第30話 島が生まれる


 港町メーユの者たちの大半が、城壁の上に集まっていた。


 彼らの視線の先にいるのは、わずか一日で出現した砂浜にそびえ立つ巨大な土山。そして天に届くような高さを持つ巨人が、海に足をひたしている姿だ。


「聞け! 小人達よ! 我はこれより島を造りだす! この島こそが新たなる希望にして、黒き雑虫を寄せつけぬ大地となる! 我が力、ここに見せよう! はぁ!」


 スズキが足を上げて海を踏みつけた瞬間、海の一部が切り取られるように水が消えて地面が露出する。


 しかもその箇所は水が戻ってこず、まるで海が島を造ってくださいと告げるようであった。


「な、なんと……! 海が、海が巨神様に首を垂れておられるぞ!?」


 誰からともなく叫ぶとともに歓声が巻き起こる中、スズキは土山の最下層に手を付ける。


 すると地面から生えるように荷台付きの一輪車が出現して、土山の大半を荷台に入れて持ち上げてしまう。


 単純に土山の下から一輪車を出しただけで、見栄えは工事現場で土を運ぶ男(スーツ姿)でしかない。


 だが小人たちからすれば、巨大な山を持ち上げる巨神にしか見えなかった。


 そしてスズキは荷台の中の土を、海から水が切り取られた箇所にぶちまけた。


 突如として海の中に土山が出現し、さらにスズキはシャベルを出して土山を平らに固めていく。


 それはもはや土山ではなくて、島であった。


 追い土といわんばかりに、砂浜に残った土を島にかけていく。さらに浜の砂もだ。


「し、島だ! 本当に島ができたぞ!?」

「流石は巨神様じゃあ……! 神が作られし島とは……!」


 小人達は神業を目の前にして、地面に膝をついて拝み始める。


 もはや人々にとってスズキは、完全に神様にしか見えなくなった。





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 俺は小人達が拝んでくるのを見ながら、想像以上にうまくいったことに驚いていた。


 やはり海を割るような演出はすごい。偉大なるモーセさんから続く伝説だ。


 種明かしをしよう。海の一部の水がいきなり消えたことだが、あれに関して俺は最初に水を吹き飛ばした以外はなにもしていない。


 俺はまだ火魔法しか使えないので、できるわけないからな。


 ではどうしたのか。それは簡単だ、レティシアちゃんの風魔法である。


 俺が足を海に振り下ろした風も利用して、海の一部を風で囲ったのだ。それで俺が島を造るまで、なんとか魔法をキープしてもらったというわけ。


 レティシアちゃんはトラウマで戦うことこそ出来ないが、風魔法の力で英雄となった少女だ。そして実力は決して衰えてはいないからな。


 そのため協力してもらったというわけだ。


 詐欺? そんなもの、俺が巨神と言っている時点で大ウソつきだろう。


 それに島を造ったのは正真正銘、俺の力なのだからいいだろう。ちょっと演出で海を割ってもらっただけだ。


「す、スズキ様……はぁ……いかがだったでしょうか……」


 俺の右肩にはレティシアちゃんがへたれこんでいた。


 かなり無理して風魔法使ってくれたのだ。なにかお礼をしなければならない。


「完璧だったよ、なにかお礼をしないとな。なにかして欲しいこととかある?」

「し、して欲しいこと……!」


 レティシアちゃんの顔が真っ赤になった。


 あ、これちょっと失言だったかもしれない。欲しい物にしておけばよかったかも……。


『スズキ! 町の人たち、みんな大歓声よ! 島に住みたいって叫んでる!』


 エリサの声が頭に響く。


 彼女には港町に残ってもらって、町の人の反応を確認してもらっていた。


 俺がわざわざここまで派手な演出をした理由。それは町の人たちが、作った島を嫌がらないかと言う懸念からだった。


 埋立地というのは基本的に人気がないことが多い。やはり地盤が脆いし、なにかあれば地面ごと崩れる恐れもある。


 港町の人の何割かには島に移住してもらう必要があるが、それを嫌がられたらすごく困るところだ。


 なので俺が巨神として島を造るのを見せることで、神の地と箔付けしようという手だ。


 身も蓋もないことを言ってしまうと、プレミアで特別価値ならぬ神様価値をつけて、土地の価値を吊り上げようみたいな。


 なんか本当に悪徳商売みたいに聞こえてきた……。


「さあ小人たちよ! 我が作りし島は、短い時で移住を募るだろう! 希望せよ、さすれば雑虫の寄らぬ楽園となるだろう!」


 俺は巨大な木の杖を魔法で作り出して、ドンと砂浜をついた。


 なんか神様っぽいという理由だけで出したが、港町から聞こえる声がさらに大きくなったのでたぶんウケている。


 ひとまず俺が作った島はもう少し大きくして、巨大な岩なども周囲に置く。


 その後に大工に入ってもらって家を建ててもらう。それとついでに島が崩れないかも見守る予定だ。


 大工の数はたかが知れているので、万が一に島が崩れ消えても俺が手掬いで助けられるだろう。


 これで島が住みやすくなれば住居問題は解決だし、港町のほぼ全員が上陸できるほど広くなれば、俺がつきっきりで港町を守る必要はなくなる。


 ただし……また少し遠くで俺を見張っている、あの小型犬をなんとかできればの話だが。


 あの犬は本当に厄介だ。小型犬とは言えども、あいつなら下手したら浅い海を渡ってしまうかもしれない。


 犬は水を嫌がるイメージだが、不安は出来れば取り除きたい。


 そうするとあの犬を倒したい。でもあいつは俺が近づこうとすると即逃げるし、かといって遠距離攻撃の火魔法は当たる気がしない。


 火魔法はスピードがあまり速くなく、見てから避けられてしまうのだ。実際、離れていれば俺でも回避できるだろう。


 なのでもっと避けづらい魔法が欲しい。


「なあレティシアちゃん。俺に風魔法を教えてくれないか?」


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