第2ラウンド

 爆炎の中、ゼファーが駆るアーミーウルフは、スティールコングを前にして唸り声を上げながらも逃げの一手を取る。それを見たスティールコングはゆっくりとその巨体を走らせつつも、全身に装備されたマシンガンをフルオート射撃する。


『どこへ行くのだね? SAERDのゼファー・六条くん?』


「うるせぇ。SAERDはもう退職したんだ! 今のところこの一手しかない」


 そう言ってゼファーはアーミーウルフを操縦し、マシンガンの豪雨を回避していく。アーミーウルフの回避行動はまさに、その名の通り狼のごとく俊敏であった。

 逃げつつもアーミーウルフは背中のマシンガンを斉射をするが、スティールコングは器用に道路のコンクリートを剥ぎ取り、盾にすることでマシンガンの銃弾を防いでいく。


「あぁ! クソ最悪だ。どこのバカがスティールコングなんて物を卸しやがった!」


 スティールコングはかつて軍の主力メタルビーストの一角として担うほどの名機であった、しかし年々の戦費の急上昇化に伴い、主力機の座をジーラスに降ろされた経歴がある。そんな経歴があったスティールコングであるが、名機と呼ばれるスペックを兼ね備えたメタルビーストなのだ、歩哨役がメインのアーミーウルフが戦えば十中八九勝つことができない。

 かつて軍に所属していたゼファーは、アーミーウルフとスティールコングの戦力差というものを、身にしみるほどに分かっていた。

 アーミーウルフは走る、走る、走る。スティールコングの暴風雨のごとき攻撃の雨を回避しながらも、ある一点を目指してとにかく走り続ける。


「はぁ、はぁ、はぁ。クソ、息が切れてきた」


 呼吸が早くなっていることに気づいたゼファーは、迷うことなくアーミーウルフに搭載されている呼吸器型の酸素スプレーを手に取り、酸素を吸入する。

 吸って、吐いて、吸って、吐いて。何度か繰り返すことで、ゼファーの呼吸は落ち着き、緊張も僅かであるが落ち着いた。その間にもアーミーウルフはスティールコングの攻撃を回避し続けている。


『ハハハアアア! どうしたゼファー・六条? 逃げるばかりではないか。これではこのスティールコングの凄さを再認識できん!』


「うるせぇ! 街中でミサイルをバンバン撃ちやがって! 他の人のことも考えろ!」


『はっ! 我が教義を信じぬ者なぞ塵芥にすぎん。ならば死んでしまえばいい!』


 ――クソ狂人め。

 そうゼファーは叫びたかったが、スティールコングの攻撃に集中して続けて、叫ぶことすらできない。

 回避を続けていたアーミーウルフであったが、遂に飛翔してきたミサイルが脚部に命中し、爆発する。


「ぐっううう!」


 アーミーウルフのコクピットを襲う衝撃に、ゼファーはうめき声を上げてしまう。素早くアーミーウルフの状態を確認するが、脚部に甚大なダメージが入っており、走行や歩行さえも難しい。


「クソ、すまんアーミーウルフ!」


 ゼファーは悔しそうにそう言うと、アーミーウルフに接続していたコードを抜き、自身の身体に収納する。そしてアーミーウルフのコクピットを脱出する。

 生身のままである地点まで走っていくゼファー。そんなゼファーの姿を見たプロフェッサー・ネクロネットは、嬉々として笑い声を上げる。


『ははは、ゼファー・六条。なんて無様な姿なんだ、今や君はモンスター映画に出てくる、名無しのモブ同然といったところだ!』


「うっせえ! 名無しなんて名前の奴はいねえ!」


 プロフェッサー・ネクロネットの言葉に反論しつつも、ゼファーは走って逃げることだけに集中する。走り、疾走し、ただ前をのみを見て逃げていく。目的の場所に向けて。


『一体、何を考えている』


 諦めることなく逃げ続けるゼファーの様子を見て、プロフェッサーネクロネットは違和感を感じたのか、スティールコングは追いながらも周囲を見渡す。それを邪魔するようにゼファーは、腰に携帯しているピストルを抜くと、素早くスティールコングのセンサーに向かって射撃する。


『ええい、小癪な。さっさと死ねえい!』


「それはどうかな?」


『なに!?』


 ゼファーの言葉にプロフェッサー・ネクロネットは疑問を持ってしまったのか、スティールコングは一瞬動きを止めてしまう。

 次の瞬間、ズンと耳をつんざくような爆撃音が響き渡る。

 そして空を切り裂くようにロングレンジライフルの銃弾が、スティールコングの頭部に命中した。


『こんなところにスティールコングが!? ジーラスこれより突貫する!』


『ええい、貴様これが目的か、ゼファー・六条!』


「そうだよ。目には目を、軍用機には軍用機だ」


 怒り狂ったような声を上げたプロフェッサー・ネクロネットは、スティールコングを操縦しゼファーを殺そうとする。だがそれをSAERD隊員の乗るジーラスが邪魔をする。

 大猿型のスティールコングと肉食恐竜型のジーラス。2体のメタルビーストの格闘戦は、怪獣映画と見間違う程に迫力があった。

 最初に動き出したのはジーラスであった。己の尻尾をフルスイングしたジーラスの一撃を、スティールコングはバックステップして紙一重で回避する。

 

『舐めるなぁ!』


 プロフェッサー・ネクロネットの叫びに同調するようにスティールコングは雄叫びを上げると、一気にジーラスとの距離を詰め強烈なパンチを胸部に叩き込む。

 耳を塞ぎたくなるような金属音。その直後、ジーラスは崩れるように倒れ込んだ。

 ――まずい。今のはいい一撃を食らってしまった!

 離れていた所からジーラスとスティールコングの戦いを見ていたゼファーは、心の内で焦ったようにそう思う。

 事実、ジーラスに搭乗してるSAERD隊員は、先の一撃で意識を失ってしまったのだ。

 仕方なく次の策を考えるゼファーであったが、すぐに思い浮かんだのは禁じ手であった。

 作戦を実行するか否かを考えるだけでゼファーの表情は迷いで歪んでしまう。しかしこの現状を打破できるのは、禁じ手以外無いと判断したゼファーは即座に実行する。


「うおおおォォォ!」


 生身でスティールコングと倒れているジーラスの元へ走るゼファー。ゆっくりとだがスティールコングはこちらを見てくる。


『うん? やけになったか。では木っ端微塵となれぇ!』


 プロフェッサー・ネクロネットの言葉と共に、スティールコングのFCS射撃統制システムはゼファーをロックオンする。

 しかし素早くゼファーはピストルを抜くと、スティールコングのセンサーに向けて引き金を引く。ピストルの銃弾では装甲を貫通することはできない、だがセンサーなら話は別だ。

 ピストルの銃弾により一瞬だけスティールコングのセンサー機能を妨害したゼファーは、全速力で走っていきジーラスのコクピットのに侵入する。


「悪く思わないでくれよ……」


 気絶していると思われるSAERD隊員を押しのけたゼファーは、素早くコードをジーラスにジャックインする。一瞬でゼファーの五感がジーラスのセンサーと同調し、文字通り人機一体となる。


「いくぞ、ジーラス!」


「ギャオオオォォォ!」


 ゼファーの言葉に呼応するように、ジーラスは雄叫びを上げて立ち上がり、スティールコングと相対する。

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