第28話 人工島計画


 俺は畑を耕した後、暗くなってきたので港町に戻った。


 そして女王陛下と食堂で面会して、先ほど思いついた案を相談してみることに。


 他にはエリサとレティシアちゃんも一緒に食卓についている。


「し、島を作るのですか?」

「はい。とゼロから作るわけではありません。例えば陸地に大量の土砂を埋めたりとか。あるいは陸の少し突出した部分を、陸地から掘って島もどきにするとかを考えてます」


 ようは周囲が海で囲まれていれば、アリどもは攻めてこれないのだ。


 海の奥に島を作る必要はなく、陸地付近に四方を海に囲まれた場所を作ればいい。


 分かりやすさのために島と伝えているが、実質的にはほぼ埋立地みたいなものだろう。


 海に一気に大量の土をぶちまければ、たぶん地面になるだろう。この世界の海はミニチュアだから浅いし、俺が一度に運べる量でも埋められそうだ。


「し、島を作るとは……巨人様は、本当に神様になられるつもりですか?」


 女王陛下は俺のことを困惑するように見続ける。


 だが島を作ると言うのは地球においては普通に行われてきたことだ。埋立地なんて言葉もあるくらいだからな。


 日本だとよく聞く単語だし、この世界の浅い海なら土で簡単に埋められるはずだ。


「神様なんてたいそうなものではありませんよ。女王陛下たちも、時間をかければ出来ると思いますよ。ただどこに造るかや、土砂を埋めるのか陸地を切り崩すのかは決まってません」

「そ、そうですか。ただこの町以外に住める場所が増えるのは助かります。なにせ、人が家に住めない有様ですから……」


 女王陛下は愛想笑いを浮かべる。


 町の広さに対して住む人間の数が多すぎるからな。これではどうしようもない。


 だが町を広げることはそうそう出来ないし、近くの町に余っている人を移住するのも現状では難しい。


 理由としてはここから俺が見張れる距離に、港町がないからだ。


 港町でなければ漁が出来ないので、安定的な食料確保が難しい。


 またこの町の近くならば巨大湖のおかげで畑が作れるが、他の場所では同じようにはいかない。


 この港町メーユは現状だと理想的な環境であり、他の町に移住しても同じように暮らせはしない。そもそも他町でも住めるなら、王都から出て行ってないのだから。


「島を造ったとしても、あくまで一時的なものです。ただ町の皆を島に運び、俺が町を守る必要がなくなれば攻勢に出れます。なのでなるべく急ぎたいのです」

「巨人様が黒獄虫の巣に攻撃する、ということでしょうか?」

「はい。俺なら黒獄虫程度に負けはしません。それに……まだ奴らに掴まった人たちが、生きている可能性はあると思っています」

「……余もそう思います」


 女王は俺の言葉に小さくうなずいた。


 考えて欲しい。アリの巣にいた小人たちは、ほぼ全員が生き残っていた。


 普通ならあり得ないことなわけで、おそらくだがなにかの理由があって生かされていたと考えるのが妥当だ。

 

 なら他の巣に捕えられた人たちも、生き残っている可能性はあると思う。


 すると今までひたすら焼き魚を食べていたエリサが、急に食べる手を止めた。


「あ、ちょっと聞いて欲しいことがあるの。実は繭を詳しく調べてみたら、人の魔力を吸って地面に流す特徴がありそうなの。まだ完全に調べきれたわけじゃないけど、たぶん」

「魔力を吸って地面に流す? なんでそんなことを?」

「普通に考えたら黒獄虫をさらに召喚するためじゃないかしら。それで魔力集めのために、みんな殺されなかったのかも。あの繭自体に魔法が込められているみたいで、液体とかが人に栄養を送っているみたいだし」

「本当か!? それなら他の連れ去られた人たちも、生きているかもしれないってことだぞ!?」

「うん。その可能性はあると思う」


 エリサは真剣な顔だ。とても嘘などをついているとは思えない。


 そして今の説明ならアリたちが人を殺さない理由も納得だ。


 確かアリって幼虫を育てて、代わりに蜜をもらうとかいうのがあった気がする。それの魔力版だと思えば合点もいく。


 だがエリサは急に難しい顔をする。


「だからたぶんその魔力で、巨獣なんかを召喚してるんだと思う。ただちょっと計算が合わないのよね」

「計算?」

「今の黒獄虫や巨獣の数と、人を捕縛して吸える魔力の量が合わないのよ。仮に超大量の人間を確保していたとしても、町に攻めてきたような巨獣が召喚できるとは思えないの」

「この世界に召喚してから増えてるだけじゃないか?」

「そうなのかなぁ……」


 首をひねりながら刺身を食べるエリサ。


 だがあの繭に生命維持装置みたいなのがあるのなら、すごく希望が湧いてくるというものだ!


「じゃあ他のアリの巣から人を助ければ、まだ生きている可能性はあるということだよな!」

「うん。私が見る限りだと、あの繭に入っていれば、かなりの年数生きていられそう」

「本当に、他の人たちも帰って来るのですか……!?」


 女王陛下が口元を押さえて声を震わせる。その目にはうっすらと涙を浮かべていた。


 彼女からすれば連れ去られた人たちは愛すべき国民だ。そんな者たちが帰って来るとなれば……。


「よし、なら今後の目標は決まったな。アリの巣を退治して、囚われた人を救っていこう。そのためにも島を造ることが出来れば大きい」


 ようは俺が町を守らなくて済む状況を用意できればいい。そうすればアリの巣なんぞすぐに潰せる。


 そして他の人たちを助けた後も、そのたびに島というか埋立地を作っていけば、アリに対する安全も確保しやすい。


 すごく希望が湧いてきたな。うまくいけば大勢の人が救えそうだ。


 もちろんずっと繭に入って生きていられるわけでもないだろうし、エリサの予想が正しいかも分からない。


 アリどもが人をエサにするまでに、繭に入れているだけなのかもしれない。


 だが希望があるというのはいいことだ。こうして俺たちは食事を続けるのだった。 

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