誘拐

 車に乗ったゼファーとディラン。ゼファーは助手席に座り、ディランは運転席に座る。

 ゼファーがシートベルトをしたことを確認したディランは、アクセルを踏み車を発進させた。


「それでディラン、マリアが誘拐されたって話本当なのか?」


「ああ本当だ。俺が囲い込んでいるハッカーがタレコミしてきたんだ、んで裏取りしてみればマジだったてワケ」


 自慢話をするように笑いながら話すディラン。対照的にゼファーは苦虫を噛み潰したような表情で頭を掻きむしっていた。


「嬉しくない報告だ、家でも襲われたのか……?」


「いや、普通に買い物しているところを誘拐された」


 真顔で告げられたディランの言葉に、思わずダッシュボードへ頭を叩きつけてしまうゼファー。

 ゼファーはとりあえず思いついた罵詈雑言を、この場にはいないマリアへと叫ぶのだった。


「あのバカ、俺が狙われているのに、関係者のお前が外に出てどうする!」


「あー聞いてもいいかゼファー。マリア・ゴーストハーツとはどういう慣れ始めだ?」


 「どうせマリアの嬢ちゃんがいる場所までまだ遠いからな」と前置きしつつも、興味深そうにディランは馴れ初めを聞いてくる。

 大きなため息をついたゼファーは、ダッシュボードへ指をトントンしながらも、マリアとの出会いである昔のことを思い返す。


「別に大したことじゃない。マリアのアホがフィクサー仲介人気取りで武器を違法に手に入れて、それで兵隊という名前のチンピラを集めて調子に乗ってたから、SAERDが出張っただけだ」


「本当にそれだけか? お前のことを兄貴分みたいに懐いているだろ」


「それなぁ……兵隊を半殺しか全殺しのどっちかにして、眼の前でマリアに銃を突きつけただけじゃないか。それってほぼストックホルム症候群じゃん」


 ゼファーの言葉にディランはSAERDの装備を思い出す。

 そして脳裏に浮かんだ装備を用いて、目の前で虐殺をされれば心が折れてしまうだろう。ディランがその考えに行き着くのは時間の問題であった。

 

「おう……そうだな。多分タダのストックホルム症候群だな」


 一体どんな装備で出撃したのか、それを聞きたかったディランであったが、それを聞けばマリアの尊厳に関わると考えたのか、それ以上何も聞かなかった。

 そうして会話をしているうちに車はヴァイスシティの繁華街から、工場地帯まで移動していた。

 ヴァイスシティの工場地帯の中にはマフィアやギャング、チンピラの隠れ家がいくつもあり、誘拐が行われるのも日常茶飯事である。

 

「さてここのはずだ」


「悪いなディラン」


「カカカ、いいってことよ。むしろマリアがいなくなる方が、こっちにも損失になるからな」


 ディランはそう言いながら手を開け閉めさせて、ゼファーに早く行けと催促していく。

 そんなディランの様子を見てゼファーは小さく苦笑いをすると、ガンバッグを肩に担ぎ車を出るのだった。


「さて、どんな阿鼻叫喚の地獄ができるのやら……」


 楽しげに呟いたディランは車の後部座席に置いてあった、高性能マイクが搭載されたドローンにアクセスすると、そのままドローンをチンピラたちとマリアがいる建物へ飛ばした。


 *********


「さて、相手はの様子はっと……」


 ガンバッグからショットガンを取り出したゼファーは、素早くスラッグ弾をショットガンに装填する。

 そのままゼファーは物陰に隠れ隠密行動をしつつ、マリアがいる建物の周辺の様子を伺う。

 建物の周りにはチンピラたちがたむろしており、互いを視界に入れて警戒をしている。


 ――これは一人ずつ殺っていくのは難しいな。


 そう思いながらもゼファーは周囲を見渡し、何か使えないものがないか調べていく。

 そうして時間が立っていくうちに、一人のチンピラが建物から離れていく。


「どこに行くんだよ。命令以外の勝手な行動はうるさいだろ」


「小便ぐらい行かせろよ。もう限界なんだ!」


 そう言ってチンピラは建物の影へと向かっていく。残ったチンピラたちは肩をすくめつつも、彼らだけで見回りを続けてゆく。


 ――しめた。


 見回りの視界内からチンピラが一人離れたことを確認したゼファーは、すぐさま息を殺して行動に出る。

 足音を殺し、見られないように身体を物陰に隠しながら、離れていったチンピラについて行く。


「ふうーようやく我慢が終わるぜ」


 限界だったのか小走りで物陰に走って行ったチンピラは、一息つくとその場でトイレをしようとする。

 だがそれより早くゼファーの手がチンピラの首を掴む。そして次の瞬間、ゴキッという音とともにチンピラの首は180度回転した。


「これで一生我慢しなくて済むな」


 そう言ってゼファーはチンピラの懐を探り、鍵の類の有無だけは確認する。そして鍵の類が無いことを確認したゼファーは、チンピラの死体を見つからないように、丁重に物陰へ隠すのだった。

 建物の前で見回りをしているチンピラは残り5人。ゼファーの持っているショットガンに装填できる銃弾の数は6発。


 ――1発しか外せないな。


 そう思いながらもゼファーは内心小さく笑みを浮かべ、どうやって5人のチンピラを始末するかを、手持ちの装備と相談しながら思考する。

 

 ――1発しか弾丸を外せないんじゃない。1発も弾丸を外せるんだ。


 そう考えたゼファーは腰に携帯しているピストルを抜くと、ショットガンと同時に構えて思考を機械の如く冷徹にシュミレーションし始めた。

 息を殺して機会を待つゼファー。そうしているうちに、5人のチンピラたちが全員互いの視界に入る。


 ――今だ。


 タイミングを見計らってゼファーは、フラッシュバンを音もなく投擲する。ヒュンと小さな音とともにフラッシュバンは飛んでいき、チンピラたちの中心に着弾する。

 次の瞬間、ボッという音と目を焼く程の閃光が5人のチンピラたちを襲う。

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