第35話 ワンちゃん
何故か小型犬を倒したら、近くに小人が倒れていた。
この世界はベリーハードモードのため、小人が町の外を出歩くのは自殺行為だ。なのでこんなところにいるはずがないのだが……。
ただ今の俺たちには時間がない。小型犬が目を覚ますとまた面倒なことになるからだ。
なので起きる前に従えるため、俺は隷属魔法を急いで教えてもらう必要がある。なのであの小人に関しては、レティシアちゃんに預けて町に運んでもらった。
そして俺はエリサから隷属魔法を教えてもらっている。ちなみにワンちゃんには魔法で首輪つきリードを作って、首元に取り付けさせてもらった。
これで俺がリードの紐から手を離さない限り、逃げられることはない。問題は俺が紐から手が離せないことだが。
……創造魔法、便利なんだけど微妙に使い勝手悪いな。エリサたちもそう言ってたけどさ。
なんか痒い所に手が届かない感じがすごい。確かにこの魔法はそこまで主流にはならないかも、と思わぬ形で痛感した。
そして俺はエリサに魔法を教えてもらっている。彼女はいつもの特等席である、俺の右肩に座っていた。
『隷属魔法はね。
「ガシッ」
エリサが擬音の教えであることを失念していた。いやエリサには悪いんだけどさ、これならレティシアちゃんに教わった方がよかったかも……。
いや町まで単独で飛べるのが彼女だけだったし、俺は小型犬のリードから手が離せないので無理だったのだが。
町までの距離は歩いて数分程度だが、それは俺の足での話だ。レティシアちゃんだと数時間くらいかかるかもしれない。
「エリサ。ガシッ以外の表現方法はないか?」
『ないわ。これ以上に最適な表現を私は知らないもの』
どうやらガシッ、という擬音だけで隷属魔法を理解せねばならぬらしい。
ガシッ、ガシッ、ガシッ……なんかなにかを蹴ってるように思えてきた。
いや落ち着け。ガシッはなにかを掴むというか、固定するような音のはずだ。それこそ首輪の留め具もガシッって感じがする。
ならこう、なにかロックをかける感じでガシッってイメージすればいいのだろうか。奥が深いな、ガシッ。
物は試しだ、今のイメージでやってみよう。
「
俺はワンちゃんに首輪をつけた時のイメージで呪文を呟く。
なんかこう魔力をワンちゃんの首元に浮かばせて、輪にするような感じだ。
すると俺の思い通りに、ワンちゃんの首元に紫色の薄い煙みたいなのが発生した。
『今よ! その煙で首を絞め殺すイメージをするの!』
「殺したらダメだろ!?」
『イメージよ! 首根っこ掴んでガシッとやるの!』
物騒な考えを振り払って、真綿で首を絞めるイメージを浮かべてみる。
すると煙がワンちゃんの首の中へと入っていき、同時に彼の身体が紫色に輝いた。なんだろうすごく毒々しい、絶対によい光ではない。
『すごい、成功よ! これで巨獣はスズキの命令に従うわ!』
「こんな簡単に出来るとはな……これなら黒獄虫もいっぱい従えてしまえばいいんじゃないのか?」
ほら襲ってきた黒獄虫をいっぱい味方にしてしまえば、防衛力や労働力にもなりそうじゃないか?
そんなことを考えていると、
『何言ってるのよ! 黒獄虫を従えるなんて相当な魔力が必要よ! 私でも一匹できるかどうかなのに、いっぱいなんで無理よ! そんなのできたらこんな状況になってない!』
「確かに」
『スズキの魔力量だから出来たのよ。普通なら自分より大きい魔物は、従属なんてそうそう出来ない』
そりゃそうだよな。敵を簡単に隷属させられるならとっくに試してるか。
それと俺がエリサの隷属魔法が効かなかったのも、たぶん体の大きさの関係なんだろうな。
『あ、そうそう。隷属魔法の注意点だけ説明しておくわね。基本的に隷属魔法をかけた対象と、その対象が産んだ子供とかには命令が通じるわ』
「子供も有効なのか?」
『当たり前じゃない。そうじゃないと隷属魔法をかけられた魔物が、産んだ子供に指示して隷属魔法を使った人を殺すわよ。というか以前にそんな事件が多発して改良されたらしいわよ』
「なるほど……」
なるほど隷属魔法はわりと考えられた、歴史のある魔法のようだ。
そんなことを考えていると、ワンちゃんが身体を起こして首を左右に振る。
また襲ってこないかと身構えていると、ワンちゃんは俺に視線を向けて舌を出してきている。よく見れば尻尾も振ってる。
これはなつかれているのでは?
「えーっと、お手」
「くぅん」
試しにワンちゃんの近くに手を出してみると、向こうも右足でお手をしてきた。
……か、可愛い! 今まで犬を飼ったことなかったけど、そりゃこんなのペットとして人気出るよ。
「なあエリサ。もうリードを消しても大丈夫かな?」
『大丈夫よ、命令を聞くはずだから。でも不安ならもう少し試してみたら?』
「よし、おすわり!」
ワンちゃんは俺の命令に従って、ペタンと地面にお座りした。
そして「へっへっ」と尻尾を振り振りして俺を見てくる超かわいい。
すごく可愛い、いや大丈夫そうなのでリードを消すが、それでも逃げる様子はない。
「なあエリサ。命令ってどれくらい具体的にする必要があるんだ? 町を守ってとかのフワッとしたのでもいける?」
『雑でいいわよ。ある程度頭の中の考えを読み取ってくれるから』
いたれりつくせりである。すごいな隷属魔法。
「よしワンちゃん! 港町の周囲を警戒して、アリがいたら潰してくれ!」
「ワン!」
俺の命令を理解したようで、ワンちゃんは町から少し離れた場所をうろうろし始めた。
……なんてすばらしい魔法なんだろう、隷属魔法。ファンになりそう。
さてとりあえずワンちゃんの方は大丈夫そうなので、倒れていた小人の話も聞きに行ってみるか。
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