レヴィ・ヴァイパーという女について

「何だ! 襲撃か!?」


「っ……!」


 部屋の外からの銃声を聞いて、即座にピストルの銃口を部屋の扉に向けるツギ。

 対してマリアは身体を転がして少しでも遮蔽を取ろうとする。しかし遮蔽を取ろうとするマリアが、隠れそうな場所は殆どない。

 そして隣室にいる気配の主は、少なくとも今は反応を見せなかった。

 そうしているうちに部屋の外からの足音が、マリアとツギのいる部屋に近づいてくる。

 ゆっくりと扉が開かれると、即座にツギがピストルのトリガーを引く。連続して響き渡る銃声。穴の空いた扉を見たマリアは、思わず固唾を飲み込む。


「いきなりの歓迎、ご苦労さんっと」


 扉の向こう側から出てきたのは、死体を盾にしたゼファーと銃弾によって穴だらけになった死体であった。

 無傷の様子のゼファーを見て、嬉しそうな表情を見せるマリア。対照的にツギは即座にピストルのリロードを行い、素早く銃口をゼファーに向ける。


「ゼファー! テメエはいつもいつも!」


「あ? どちらさまだ?」


「俺を忘れたのか! ツギ・死ぬデスだ!」


 ツギは怒り狂ったかのような様子で地団駄を踏む。だがゼファーはそんな様子のツギに対して、特に反応を見せずショットガンを構えるのみ。

 ショットガンの銃口を向けられたツギの額には、僅かながらの冷や汗が流れていく。しかしツギも即座に反応し、ピストルのトリガーを引く。

 響き渡る銃声。

 次の瞬間、マリアが見たのはスラッグ弾によって撃ち殺されたツギの姿であった。


「ゼファー! まだ敵はいる!」


「わかってる! マリア動くなよ」


 そう言ってゼファーは腰に携帯したピストルを抜くと、マリアを拘束しているロープを撃ち抜く。

 身体が自由になったマリアは即座に立ち上がると、部屋の端に逃げるように退避する。

 その間にもゼファーはショットガンに銃弾をリロードをしつつ、ジッと何者かが居る隣室を見据えていた。

 どれほどの時間が立ったのだろうか。ゼファーの額に汗が流れ地面に落ちていく。

 次の瞬間。


「ふふふ……やっぱりゼファーさんはいい殺気を出してくれますね」


 そんな言葉と共にゼファーとマリアのいる部屋の壁が吹き飛ぶ。

 吹き飛んだ壁の破片は、まるで散弾のようにゼファーとマリアに襲いかかっていく。

 一瞬驚いてしまい反応できずにいたマリアと、即座に反応しショットガンを構えるゼファー。


「マリア! 大丈夫か!」


「な、なんとか!」


 マリアの無事を心配するゼファーであったが、吹き飛んだ壁の向こう側から見える土煙に思わず絶句してしまう。

 なぜなら土煙に映る影は、普通の人型ではなかったからだ。

 背中から生えた2本の腕に銃器の生えた尻尾、それらが土煙から覗く。


「よりにもよってお前かレヴィ・ヴァイパー!」


「くすくす、よりにもよってなんて酷いじゃないですか。昔っからあんなに愛してくれたのに。ねぇゼファーさん?」


「それはベッドの上での話だろう? ここは鉄火場で今は俺とお前は敵同士なんだ。戦力的にやり合いたくないだけだ」


 金髪の蠱惑的な笑みを浮かべ、背中に異形の装備をした女――レヴィ・ヴァイパーは口元に手を添えてニコニコしながらゼファーに視線を向ける。逆に言えば彼女はマリアにも、ツギの死体にも視線を向けなかった。

 その間にも背中から生えている尻尾は、まるで生きているかのように動き、搭載された銃器をゼファーに向けている。


「っ……!」


 なんなのこいつ。

 マリアは現れたレヴィの姿を見て、ようやく感想を絞り出せた。

 なぜならマリアはレヴィを見た後、彼女の発する殺気に気圧され、今の今まで指1本さえ動かすことができなかったからだ。


「それでレヴィさんほどの重改造をしたサイボーグ傭兵さんが、こんなところで何を?」


「もちろん傭兵が戦場にいる理由は一つ。依頼を受けたからに決まってます!」


 その言葉が戦闘の開始の宣言となった。

 即座にレヴィは地面を蹴るとゼファーとの距離を詰めて殴りかかってくる。


「マリア、ここから早く逃げろ!」


 ゼファーはマリアに視線を向けず、素早くレヴィにショットガンの照準を合わせトリガーを引く。

 銃撃音と共に銃弾がレヴィに向かって飛翔する。たがレヴィは銃弾に対して、回避行動も防御行動も取ることなく仁王立ちで受け止める。


「嘘でしょ!?」


「いや、レヴィの身体改造率は俺より上だ。銃弾を防御が厚い場所で受ければ、無傷でもおかしくない」


「うゎ……ドン引き」


 ゼファーの説明を聞いたマリアは、思わず浮かんだ感想を口に出してしまう。

 そんなマリアの感想に、レヴィは口角を吊り上げながら笑みを浮かべる。


「酷い。ただの傭兵をまるで戦車かコンバットメック人型二足兵器呼ばわりなんて……」


「そこまで言ってないわよ! っていうか笑ってるでしょ!」

 

「ふふ。笑ってるのではありません、楽しみにしてるんです。ゼファーさんと戦場で死合えるをぶつかり合えるですもの!」


 レヴィの嘘偽りのない言葉に、マリアはドン引きした様子でゼファーに視線を向ける。その視線は無言でレヴィという人物の説明を、ゼファーに求めていた。


「レヴィ・ヴァイパーって奴は寝室ならまるで高級娼婦だけど、戦場ならこんな感じだ。なんなら素手で鉄を引き裂けるぐらいに、全身にサイバーウェアを入れてるし」


 ゼファーの説明にマリアは、信じられないものを見た様子でゼファーの後ろへと隠れる。ゼファーもマリアを守るように前に出る。

 本音をいえばゼファーとしては、このままレヴィと戦うことを避けたい。だがレヴィ・ヴァイパーという女は、戦場では戦闘狂が可愛く見えるような人物なのだ。


「さあ行きますよゼファーさん!」


 そう言ってレヴィは地面を蹴ると、ゼファーに向かって突撃する。

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