第25話 奇跡


 俺は巣から出て元の大きさに戻って、町の人たちをアリの巣へと運んだ。


 そして皆での救助作戦が開始された。なお俺はアリの巣の外で元の姿に戻って、周囲を警戒する役だ。


 もし逃げたアリたちが戻ってきたら困るからな。巨大化している俺がいればそうそう帰ってこないだろう。


 仮に戻ってきたらまた整地ローラーでしらみつぶしにしてやる。


 少し不安があるとすれば巣にまだアリが残っていた時だろうか。


 だがそれでも多少の数なら大丈夫なはずだ。もう町の兵士たちは戦えるのだから。


『スズキ! 今のところ異常はないわ! 繭に入った人たち、みんな死んでないの!』


 エリサの声が頭に響く。


 彼女はアリの巣の中で、俺に定期的に状況を報告していた。


 エリサは魔法による戦闘要員かつ、非常時の俺への連絡係だ。


「わかった! 引き続き気を付けてくれ!」


 エリサのいる場所を感じ取って、その方向の地面に向けて叫ぶ。


 俺はエリサの場所が分かるので、もしいざとなれば地面を掘ってみんなを助ける予定だ。


 アリの巣の一部が崩れて、繭が潰れる危険はあるがやむを得ない。生きているか分からない人よりも、町の人のほうが優先だ。


 だが現状は特に大丈夫そうだ。ここまで長時間巣に滞在しても襲ってこないなら、おそらくアリは一匹残らず逃げてしまったのだろう。


「あの……スズキ様!」


 すると俺の顔の横にレティシアちゃんが飛んできた。


 風魔法で浮きながら辛そうに俺を見てくる。


「レティシアちゃん。大丈夫かい? さっきは本当にすまなかった」

「そ、そんな……! 巨人様がお謝罪されることなんてありません……! それよりも神だなんて……」


 レティシアちゃんはすごく顔をしかめている。


 彼女は俺が巨神だなんて信じていないのだろう。


 まあ当然か。俺とある程度面識のある人なら、俺がそんな大それた者ではないと分かる。この世界では大きいけど。


「俺さ、神になってみたかったんだよね。ほら神様ってすごいじゃん。みんなに崇められて感謝されて頼りにされてさ。レティシアちゃんよりも俺の方がふさわしい」


 巣の中にいる人に聞こえないように小声で話す。


 するとレティシアちゃんはポロポロと涙を流し、それを隠すように顔を手で覆った。


「ごめん、なさい……私のせいで……! 私の代わりに、巨人様に、重荷を……背負わせてしまい……!」

「ははは、重荷じゃないよ。俺は大きいからレティシアちゃんが重い程度の物なら、簡単に運んでしまえるからね」


 レティシアちゃんの頭を指で撫でようとして、それでも下手に触ると危ないかとやめる。


 こんな小さな少女に人々の希望の象徴なんてモノは似合わない。そういうのはもっと大きい奴がやるべきだ。


「でも……! そんなのして頂いたら……! 私がやらなければならない……」


 レティシアちゃんはなおも食い下がって来る。


 自分が背負うべきと思っていることを、俺に押し付けた罪悪感に苦しんでいるのだろう。


 だが本来こんな重荷は、十三歳の少女に背負わせるような代物ではない。


 いやそもそも年齢性別に関わらず、普通の人間では無理だ。


 だからこそ背負える奴が背負うべきだろう。俺は残念ながら英雄的な精神力はないが、この世界ならチート級の肉体を持っているのだから。


 さてこのままではレティシアちゃんと、悲しい問答が続いてしまいそうだ。そろそろ話を終わらせるとしよう。


「レティシアちゃん。今はみんな、アリの巣に入っているから誰も聞いていない。その上でいいことを教えてあげよう。しなくてよかったと言われるよりも、お礼を言われる方が嬉しいんだよ」

「……っ!」


 レティシアちゃんは俺の言葉に固まった後、震えるように声を絞り出した。


「ありがとう、ございます……! ずっと、辛かった……無理だったのに、前に立って……私、私……! ひっく、うわぁぁぁん!」


 年相応に泣き始めたレティシアちゃんは、もう救世主や英雄には見えない。


 これでいい、これがいい。もう彼女に分不相応なことを求める人はいないだろう。


 なにせこれからは俺という巨神がいるからな……まあ俺もにも十分に分不相応な役目なのだが。


 考えると胃が痛くなってきたけど大丈夫だ。レティシアちゃんと俺はわけが違うのだ。


 レティシアちゃんにとってアリは、ほぼ自分と大きさの変わらない化け物。だが俺は最悪、目をつぶって前に歩くだけでもアリなんて踏みつぶせる。


 だから大丈夫だ。うん、きっとたぶん。


 ……ぶっちゃけだいぶ不安ではある。大勢の人の期待がすでにプレッシャーだ。


 だがこれはある意味、俺が望んでいたことでもある。


 俺が巨神となってこの町を守っていけば、きっと誰にでも顔向けできる人間になれる。もう誰にも恥じずに会える、そんな確信があった。


 だから大丈夫だ。俺は巨人、この世界で最強にして最高の者なのだから。


 そう自分に言い聞かせることにする。


 町の人たちがアリの巣から出てきて、俺を見て頭を下げて拝み始めるのが見えた。




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コラボキャラに転生したが、物語に関わってはダメだったようです ~ラスボスも瞬殺の世界観ガン無視チートキャラに転生したら、俺を起点にコラボ先ゲームの世界たちが混ざってしまった~

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少し変わった(?)ゲーム転生です。

読んでいただけると嬉しいです。

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