強襲


 自宅に戻ったゼファーは、持ち帰ったダンボールを解体すると、ジャケットにスラックスというラフな服装のまま外へと出かけていく。


 外に出れば騒がしい人々の声と、そこらじゅうにあるディスプレイから聞こえるCMの音が、ゼファーの耳に入ってくる。

 変わらない日常の中、無職になったゼファーは迷うことなく道を進んでいく。

 左を見れば過激な服装をした客引きが、一人でも多く客を捕まえようとしている。

 右を見れば二人のチンピラが言い争い、今にも銃を抜きそうな勢いであった。

 二人のチンピラの周囲に人は少ないが、まるで日常のように人々は歩いている。なぜならこれがヴァイスシティでの日常風景だからである。


 ――人の多い往来で抜きそうだな……止めるか?


 すでに法執行組織の人間ではないゼファーであったが、つい癖で殺し合いに発展するのであれば、実力行使をしようと考えてしまい。反射的に腰に携帯しているピストルに手をかけようとする。


 ――いや俺はもうSAREDを辞めたんだ。降りかかる火の粉でもない限り、止める理由はないな。


 そう考えるとゼファーはピストルから手を離し、そそくさと走り歩きでその場を離れようとする。

 直後、ゼファーは殺気を感じ取り、即座に視線を殺気が飛んできた方角へと向けながらも、腰のピストルに手を付ける。


 ――誰だ? こんな往来でギラギラと殺気を飛ばしてくるのは?


 ゼファーの視線の先には、5人のチンピラらしき容貌をした男たちが、ピストルを構えながらゼファーをにらんでいた。

 ピストルを見たゼファーは即座に走り出すと、腰に携えた刀を鞘に入れたまま抜き、そのまま刀を振り上げて男たちに襲いかかる。


「ヤエエエェェェ!」


 あえて奇声を出しながら襲いかかることで、相手の勢いを挫く作戦に出たゼファー。

 そんなゼファーを見た男たちは、驚きつつもピストルのトリガーを引く。

 何発もの響き渡る銃声と共に、セミオートで放たれる銃弾。

 トリガーを引く瞬間を視認したゼファーは即座に回避行動へと移るが、流石に全弾回避することは叶わず、3発命中してしまう。


「痛えなぁ!」


 防弾ジャケットとバイオウェアによる強化皮膚、そして骨密度増幅による三段防御により、銃弾はゼファーの身体を貫通することなく地面に落ちていく。

 銃弾は身体を貫通しなかったが、痛みはゼファーの肉体を襲う。そんな痛みにゼファーは耐えつつも即座に物陰へ身を隠した。

 銃声を聞いた周囲の住人たちは、悲鳴を上げて逃げていく。しかしゼファーと男たちにとっては興味のないことであった。


「例のやつだ!」


「殺せば当分遊んで暮らせる金が手に入る!」


「銃弾が効かねえなら貰ったアレ、取ってくるぜ」


 男たちはどよめきつつも血気盛んに自身を鼓舞するように叫ぶ。そして一人の男がこの場を離れていくのであった。

 ――何を貰ったんだ……?

 男たちの会話から情報を手に入れたゼファーは、怪訝な顔をしつつも即座に切り替えこちらもピストルで反撃する。

 互いにピストルの撃ち合いになるが、男たちが同時にリロードする瞬間を確認したゼファーは、ピストルを手放して両手で刀を持ち、全身をまるでバネのようにしならせた。


「シャアアアァァァ!」


 一息で男たちとの距離を一気に詰めたゼファーは、一刀のもとに男たちの内一人の首を切断する。

 鋭い斬撃による一撃を受けた男の首からは、おびただしい量の血が勢いよく飛び出し周囲を赤く染めていく。

 そして頭部を喪した男の身体は、ゆっくりと膝から地面に倒れていきそのまま二度と立ち上がることはなかった。

 そんな光景を見た男たちは思わず唖然としてしまい。ゼファーに対してピストルを撃つのが遅れてしまう。

 その隙をつくようにゼファーは素早く残った男たちのうち、一人に対して刀を心臓へ一突きを叩き込む。

 心臓を刀で突かれた男の胸からは鮮血が流れ出し、ぐったりと男は脱力してしまう。


「てめえええぇぇぇ!」


 仲間が二人やられたことを認識した男たちは、激昂したように声を上げてピストルを連射し続ける。

 しかしそれより早く力の抜けた男の頭を掴んだゼファーは、そのまま男の身体を盾のように構えると銃弾を防ぐのであった。

 ゼファーによって盾にされた男は、男たちのピストルの銃弾を受けていき、命なき亡骸はますます傷ついていく。


「おいおい照準がぶれているぞ?」


 わざと男たちに聞こえるようにゼファーはあえて煽る。それを聞いた男たちは怒りに任せ、ゼファーに対してピストルのトリガーを引き続けるが、ゼファーは上手く銃弾を亡骸の盾で防いでいく。


「クソ! 弾切れだ。身を隠すぞ」


「こっちもだ!」


 カチカチカチと乾いた音が、男たちの持っているピストルから鳴り響く。

 男たちは激情に身を任せてピストルを撃ち続けたが、そのせいで弾倉に銃弾が残っていないことに気づけなかったのだ。

 リロードの隙をついてゼファーは、亡骸を放り捨て地面を勢いよく蹴り距離を詰めていく。そして力を込めて刀を横一文字に振るった。


「がっ!」


 周囲を赤に染めるように鮮血が飛び散り。そして悲痛な男の声が響き渡る。

 ゼファーの一撃はピストルを持った男の腕を、骨ごと切断したのだ。

 ポトリと地面に落ちる男の腕。

 痛みに悶える男であったが、悪態をつくよりも早くゼファーの抜いたピストルが、男の口にねじ込まれていた。


「バーン」


 次の瞬間、男の頭部に3発のピストルの銃弾が撃ち込まれる。そのまま続けてゼファーは、男の首に向かって力いっぱい蹴りを叩き込む。

 ぐしゃりと鈍い音が、周囲に響き渡る。


「あ……あ……!」


 恐怖に支配された最後の男の顔を見たゼファーは、ニタリと邪悪な笑みを浮かべる。

 ゼファーはすでに事切れている死体を投げ捨てると、両手で恐怖している男の顔を力を込めて掴む。


「はい。おしまい!」


 その言葉と同時に。男の頭部は180度回転した。

 歪な頭部をした男の遺体、そして周囲の亡骸を前にしてゼファーは、ハッとあることに気づいてしまう。


「しまった……これだとなんで俺を狙ったのか聞けないな」


 無職になってムシャクシャしたゼファーは、相手の狙いを聞き出すことを忘れて思わず全滅させてしまった。自分の失敗に思わず肩を脱力し項垂れてしまうゼファー。

 念の為にゼファーは死体の中を確認し始める。理由は男たちがどんなサイバーウェアを入れているのかを調べて、男たちの資産を予想するためである。

 1分程死体をいじっていたゼファーの耳に、異音が聞こえてくる。

 それは機械の駆動音と、重々しい何かが近づいてくるような衝撃音であった。

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