」
まだ攻撃も何もしていないのに、建物が爆発したことに驚くゼファー。よく見れば建物周辺に立っていた男たちも、驚いた様子で周囲を見渡している。
すぐさまゼファーはアーミーウルフが男たちに見つからないように、建物から距離を離れてその身を隠す。
「敵襲か!?」
「いや違う中からだ!」
混乱した様子の男たち。その証拠に何人かは取り出したアサルトライフルで、周囲に銃弾をばら撒いている。
――めちゃくちゃじゃないか。
眼の前の惨状を前にしたゼファーは、頭を悩ませたようにそう思ってしまう。
その直後、爆炎に包まれた建物から巨大な影が現れた。それは全長3メートル以上ある大きな人影であった。人影を見た男たちはソレを見てさらなる驚きの表情を見せた。
「ちょっとネクロネットさん! それは出さない話なんじゃ!?」
「そうだよ。軍用品を出せばSAERDから
『ふん、不甲斐ない貴様らがSAERDにボロ負けしてる以上。こいつを出さねばならんだろう! そう、このスティールコングを!』
プロフェッサー・ネクロネットの叫びと共に、爆炎の中からゆっくりと大猿型のメタルビースト――スティールコングが現れる。
スティールコング。その名の如く大猿がモチーフとなったメタルビーストであり、ジーラスと互角の格闘能力と積載火力を持つ軍用の大型メタルビーストである。
「グオオオ!」
スティールコングは胸をドラミングしながらも、ギロリと隠れていたアーミーウルフに視線を向けてくる。
――バレた!?
スティールコングに視線を向けられてしまったことで、反射的にアーミーウルフを動かしてしまうゼファー。スティールコングはそこに居るのは分かってると言わんばかりに、背中に搭載したミサイルを発射してくる。
「な!?」
驚いたゼファーは思わず回避運動を取ろうとするが、ミサイルはアーミーウルフの眼の前に着弾し、アーミーウルフは炎に包まれてしまう。
『そこに居るのは分かっているぞ。ゼファー・六条!』
プロフェッサー・ネクロネットの叫びに呼応するように、スティールコングは全身に搭載された武器をアーミーウルフに向けてくる。
アーミーウルフとスティールコングでは火力の差は大きく違い、さらに格闘戦ではスティールコングが勝っている。アーミーウルフが勝てる点は一つ、機動力のみである。
勝ち目の無い戦いになると判断したゼファーは、迷うことなくアーミーウルフの背中に搭載されているマシンガンを斉射した。
「ヒィィィ!」
『ふん、アーミーウルフか、そのマシンガンは当たると不味いが……この角度は狙えるかな!』
ダダダとばら撒かれるマシンガンの銃弾。ネクロネットの配下の男たちは悲鳴を上げながら逃げ惑うが、スティールコングは2本脚で大きく跳躍するとアーミーウルフの上部を取る。
「クソが!」
スティールコングの位置取りに思わず悪態をついてしまうゼファー。アーミーウルフに搭載されたマシンガンは、地上から空中への攻撃を想定していないのだ。
仕方がなくアーミーウルフを走らせるゼファーであったが、その間に空中にいるスティールコングは再度ミサイルを発射してくる。
追尾してくる幾重ものミサイルを見て、ゼファーは思わず舌打ちをついてしまう。アーミーウルフは即座に回避運動をすることで、ミサイルを避けていく。
目標を見失ったミサイルたちはヴァイスシティの建物を巻き込んで、連続して爆発をしていくのだった。
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