第27話 ひとまず畑を広げていこう


 俺は元の大きさになって、港町近くの池の周りで畑を作っていた。


 以前と同じように水路を掘って、そこで囲んだ土地を耕して畑にしていく。


「巨神様。なにかお手伝いできることはありませんか?」


 俺の顔近くを飛んでいるレティシアちゃんが、そんなことを聞いてくる。


 今の彼女に手伝ってもらうことはないけど、なんか表情がすごく手伝いたいオーラを出している……。


「じゃあ周囲の見回りをしてもらえるかな? 黒獄虫がまだいるのか気になるし」

「わかりました」


 そう告げるとレティシアちゃんは飛んで行ってしまった。


「ちょっとスズキ! レティシア様を使い走りみたいにしないでよ!」


 そんな俺の態度が気に食わなかったようで、俺の肩に乗ったエリサが叫んでくる。


「だってレティシアちゃんが手伝いたそうだったし」

「うう……私のレティシア様がスズキに盗られた!」

 

 別にレティシアちゃんはエリサのものじゃないだろう。


 まあエリサはレティシアちゃんにかなり憧れてたので、そんな彼女が俺にべた惚れというのは嫌なのだろう。


 好きなアイドルが誰かにガチ恋しているのを見てる気分なのかも。そう思うと確かに少し辛いかも。


 いや待てよ?


「でもお前さ。昨日はもうレティシアちゃんは結婚できる年齢とか言って、むしろ後押ししてなかったか?」

「レティシア様には元気になって欲しいし、幸せになって欲しいのよ! でも誰かのモノになって欲しくはないのよ!」


 エリサは結構ガチめに絶叫してる。め、めんどくさい厄介オタクみたいになっとる……。


「それでスズキ! これからしばらくは畑を広げるつもり?」

「とりあえずはな。出来ることからしつつ、畑作業の間に町を広げる方法を考えたい」


 まず港町で一番の問題は食料だ。


 アリの巣から人が帰ってきたことで、必要な食料数が一気に増えてしまった。


 これまでに獲れた食料ではとても足りないので、急いで畑を開墾して収穫量を増やさないとダメだ。


 幸いにも麦が一か月で収穫できるらしいので、今から畑を作れば早い段階で食料を補充できる。


 この一か月をどう持たせるかという問題こそあるものの、なんにしても畑を増やすのは急務だ。一日早く麦を畑に植えれば、一日早く収穫できるのだから。


 そして畑仕事をすることは、他にもメリットがある。


 あまり頭を使わないので、今後のことを考えながら作業できることだ。


 まだ町を広げる方法を思いついていないので、現在進行形で考えている。


「うーん……町を広げるのはどうするかなぁ。城塞都市だからそうそう広げられないよな?」


 黒獄虫が攻めてくる可能性を考えると、小人たちが住めるのは壁に覆われた城塞都市だけだろう。


 だが城塞都市はすごく頼りになる反面、一度作ると町の広さの上限が壁によって固定されてしまう。


 俺がいれば壁を引っこ抜いて移動させることはできるが、街を広くするなら新しく壁を作らないとダメだ。そうじゃないと壁の長さが足りずに、穴ができてしまう。


 だが新しい壁を作るのも簡単ではない。どう考えても大規模工事になるので、年単位の作業になるのではなかろうか。


 すでに広場で野宿している人が多い状況で、年単位待ってくれとは言いづらい。なので壁なしで町を広げる方法はないかと模索中だ。


「水掘りじゃダメなの? この池の周囲に水路で囲った土地を作って、そこを村にすれば」

「エリサ、逆に聞くけどさ。周囲に黒獄虫が見えた状態で、壁のない場所に住みたいか?」

「……やっぱり嫌ねそれは」


 城塞都市は実際の防御力もさることながら、町の中なら外の様子が見えないというのも大きい。


 小人たちにとって黒獄虫はトラウマを抱く敵なわけで、それが水路を挟んでとは言えども目視できるのは辛いだろう。


 もし万が一、奴らが水路を渡ってきたら……なんて考えてしまいそうだ。


 昼に畑仕事をするくらいならともかく、夜とか怖すぎて休めないだろう。


 やはり周囲に壁があって、アリが簡単には入ってこれないという安心感がないと。


「スズキは壁を作れないの? 貴方ならすぐに建てれそうだけど」

「俺にそんな技術はないよ。大きな岩なら運んでこれるけど、てきとうに置いていっても穴だらけになるだろうし」


 俺もエリサの意見はすでに思いついていたが、無理と判断づけていた。


 例えばそこらにある岩をてきとうに並べた場合、黒獄虫が岩と岩の隙間から通り抜けてくるだろう。


 あいつらは高さが低いのもあって、隙間を簡単にすり抜けてくるからな。なのでこの方法は使えない。


「難しいわね……!? なにかいい方法はないの!? そうだ! 港町の周囲に、海から水を引いてくるの! そうすれば街を広げられる!」

「それは周囲に水路を引いて、村を作るのと変わらないぞ。結局、港町を広げたら壁が足りなくて、隙間が出来てしまうんだから。それに海の水の堀なんて作れる気がしない」


 池から水路を作るならともかく、海となると出来る気がしない。


 なにせ海は満ち潮とか引き潮とかあるからな……素人の土堀では無理そうだ。


「あーもう! どうせなら黒獄虫のいない島でもあればいいのに!」


 エリサがやけ気味に叫ぶ。


 俺としても正直近くに無人島でもあればよかったのになと思う。


 それなら一時的に港町に収まりきらない人を避難させられるし、そもそもその島で暮らしていくという選択肢もある。


 まあ近くにないんだけどな。巨大な俺が港町の周囲を確認しても見つからないから……ん? 待てよ?


 …………島、作ればいいんじゃね?



-------------------------------------

昨日は★を多く頂いたので今日も投稿しました。

ストックはもうなくなってますが頑張ります。


もし面白そうと思っていただけましたり、続きが気になりましたら、

★やフォロー、レビューなど頂けると嬉しいです。

ランキングが上昇してより多くの人に読んでもらえて、投稿モチベが上がります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る