後処理Ⅱ

 程なくしてディランが手配したと思われる2台の大型トラックが、ゼファーの元にやってくる。一見すると普通のトラックと作業員に見えてしまう。しかし作業員の動きは手慣れており、なによりスティールコングを見て驚かなかったことが、プロだとを確信させた。


「すいません。ゼファー・六条さんですね?」


「ん、ああそうだ俺がゼファー・六条だ」


「ディランさんの依頼で来ました。荷物はあのメタルビーストですね?」


 作業員の言葉にゼファーコクンと頷く。それを見た作業員は他の作業員たちに指示を出していく。その様子はテキパキとしたもので、ゼファーはさすが一流だと頷くのだった。


「それではメタルビーストを荷台に載せてください。これを我々の手でやると、怒るお客様もいるので」


「わかりました」


 作業員の指示に従いゼファーはまず、放置されているスティールコングへ乗り込む。すぐにスティールコングのセキュリティがゼファーを拒絶するが、セキュリティ自体は初期状態のものを使用していたため、ゼファーでも容易く突破できた。

 スティールコングと接続ジャックインできたゼファーは、そのままスティールコングを大型トラックの荷台へ移動させる。


「オーケーでーす。次お願いします」


「わかりましたー」


 スティールコングから降りたゼファーは、次に損傷したアーミーウルフに乗り込んだ。アーミーウルフに接続ジャックインすると、損傷が原因のエラーログが何度も表示されてしまう。ゼファーは顔を歪めながらもエラーログを閉じていき、アーミーウルフを起動させる。

 ゆっくりと立ちがるアーミーウルフ。しかし損傷した脚が原因か何度もバランスを崩し転けそうになる。それでもゆっくり歩いて時間をかけることで、大型トラックの荷台に移動することができた。


「確認しました。そのままメタルビーストに乗っててくださーい」


「はーい」


 作業員の言葉に従ってゼファーは、アーミーウルフに搭乗したまま待機する。少し時間が立つとコクピット内が揺れる、外を確認すれば2台の大型トラックが走り始めたのだった。

 

 *********


 大型トラックに運ばれること1時間後、大型でスティールコングも容易く入る大きさの貸しガレージの前に到着する。ゼファーが周囲を確認すれば、悪巧みを考えていそうなディランの姿があった。


「よお、楽しそうなことになってるじゃねえか」


「まあそうだな。まさかスティールコングなんて軍用品が出てくるのは予想外だったよ」


 ゼファーとディランの二人はスティールコングに視線を向けると、二人は気まずそうにじわりと汗を流す。スティールコングは禁制品ではないが、それでも所持しているだけでSAERDに注意を受けることは容易に想像できる。


「んで、このスティールコングはどうする? 売っぱらうかなら手を貸すぜ」


「ネクロネットよりたちの悪いやつに買われても困るし、当分はガレージの中で封印措置が妥当だろ」


 ゼファーの言葉を聞いたディランは、確かにと言わんばかりに頷く。それほどまでに軍用品のスティールコングは強力なメタルビーストなのである。

 

「それでよぉ、おてんばお姫様に戦勝報告はしたのか?」


「あーまだしてない……」


「だろうな。早く戦勝の報はしたほうがいいぞ。後々ぜってえ怖いからな。なんならここは俺に任せてくれてもいいぜ」


 ディランの優しさを受け取ったゼファーは、ディランから少し離れると携帯端末を取り出しマリアに連絡を始める。ワンコールもせずガチャリとマリアは通話に出てきた。


『遅いゼファー! 一体いつまでどこでぶらついていたの!』


 最初に聞こえてくるのはマリアの怒声であった、ゼファーは勝利したら連絡すると言っていながら、1時間も連絡をしていので、マリアのこの反応は当然だろう。


「いや違うんだ。こっちの事情で戦勝品を回収してたんだ、ソレに時間がかかってしまってつい……」


『はぁ……分かった、信じてあげる。で、プロフェッサー・ネクロネットは始末できたの?』


「勿論、始末できたさ。予想外のこともあったけど」


『予想外ってスティールコングが出てきたこと? それともジーラスに乗ったこと? もしかしてこの後お・ん・な、へ会いに行くこと?』


 ――さっきの話全部聞かれてるじゃないか。ここは少しでも言い訳を……。


 言い訳を考えるために頭脳をフル回転させるゼファー。しかしいくら考え抜いても言い訳は思い浮かばなかった。


「えっとはい全部です。スティールコングは予想外だったので、ジーラスと相打ちを狙ってたらスティールコングが勝ってしまったから、ジーラスに搭乗しました。最後の女発言は自然に出てましたぁ!」


 ゼファーの謝罪を聞いたマリアは満足そうに頷くと、ゼファーの困った声がツボに入ったのか嬉しそうに声を弾ませる。


『よろしい。優しいマリアは正直な言葉が聞きたかったの。それじゃゼファー、早く帰ってきてくれる? 怖いお姉さんが横で待ってることだし』


「怖いお姉さん?」


 マリアの発言にゼファーは思わず首を横にしてしまう。しかしすぐに正解は分かるのだった。


『はぁいゼファーさん。お約束通り暴れきたんですから、お・れ・い待ってますね? 場所はマリアさんのお家でーす』


 携帯端末の向こう側からゴソゴソと物音の後、レヴィの甘ったるげな声が聞こえてくる。すでに戦闘を終えたせいか、彼女の声は艷やかで色気があった。


「はい……今からそっちに向かいます」


 この後二人に絞られることが確定した、と判断したゼファーは若干声を強張らせながらも頷くのだった。

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