ヴァイスシティの長い一日
プロフェッサー・ネクロネット襲撃予定の日。
アーミーウルフに搭乗したゼファーは、いつでも襲撃できるように準備をしていた。マリアはオペレーションとハッキングを専念するために、安全な場所に避難している。
小さく息を吸って吐くを続けるゼファー、心臓の鼓動が速まっているもよく分かる。
『ゼファー、今緊張している?』
「まあな、でもこれぐらいならSAERDに所属していた頃なら日常だった」
ワクワクし緊張した様子の見えないマリアからの通信に、ゼファーは思わず頭が痛くなったが、ここで通信を切断したら後でうるさいと判断し、そのままマリアとの会話を続ける。
『ふーん、緊張をほぐすために歌でも歌いましょうか?』
「止めてくれ。今集音マイクが拾う音を聞くために集中してるんだ」
『わかったわ。とりあえず通信を終えるわ』
集音マイクが襲撃の音を拾うのを待ち続けること3時間。ゼファーの額には若干の汗が垂れている。思わず汗を拭いたくなるゼファーであったが、即座に動けてもいいように我慢していた。
そして、その時は訪れた。
複数の場所で爆破音と銃撃音が鳴り響くのを、アーミーウルフに搭載された集音マイクが拾う。それを聞いたゼファーは即座にアーミーウルフを走らせる。
目標はプロフェッサー・ネクロネットがいると思わしき場所。
「始まったか!」
戦闘音が聞こえたゼファーは、すぐさまアーミーウルフを操縦して、目標の場所に向かうのだった。
「グルルルゥゥゥ!」
地面を蹴るようにヴァイスシティを走り抜けていくアーミーウルフ。そんな光景を見たヴァイスシティの住人たちは、先程の戦闘音も相まってパニック状態になっていた。
逃げるヴァイスシティの住人たちにゼファーは見向きもせず、真っ直ぐ目的地にアーミーウルフを走らせていく。
銃撃音と爆撃音が響く戦場から逃げる車や人々の波、それとは逆方向にアーミーウルフは波を避けながらも疾走して目的地へと向かう。
「くそっ、一体なんなんだ!」
「分からねえ、本部との通信も全然繋がらない」
「何か? これは単発的な襲撃じゃないのか!?」
ネクロネットの手勢の声をアーミーウルフの集音マイクが拾ったのか、ゼファーの耳に2人の声が聞こえてくる。
聞こえてきた話の内容からして、相手は下っ端と考えたゼファー。たが生きて逃げられ、何処かに潜伏されても困ると判断する。
主の意思を受けたアーミーウルフは、背中に背負ったマシンガンの照準を下っ端2人に合わせると、走りながらもマシンガンを斉射する。
途切れることなく響き渡る銃声。そして放たれたマシンガンの銃弾は下っ端2人の身体を的確に肉片へと変えた。
「クリア……進むぞ」
『オーケー。攻撃予定地点まで距離3,000メートル』
アーミーウルフの光学カメラが撮った凄惨な景色を確認したゼファーは、目の前の光景に目もひそめずにアーミーウルフを進ませた。
そしてゼファーの報告を受けたマリアも、感情を露わにせず淡々とオペレーションを続けるのだった。
*********
その日、プロフェッサー・ネクロネットの手勢のチンピラたちは、あくびをしながら日課の警戒をしていた。彼らはネクロネットの思想に共感したわけでも、共犯というわけでもない。ただプロフェッサー・ネクロネットに付いた彼らは毎日食事にありつけ、女を抱くことができるからだ。
そんな肉欲と食欲を満たすためネクロネットについたチンピラたちであったが、そんな彼らでもズン、ズンと重い振動に気づく。
「おい何の音だ?」
「わかんねえよ。どっかのストリートギャングが抗争でもしてるんだろ」
笑いながらも何が起きてもいいように軽く警戒するチンピラたち。だが徐々に大きくなる振動に、彼らの表情は恐怖へ変化する。
「近づいてくるぞ!」
「クソ、アサルトライフルを持っていけ!」
チンピラたちは即座に銃器を持ち出すと、振動のする方向に視線を向けて何が起きているのか確認する。眼の前に映る光景を見た彼らの表情は、絶望に満ち溢れていた。
「あ……あ……!」
「なんでSAERDがここに……」
チンピラたちの眼の前には歩兵2小隊にアーミーウルフ3機、そしてティラノサウルス型のメタルビースト――ジーラス1機が近づいてくる光景が目に映る。
歩兵2小隊は増援を呼べばなんとかなる可能性はある。だがアーミーウルフ3機にジーラス1機という過剰戦力を前に、チンピラたちは呆然としてしまう。
「ゴー! ゴー! ゴー!」
チンピラたちが足を止めているほんの数秒の間に、SEARDの歩兵部隊は配置を終え武器を構え、攻撃準備を完了させた。
そしてSEARD側の通信網で、作戦司令から攻撃指示が出たのか、アーミーウルフ3機とジーラス1機が装備した兵装を起動させる。
アーミーウルフ3機は背中に装備したマシンガンを、ジーラスは背中に装備したロングレンジライフルと、右腕に装備したレールキャノンを、チンピラたちとその仲間がいる建物に向かって斉射した。
途切れることなく響き渡るマシンガンの銃声。そしてロングレンジライフルとレールキャノンが命中したことによる衝撃で、周囲は騒然に包まれていた。
「くそ! 撃ってきたぞ!」
「かまわねぇ。アレを出すぞ!」
チンピラたちはマシンガンの斉射から逃れるために、横転した自動車で遮蔽をとっていた。しかしこのまま遮蔽をとって隠れて続けてもジリ貧である。そう判断したチンピラたちは此処に配備された切り札を起動させに地下へ向かう。
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