勝利の栄光
最初に動き出したのはゼファーが駆る鋼鉄の狼――アーミーウルフであった。
アーミーウルフは自由自在に動きながらも、背中に搭載されたマシンガンを連射していく。
嵐を連想させるマシンガンの銃撃の雨を前に、レヴィはそのまま受けず即座に回避行動をとる。
様々な回避運動をするレヴィであったが、アーミーウルフの搭載されたマシンガンの連射性には叶わず遂には命中してしまう。
「ちぃ!」
腕を撃たれたレヴィの鮮血が舞い、埃っぽい周囲を赤く染める。しかしレヴィも即座に背中より生えた尻尾を動かし、反撃に移ろうとする。
だがアーミーウルフは素早く走り抜け、レヴィの尻尾の攻撃を紙一重で避けていく。
そのまま追撃と言わんばかりに、胴体に搭載されたアサルトライフルを斉射するアーミーウルフ。
2門のアサルトライフルから放たれた無数のアサルトライフルの銃弾は、レヴィに向かって飛翔していく。
「な……舐めるなぁ!」
整った顔を赤い血で化粧したレヴィは、幽鬼のような身体の奥底から発せられた雄叫びを上げつつ、アサルトライフルの弾幕を前に突撃する。
重サイボーグクラスの改造を施しているレヴィの身体に、貫通したアサルトライフルの銃弾はおよそ半数である。もう半数の銃弾は貫通せずにレヴィの肌にはじかれる。
「クソ……流石にアサルトライフル程度じゃ中々効きが悪いか」
悪態をつきながらもゼファーの乗るアーミーウルフは、マシンガンを斉射しつつレヴィとの距離を詰めていく。
この先の未来を予期したレヴィは即座に後ろへと下がろうとするが、それよりも速くアーミーウルフの突進がレヴィの腹に命中する。
「ぐ……!」
「終わりだレヴィ。俺の勝ちだ」
顔を上げたレヴィが見たのは、目の前に立ちふさがったアーミーウルフが、レヴィの眼前にマシンガンを突きつけた姿であった。
さすがにこの状況で返せる手が無いと判断したのか、レヴィは両手を上げて降参の姿勢を示す。
「負けました。降参です」
「なら勝者としての権利を使わせてもらおうか」
「なにをなさいます? 私の身体を蹂躙でも?」
「いや……そんなことはしない。するのはこれだ」
その直後、アーミーウルフはレヴィの身体を口で掴み上げると、そのままその場を走り去っていく。
まさかの扱いに驚きを隠せないレヴィ。しかしすぐに毒気が抜かれたのかクスクスと笑みをこぼす。
「ええ、これが私のゼファーさんです。ゼファーさん、後でいっぱい愛してあげますよ」
「勿論夜になったらでな」
「勿論です。マリアさんとのお話もあるでしょからね」
*********
建物から逃げることに成功したマリアは、外に待機していたディランに回収され、そのままディランが根城にしているバーまで送り届けられた。
一人バーの外でゼファーの帰りを待っているマリア。ディランはといえばバーで酒を楽しみながら、ゼファーの帰りを待っている。
「まだ帰ってこない……ゼファー」
既にゼファーとマリアが別れて1時間がたっただろうか、珍しい様子で寂しそうに小さく呟くマリア。
そんな中、地面が揺れるのをマリアは感じ取った。
「ん? 何……これ」
地震による揺れではない。地面の揺れは徐々に近づいて大きくなり、マリアのいる方向に近づいてくる。
警戒しながらもとっさにマリアはピストルを抜く。
次の瞬間、レヴィを口にくわえたアーミーウルフがマリアのいる方向に向かって走ってきた。
「何!? アーミーウルフ? こんなところで!?」
目の前に現れたアーミーウルフ驚きを隠せないマリアは、思わず手に持ったピストルを落としそうになってしまう。
驚いた様子のマリアを無視しながらも、アーミーウルフはレヴィを地面にゆっくりと下ろす。
そしてアーミーウルフのコクピットから、素早くゼファーが出てくるのであった。
「ゼファー!」
「よぉマリア。無事そうだな」
「そっちこそ、あの重サイボーグと戦って無事だったの?」
「もちろん、プロですから」
先程のレヴィとの戦闘を思い出し、マリアは心配した言葉をかける。だがゼファーはそんなマリアの考えとは逆にニカっと笑みを見せる。
身体に目立った傷のないゼファーの笑みに釣られ、思わずマリアも笑みを返してしまった。
「ふふふ〜」
笑顔であったマリアを見てレヴィは、微笑ましいものを見たと言わんばかりに口元の笑みを手で隠しつつも、男受けする両脚はモジモジと絡み合っていた。
「ところでなんでそこの重サイボーグ女は、「私わかってます」みたいな雰囲気でいるのよ」
そんな様子のレヴィを見てマリアは、ゼファーに思わず掴みかかる。先程の戦闘の際には、戦闘に巻き込まれ恐怖で失禁しかけたほどのである。そんな恐ろしいレヴィを前にして、マリアの言葉は若干震えていた。
「いやーどうせ殺りあったら、夜が激しいと思って回収したんだけど……だめ?」
「ばぁかー!」
夜のことが楽しみそうなゼファーの返答を聞いた瞬間に、反射的にマリアは若干キレた様子でゼファーの胸をペシペシと叩きにいった。
「うう……っわたしじゃだめかーゼファー!」
「いえあのマリアさんがだめという訳では……」
「じゃあなんで私をベッドに誘ってくれないのよぉー」
マリアとゼファーの二人は、バーに入るとそのまま個室で打ち上げを行なっていた。なおレヴィは二人が打ち上げをすると聞いて、化粧直しをすると言ってその場を元気そうに去っていった。
そして今、アルコール度数の高い酒を飲んだマリアは、完全に酔いが回ってゼファーにうざ絡みをする飲んだくれになっていた。
「ゼファー……なんで私じゃだめなの? ベッドに誘ってくれないの? 私同年代の娘よりスタイルいいよ?」
「あーそういうこと言うから駄目です。もしOKだとしてもそんなに酔ってる今のお前じゃ、ベッドに誘うのは無理かな」
「そーなの? だめ?」
酔ったマリアは勢いのままゼファーの胸元に飛び込むと、そのままゼファーの胸に頬擦りをして、鼻いっぱいに匂いを堪能していく。
「ゼファーいつもありがと……なんでこんなめんどくさい女を優しくしてくれるの?」
「そりゃあマリアが大事だからだよ」
マリア自身これは夢だと思い込んでいるが、ゼファーの耳にはマリアの甘えた台詞が全て届いていた。
とはいえゼファーも今の雰囲気でマリアに現実へ戻すような真似はせず、マリアに水を差し出すだけの優しさをゼファーは持ち合わせていた。
「じゃあちゅーして! 大事ならちゅーしれ!」
ゼファーに子供扱いされることを怒ったマリアは、両手をゼファーの背中に回し、唇をゼファーの口元へと持っていく。
リップの塗られたマリアの唇が、ゼファーの口元へゆっくりと近づいてくる。
ゼファーはここで突き放すか否か、頭脳をフル回転させ思考する。しかし答えを出すよりも早くマリアの唇とゼファーの唇が紙一重で触れ合う距離に近づく。
少し頭部を動かせばキスできる距離まで近づいたゼファーは、ふとあることに気がついた。
酸っぱい臭いがする。
なんの臭いか悩むより前に答えは出た。マリアの口から出た吐瀉物が、ゼファーの顔に向かって勢いよく噴き出した。
「げぇえええ!」
先程の言葉がどちらの口から出たかは、想像にお任せする。
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