第26話 足りないものが多すぎる


 アリの巣からの帰り道を、小人たちは自らの足で歩いていた。


 鈴木は元の大きさで、そんな彼らを遠巻きに眺めている。


 アリの巣を潰したことで、この周囲から一時的にアリが消えたのだ。それを鈴木が確認した後に、小人たちに帰り道を歩くことを許した。


 もちろん鈴木はアリが出ないように周囲を見守り、もし発見すれば即座に潰す。それに小人たちにも武装した兵士たちがいるので、鈴木が動くまでの時間は充分に稼げる。


 そんな小人たちはみんな涙を浮かべながら、周囲を見回していた。


「う、ううっ……また外を歩けるなんて……!」

「これがお外なの? 広いね」

「そうよ、これが外よ」


 ここにいる者たちの大半は、十年近く町の外を歩いていなかった。


 彼らにとって町が世界の全てであり、外とは死地でしかない。だからここで歩けていることは奇跡なのだ。


 だが奇跡はひとつではない。


 町まで無事に歩き帰った後、広場に大勢の人が集まっている。


 彼らは泣きながら抱き合って笑っていた。


「よく生きて……っ! 死んだとっ……!」

「だろうな。俺だって殺されると思ってたよ」


 アリの巣で生きていた者と、町の人の再会が行われていた。


 もちろんアリに連れ去られた者が全員戻ってきたわけではない。だが直近の半年以内だった者はほぼ揃っていて、かなりの数の救助者がいたのは事実だ。


 死んでいたと思った者が大勢戻ってきたとなれば、広場はもはやお祭り状態だった。


 いつの間にか踊りや歌が始まっていて、祭りと化している。


 そしてそんな広場から少し離れた屋敷の一室で、スズキたちが集まっていた。


 




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 俺たちはひとつのテーブルの席について、今後のことを話しあうことになった。


 すると女王陛下がいきなり頭を下げてきた。


「巨人様……いえ巨神様。本当に申し訳ございません、そしてありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらず。やりたかったことですから。お礼だけ受け取っておきます」


 女王の謝罪を手で制す。


 彼女からすれば直前に言った自分の言葉に対応するように、俺が巨神になったと思っているのだろう。


 それは違う、とは言えない。実際に女王の言葉で気づいて、だからこそ巨神になるという選択肢が生まれたのだから。


 だが俺が選んだことであり、お礼ならともかく謝る必要はない。


 それよりも……。


「……ところでレティシアちゃん。少し離れてくれないかな?」


 レティシアちゃんが俺の横の席に座っているのだが、身体が触れ合うくらい近づいていた。


「私は巨神様が好きになりました。なので近くにいたいです」


 自己申告してくるレティシアちゃん。


 親戚の女の子がなついてくれたことを思い出す。


 なんだかんだでレティシアちゃんはまだ十三歳だ。近所のお兄ちゃん好きーとかそんなノリか。


 なら俺も大人の余裕で流すことにしよう。


「ははは、それは嬉しいな。なら後で遊びにでも行こうか」

「はい。おはようからおやすみの後までお任せください。体つきは未熟ですが全力でご奉仕します」


 あ、これ絶対違う。お兄ちゃん好きじゃなくてガチ目なやつ。


 レティシアちゃんは十三歳。そして見た目はその年齢よりもさらに幼く見える。つまりアウトである。


「レティシアちゃん。そういうのは大人になってからね……」

「もう大人ですが」

「この国は十二歳から結婚できるわよ。それにレティシア様は元騎士団長だから、そこらの大人より大人よ!」


 結婚年齢早くない!?


 まあ仮にこの国で合法だとしてもだ。レティシアちゃんは幼いから、そういう対象としては見れない。


「とりあえずそういう話はまだまだ先かな。それよりも町に人が大勢戻ってきたことで、色々と問題が発生していませんか?」


 話をごまかしつつ、レティシアちゃんを少し手で押しのけて遠ざける。


 彼女は残念そうな顔をしているが流石に触れたらアウトである。あ、いや触ってはいるけど……。


 俺の言葉に女王陛下は少し逡巡した後。


「……仰る通りです。いきなり人口が倍近くになったことで困っています」


 女王は申し訳なさそうに告げてくるが当然だろう。


 アリの巣から助けられた人は、二千人くらいと聞いている。この町の今までの人口が五千人なので、四割近く増えたことになる。


 そうなれば足りないものなどいくらでも出てくるだろう。


「ではまず対応が急務なものを教えていただけますか? そこから解決していきましょう」

「……ありがとうございます。まず第一に食料です。今までの量では足りません。巨神様の作られた畑で多少はごまかせそうですが……」


 作っておいてよかった麦畑。


 だが今のままでは足りないだろうな。もっと畑を広くしないと。


「わかりました。畑を広げるなど色々考えてみます。他には問題はあるでしょうか?」

「……町の広さや建物が足りません。このままですと広場に多くの人を押し込めて、野宿させるのを続けるしかなさそうで……」

「それは結構な問題ですね……どうしようかな」


 急激な人口増加はしんどい、というのが本当によくわかる。


 さてどうすればいいかなこれは……。




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コラボキャラに転生したが、物語に関わってはダメだったようです ~ラスボスも瞬殺の世界観ガン無視チートキャラに転生したら、俺を起点にコラボ先ゲームの世界たちが混ざってしまった~

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少し変わった(?)ゲーム転生です。

読んでいただけると嬉しいです。

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