昔馴染みからの
ゼファーが所持していた2本目の鍵を、盗まれた車両に使用した瞬間、ガチャという音が鳴る。
――ビンゴ。
拾った鍵が盗まれた車両に対応していた事を喜ぶゼファー。そのまま車両に乗り込むと、アクセルを踏み車を発進させた。
「いい車だねぇ。盗まれるのも分かるぜ」
車両の加速力に最高速度、その他どれをとっても一般に出回っている車両との格が違いに、ゼファーは思わず感嘆の声を出してしまう。
道路を走るゼファーの乗る車両の背後には、追走するようにアーミーウルフが速度を合わせて疾走していた。
「さて、そろそろ元の持ち主に返してやらなきゃな」
そう言うとゼファーは携帯端末を取り出し、ディランへ通信を行う。
『手早いなゼファー。もうターゲットを取り返したのか?』
ディランはワンコールで通信に出てくる。その声色には賞賛と驚きが含まれていた。
そんなディランの言葉に、ゼファーは思わずフフンと楽しげに笑ってしまう。
「勿論、今ターゲットの車に乗って移動している。なんなら映像でも流そうか?」
『いやいい。事故を起こされても全員困るだけだ。それより車の回収地点の情報を渡す、そこで依頼人に鍵と車を渡してやれ』
その直後、ディランから1通のメッセージが届く。メッセージには、ヴァイスシティにあるノースタウン北部の住所が記されていた。
「オーケー、確認した。すぐに向かう」
『安全運転で頼むぜ。事故でも起こして依頼人にお小言を頂きたくないだろ?』
「もちろん。安全第一で向かわせてもらう」
ゼファーの発言を聞いたディランは小さく口笛を吹き、そのままゼファーとの通信を切断する。
通信が切れたことを確認したゼファーは、懐に携帯端末をしまうと、鼻歌を歌いながら安全運転を心がけ、ハンドルを切る。
「そろそろだな……」
数分後、ゼファーは指定された地点へ徐々に近づいていた。
回収地点を遠目から見たゼファーは、依頼人らしき人物を発見する。
ゼファーが依頼人だと判断した理由は2つ。
1つ目は、服装がノースタウンに似合わない高級なスーツであること。
2つ目は、酷い貧乏ゆすりを続けており、落ち着きがなさそうで、とても悪目立ちしていたからだ。
「なあ、ディランって
「んんん……ああ、あんたがゼファーって奴か。予想より早かったな、あいつらから車を取り返してくれたんだな!」
「盗まれた車両だが、こいつで合ってるな?」
「勿論だ。この車に幾らかけたと思ってるんだ! 早く返してくれ!」
切迫した様子の依頼人に気圧されたゼファーは、キーを差した状態で、急いで運転席から降りる。
ゼファーが車から降りたことを確認した依頼人は、まるで我が子のように、車に頬擦りをし始めた。
目の前の光景に思わずドン引きしてしまうゼファーであったが、己の自制心をフル稼働させ、口に出すことだけはなんとか防ぐ。
「ああ……ありがとう。これは依頼の報酬だ」
依頼人がそう言って携帯端末を操作すると、ゼファーの口座に報酬の貨幣が振り込まれる。
それを確認したゼファーは、軽く会釈をしてその場を去るのだった。
少なくとも後方から聞こえる依頼人であった男の、野太い猫撫で声を無視しながら。
「まぁ人にはそれぞれ趣味はあるもんな……」
人格と資産は比例するものじゃない。それがよく分かったゼファーであった。
「さて、帰るか。アーミーウルフ」
「ワオオオォォォン!」
ゼファーについてきたアーミーウルフに、ゼファーは素早く乗り込みコードをアーミーウルフに接続する。
アーミーウルフは嬉しそうに身体を震わせ、ゼファーの意思に従って走り出す。
時速60キロで疾走していくアーミーウルフの中で、ゼファーは今後のことを思案していた。
――さぁて、俺の首に賞金をかけた奴を調べないといけないし、今後の生活のための仕事もしないといけない。大変だなフリーランスも。
今後のことを考えていたゼファーであったが、ふとゼファーの視界に一件のメッセージが届く。
それはゼファーの昔馴染み、風・蓮花からのメッセージであった。
『ゼファー。もしこのメッセージを見たら、できるだけ急ぎで連絡を』
このような短文で、相手のことを考えない命令形のメッセージに、ゼファーは思わず頭が痛くなってしまう。
急いで通信を繋ごうと思ったゼファーであったが、アーミーウルフに搭乗してる状態で、蓮花との会話をすればそのまま口論に発展し、その勢いでアーミーウルフでの事故を起こしかねない。そう考えたゼファーは、蓮花からのメッセージを視界に留め、今はアーミーウルフの操縦に集中するのだった。
*********
「はぁ〜蓮花と通話したくねぇ……」
アーミーウルフをガレージに戻したゼファーは、自宅に戻る道中で、思わずぼやいてしまう。
実際に蓮花との会話をしたくないのか、ゼファーの足取りはとても重く、普段であれば自宅に戻っている程度の時間が既に経過している。
だが時間は無情で、15分ほどかけてゼファーは自宅の前にたどり着く。
「ハァ〜」
再度ため息をついたゼファーは、自宅に戻ると誰もいないことを理由に、そのままベッドに飛び込んだ。
もちろん盗まれた車の奪取での疲れもあるが、ゼファーの心情としては、蓮花と通話をすることに気分が乗らない。
そのまま深い眠りにつきたいゼファーであった。しかしそんなことをすれば蓮花との通話の際に、蓮花にどんな小言を言われるのか、ゼファーは想像もしたくないので、急いで通話の準備をし始めた。
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