後処理

 振り向いたゼファーの顔を見たSAERD隊員の表情は、血の気が引いたように青ざめていく。そんな彼の表情を見たゼファーは、思わず意地の悪い表情をしてしまう。


「六条さん!?」


「よ! 今じゃ流れの傭兵マーセナリーさ。しかも最近名乗り始めた無名の奴」


「ではジーラスを動かせたのも……」


「そりゃあ勿論、どんなセキュリティか分かってる人間からすれば、頑丈なセキュリティでも無問題モーマンタイだぜ」


 SAERD隊員の言葉にゼファーはジーラスに乗れた種明かしをしながらも、ニカッとイタズラが成功した悪ガキのような笑みを見せつける。


「今の言葉、聞かなかったことにしていいですか? ネクロス隊長に聞かれたらうちSAERDセキュリティ総洗いじゃないですか……」


 今後のことを考えてしまったSAERD隊員は、頭痛に悩まされたように頭を抑えてしまう。しかしゼファーは無情にも追い打ちを仕掛ける。


「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ。勿論アリエラには報告するに決まってるだろ。どうせ本人も気づいているだろうしな」


 希望を斬り捨てるように告げられたゼファーの言葉に、SAERD隊員は頭を抱えて座り込みブツブツと現実逃避を始めてしまう。そんな様子を見てさすがに悪いと思ったゼファーは、手に持っていたプロフェッサー・ネクロネットの首をSAERD隊員の方に放り投げる。


「うわ!? 生首!?」


 未だに切り口から血が吹き出ている生首を投げ渡されたSAERD隊員は、気色悪さから思わず投げ捨てようとしてしまう。だがよく見れば生首の顔が、プロフェッサー・ネクロネットであることに気づき、捨てるのだけは免れた。

 血で赤く染まりながらもSAERD隊員は、血まみれの生首を抱いた状態でゼファーをジト目で睨んでくる。


これ生首を渡されても困るんですけど……」


「俺も困るんだよ。コイツに賞金かけられたせいで困ってたんだ、SAERDが公的にネクロネット死亡を告知してくれなきゃ、俺の明日も狙われちまう」


 困った様子をしたゼファーの説明を聞いたSAERD隊員は、「今回だけですからね」と念押ししつつもすぐに、他の隊員にネクロネットの死亡を報告する。

 程なくしてヴァイスシティの裏社会でも、プロフェッサー・ネクロネットは死んだ、ということが噂になるであろう。


「とりあえず元隊長はこの後どうするんですか? パーッと祝勝会でもするなら参加しますよ。何なら他の面子も呼びますし」


「そんなわけ無いだろ。俺も忙しいんだから」


「一応なにをするか聞いてもいいですか?」


 ゼファーの様子からある程度察したのか、SAERD隊員の視線は冷たいものになっていく。そして質問を聞いたゼファーは笑いながら小指を立て、「お・ん・な」と口パクをする。

 ゼファーのリアクションを見て、無意識に一歩下がる程にドン引きしてしまうSAERD隊員。絶句されているがゼファーにとっては交渉ネゴシエーションに等しい行為なのだ。


「一応聞きますけど、今日の相手はネクロス隊長じゃないですよね? ああ、これは個人的な興味です」


「今の発言、本人に聞かれたら後が地獄だぞ? まあアリエラじゃないことだけは本当さ」


「よかったぁー今回の事件の打ち上げをしている時に、ネクロス隊長が六条さんの上で喘いでるのか思うと、怖いもの見たさで打ち上げに集中できないですよ」


『やあ、面白そうな話をしてるね』


 SAERD隊員との雑談中の最中に、通信機から冷え切ったようなアリエラの声が聞こえてくる。それを聞いたゼファーとSAERD隊員は、背中に氷を入れられたように背筋を震わせてしまう。

 

「お、お疲れ様です隊長ぅ!」


『うん。お疲れ様、それでさっきの話だけど……』


「あ! アリエラ、ネクロネットは殺ったぞ。その証拠もコイツに渡してるからな!」


 アリエラから死刑宣告を告げられるような様子のSAERD隊員を庇うように、急いでゼファーは別の話題を振ってアリエラの話を遮る。通信機の向こう側からアリエラの考えるような小さな吐息が聞こえてくる。それはゼファーとSAERD隊員にとって生か死のコイントスであった。


『ふーんよく分かったよ。君、ネクロネットの首を回収して急いで帰投するように。ああ、ジーラスのコクピットは汚さないようにね』


「は、はい! 只今より帰投いたします!」


『それじゃあお疲れ様』


 そう言ってアリエラは通信を切断した。沈黙する通信機を前に、ゼファーとSEARD隊員は緊張が解けたのか小さく一息つく。


「びっくりしたー」


「噂をすればなんとやらですね……では生首をもって自分は帰投します」


 ネクロネットの生首を丁寧に持ったSAERD隊員はビシッとゼファーに敬礼をすると、ジーラスに乗り込んでその場を後にする。1人残されたゼファーは乗り手のいなくなったスティールコングと、傷ついて動けないアーミーウルフをチラリと見る。

 このままスティールコングに乗ってアーミーウルフを放置すると考えたゼファーであったが、それは後味が悪いため却下。動けるスティールコングを放置して、アーミーウルフと一緒に帰る。その場合SAERDにスティールコングを接収されてしまう。

 ――スティールコングを接収されるのは、なんか嫌だよなぁ……。

 個人的な考えとはいえ2機のメタルビーストを回収したいと思ったゼファーは、すぐに携帯端末でディランに連絡をする。


『よう、こっちはお祭り騒ぎだがどうした? 泣きつきにでも来たか?』


 ゼファーが今日プロフェッサー・ネクロネットを襲撃することを知っているディランは、楽しそうな様子で通信に出てくれる。ディランの言葉通り携帯端末の向こう側から聞こえる音声は、騒然としたものである。


「半分当たりだ、耳が痛い。実はメタルビーストを回収したいんだが、極秘裏に回収できる伝手コンタクトがお前しかないから頼みたくて」


『ああ? メタルビーストぉ? んなもん回収業者に頼めばいいだろ。なんでそんなことを……』


 ブツブツと文句を言っているディラン。このままでは交渉は決裂すると判断したゼファーは、切り札を1枚切ることにした。


「運んで欲しいメタルビーストな、1機はスティールコングなんだ」


『はぁ? あの軍用品のスティールコング? マジかよどこでそんな代物の用意したんだ。それこそSAERDが出張ってくる……あープロフェッサー・ネクロネット絡みか』


「正解。ちょうど今ネクロネットを始末したところなんだけど、割りと綺麗めなスティールコングが放置されてる状態なんだ」


『マジかよ。とりあえずその話を聞きたいがOK分かったぜ。こっちで回収業者手配してやる、ありがたく思えよ』


「勿論、そっちの利になる話もあるしな。それじゃあ切るぞ」


『へへへ、楽しみにしてるぜ』


 ディランの言葉を聞いたゼファーはそのまま通信を切断した。

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