戦いの終わり


『クソがあああぁぁぁ! 舐めるな!』


 ストリートギャングのリーダーは叫びながら、必死にゼファーの乗るアーミーウルフを振り払うために、無理矢理起き上がろうとする。

 だがドワーフのバランスを崩させるように、アーミーウルフは自分から後ろへ跳躍した。


『な!?』


 起き上がろうとするタイミングに合わせて、アーミーウルフに逃げられたらことにより、予想以上に力んでしまったドワーフは、バランスを崩してしまう。


「ここだぁ!」


 ドワーフのバランスを崩したタイミングに合わせてアーミーウルフは、背中に搭載したマシンガンを斉射する。

 しかしストリートギャングのリーダーもすぐさまドワーフのブースターを噴かせ、マシンガンの弾幕を回避していく。


『ぜーぜー、んな豆鉄砲が当たるかぁ!』


 スピーカーから聞こえる声からは、息も絶え絶えの様子だと思われるストリートギャングのリーダーは、そのまま逃げるように市街地へとドワーフを操縦する。


「なぁ!? 逃すか!」


 思わぬ行動に驚きを隠せないゼファーであったが、すぐにアーミーウルフを操縦し、逃げ出したドワーフを追う。


『来るな! 来るなぁ! 来るなあぁ!』


 狂乱したような声がドワーフのスピーカーから聞こえてくる。そしてドワーフは手に持ったマシンガンを、狙いをつけることなく乱射する。

 照準を合わせてない銃弾など当たらないと言わんばかりに、アーミーウルフはマシンガンを回避していく。


「逃さねぇ、ここで終いだ!」


 ゼファーの言葉に呼応するようにアーミーウルフは、ドワーフに追いつくと全身で素早くタックルを仕掛けた。

 アメフトの大会でも狙えそうなアーミーウルフのタックルに、ドワーフは回避できずモロに食らって体勢を崩してしまう。


「このままぁ! ぶっ壊れろぉ!」


 ゼファーの叫びと同時に、アーミーウルフはドワーフの胸部に噛みつき装甲を引っ剥がす。

 中にはキマった様子をしたストリートギャングのリーダーが座っており、その表情は恐怖に染まっていた。


「ひぃ! 助けてくれ。なぁ金か!? 金ならいくらでも出す! だから命だけは……」


 ストリートギャングのリーダーの言葉を聞いたゼファーは、思わず大きなため息を吐いてしまう。


 ――こんな三下がコンバットメックのドワーフを持っていたのか……。


 ゼファーはそう思いながらもアサルトライフルの照準を、ストリートギャングのリーダーに合わせていく。

 アサルトライフルを銃口が動いたことを見たストリートギャングのリーダーの表情は、より深い恐怖へと染まっていく。


「嘘だろ、おい。丸腰の相手を撃つのかよ!? なあ、アンタ金で雇われてるんだろ、なぁ!」


「そうだ、俺は金で雇われてる。でもこの仕事はフィクサーも噛んでいる、俺だけの判断で止めることはできない」


「このフィクサーの犬があああぁぁぁ!」


 ゼファーの発言を聞いたストリートギャングのリーダーは、怒りの衝動に身を任せて無力な雄叫びを上げる。

 雄叫びを聞いたゼファーは小さく自嘲するかのように笑うと、自分もこうなってしまう可能性があったのだと、自身を戒める。

 直後、銃声と共にストリートギャングのリーダーの頭部に、アサルトライフルの銃弾が叩き込まれ、ストリートギャングのリーダーは絶命した。


「終わった……な」


 ゼファーはストリートギャングのリーダーが死亡したかを確認するために、アーミーウルフから降りると素早く生死を確かめる。


「ん……?」


 死亡したのかを調べていたゼファーの視界に、キラリと成金趣味のような鍵が、リーダーの懐から見つかった。

 念には念をとゼファーは鍵を回収すると、アーミーウルフに再度搭乗し、盗まれた車を回収しに移動する。


「はー……後はターゲットの車の回収か」


『ちょっとゼファー! そっちでサイバークライムと思わしき事件が発生したって、情報が入ってきたんだけど!』


 一息ついていたゼファーであったが、急に通信が入ってきたため即座に通信へ対応する。すると焦った様子のマリアが、ゼファーの視界を占領した。


「マリア、サイバークライムじゃない、コンバットドラックをキメてトチ狂ったストリートギャングだ。その2つは大違いだぞ」


『そうなの? ってなんでそんなに詳しいのゼファー。もしかして……』


「ああ、その事件に俺は関わっていた。でも安心しろキチンとその事件は収束したからな」


『はあああぁぁぁ……ねぇゼファー。あんた自分の首に賞金かかっていること、自覚してる?』


「勿論自覚してるさ。それにしてもマリア、なんか母親みたいな反応だぞ」


 通信越しのためゼファーはマリアの表情を見ることはできなかったが、マリアの『はは、母親ぁ!?』と焦ったような声を聞いて、少しだけ心が癒された感じがした。


「マリア、悪いけど通信切るぞ。仕事がまだ終わってないんだ」


『オーケー。言いたいこといっぱいあるけど、とりあえず通信は切るわね。帰ったら覚悟しておくことね、ゼファー?』


 そう言ってマリアは通信を切った。一人残ったゼファーは、マリアの反応が可愛いすぎたために、口元が緩んでいることを自覚したので、口を強く閉じて頬を引き締める。


「おぅ……酷いことになっているな」


 ストリートギャングの拠点に戻ったゼファーが見たのは、マシンガンの銃弾によって穴だらけになった建物と、地面の無惨な姿であった。

 盗まれた車の無事を心配してしまうほどの惨状を前に、ゼファーはアーミーウルフの脚止めてしまうが、すぐにアーミーウルフから降りて、盗まれた車の探索を始める。


「んーあっちかな。こっちでもないな……これだぁ!」


 ゼファーは10分かけた探索の末、盗まれた車をようやく発見した。

 なんと盗まれた車に目立った傷は無く。そのことに気づいたゼファーは喜びで踊りそうになってしまう。

 とはいえそのような時間もないので、すぐさまゼファーは所持している2本の鍵が、盗まれた車に対応しているのか試し始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る