第29話 土の確保
人工島か埋立地か。どちらを作るにしても必要なものがある。
土だ。海を埋め立てるにはある程度の土砂がいる。
だが迂闊にそこらの土を掘ってしまうと、一帯が穴ぼこになってしまいかねない。
少なくとも港町や池の側で、大量の穴を造るのはマズイだろう。現状はアリがまだ怖いため誰も外に出られないが、いずれはまた外出もできるのではないかと思っている。
そうなったときに周囲が穴ぼこでした、では困るだろう。歩くにしても馬にしても、あるいは水路にしても穴は邪魔過ぎる。
そして人工島もしくは埋立地は、この港町の近くに造るつもりだ。すでに埋め立て予定も決めていて、港から徒歩十歩くらいの距離。あ、もちろん巨人時の俺の歩幅で。
俺はしばらくは港町に住む予定なので、人工島になにかあった時に急いで駆け付けられる立地……立地? まあ場所でなければならない。
そうなるとある程度離れた場所から、土砂を運んでくる必要があった。
そんなわけで俺は、町から少し離れた場所に立っている。肩にはエリサとレティシアちゃんが乗っていた。
俺は地面にしゃがみこんで右手のスコップで地面を掘り、左腕に取っ手をかけたバケツに土を入れていた。
それとこの世界の土だが、地球よりもやや粘土っぽい感じがする。波に流されにくそうなので、島を造る分には好都合そうだが。
「なあエリサ。道具を作る魔法だけどさ、手を放しても残るように出来ないのか?」
何故地面を掘るのにシャベルを使わないのか。それは簡単、使えないのだ。
シャベルは両手持ちだから、バケツと一緒に持てない。いや正確にはバケツは腕にかけられるが、シャベルで土を入れるのは難しい。
それならスコップでいいかと地道に掘っては、バケツに土を投入していた。正直、効率が悪すぎる。
『無理ね。あの魔法によって造られたモノは、身体から完全に離れた瞬間に消える。だから使い勝手が悪すぎるのよ。そうでなければ弓を出す魔法として、最低限は使えたわよ』
「そうだよなぁ……」
使い勝手の悪いモノには、だいたい理由があるものだ。
ただここから港町までは数十歩は必要なんだよな。バケツで何度も往復していたら腰を痛めてしまいそうだ。
俺と同じ大きさの奴がいっぱいいたらバケツリレーできたのに……いや手から離したらバケツが消えるからダメか。
「うーむ。これって手で持たずに足蹴にしてても消えないっけ?」
「身体のどこかが触れていれば大丈夫よ」
「ならこうするか」
俺は一輪の手押し車、俗にいうネコ車を魔法で作成する。さらにスコップとバケツをポイと捨てて、両手持ちのシャベルも。
そしてネコ車の下部分の少し飛び出た棒に足を置いて、シャベルで地面を掘り始めた。
うん、少し掘りづらいがやれそうだ。少なくともスコップとバケツよりは効率がいいだろう。
何度かシャベルで地面を掘って、ネコ車に土をいれる。すると荷台部分は土でいっぱいになってしまった。
シャベルを捨ててネコ車の取っ手を掴む。そしてゴロゴロと町の方に転がし始めた。
『すごいわね。こんなの山を運ぶようなものよ』
「流石はスズキ様です。今日もマッサージさせてください」
エリサとレティシアちゃんが俺の右肩の上で喋っている。
彼女らを振り落とすと危ないので、少し安全運転でゆっくり歩かないとな。まあ二人は自力で飛べるから、仮に落ちてしまっても大丈夫なのだが。
そんなことを考えていると、少し遠くで俺を見張っている者に気づいた。
先日に町を襲ってきて逃がしてしまった小型犬だ。このまま倒してしまいたいところだが、三十メートル以上は離れていて追いつけそうにない。
「……またあいつか。
俺は片手を小型犬に向けて火の玉を放つ。だが離れすぎているので、簡単に避けられてしまった。
そしてそのまま逃げていく。追っ払えはするが、あいつを狩るのはなかなか難しそうだ。
犬だけあってすばしっこい上に、俺を警戒しているのか近づいてこない。
「また巨獣ですね……港町を狙っているのでしょうか」
『それよりも、スズキを見に来たみたいな雰囲気だったわよ』
犬ってたしか目は弱いから、どちらかというと見に来るより嗅ぎに来るみたいな気がする。
……なんかそれだと俺が臭いみたいで嫌だな。
改めてネコ車を押して、埋立地作成予定の場所に土を運んでいく。
もちろんその間も小型犬が戻ってこないかは警戒し続けた。そうして何往復かすると、俺の胴くらいの高さの土山の完成だ。
『すごいすごい! この土山を海に沈めれば、本当に島になっちゃうかも! さあこのまま作っちゃいましょう!』
エリサのはしゃぎ声が頭に響く。
実際、この世界の海はかなり浅い。陸に近い箇所の海の高さは、俺の足首に届くか届かないかくらいだ。
これだけの土の量があれば埋立地を造ることも可能だろう。そしてまだ日は高いので、このまま作業すれば今日中に完成できるかもしれない。
もちろんただ海を土を埋めただけなので、いずれはなくなってしまう島なのだろう。
だがそれで構わない、別にその島にずっと住んでくれというわけじゃないんだ。
ひとまずの港町のあぶれた人の避難先になってくれたらいい。なんなら二週間ごとくらいに土を埋め立て直したっていいくらいだ。
俺にとってはそこまで大した手間じゃないからな。
だがこのまま島を造るのはやめることにした。
『スズキ? 作業しないの?』
「ああ。せっかく山まで作ったんだ。今日はこれで終わりにして、町の皆にパフォーマンスをしようじゃないか」
『パフォーマンスってなにするつもりよ』
なにをするつもりか。そんなの決まっている。
俺は救世の巨神になったのだ。ならば町の皆に希望をふりまかなければならない。
そのためには……。
「決まってるだろ? 巨神様の神話の第一章だよ。それでレティシアちゃんに相談したいことがあるんだけど……」
俺の力を見せつけていかなければな。あと、内緒だけどわりと疲れて筋肉痛。
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