第39話 敵の姿


 拷問の末、いや言うほどしてない気がするが男は落ちた。


 魂の抜けた顔で怯えきっていて、もはや逆らう気力もないように見える。


 そんな彼を連れ帰って、女王陛下も一緒に話を聞くことになった。


 だがどんな話が飛び出してくるかわからない。周囲に漏れたら困る内容かもしれないので、念のために町のとある地下室に移動してそこで話を聞くことになった。


「さあ全て話しなさい! そうでないとスズキが食うわよ!」


 エリサが男に対してさらに脅す。


 正直俺は絶対に嫌なので勘弁して欲しいのだが、男に絶大な脅しになっているので黙っている。


「わ、わかってる! 全部話す! 知ってること全部話すから!」

「じゃあさっさと話しなさい! お前はなんであんなところに倒れてたのよ!」


 エリサがいきなりド直球に問いただすと、男は一瞬だけ逡巡した後に。


「お、俺はあの巨獣の頭に乗っていたんだ。あの巨獣は俺が従属魔法で操ってたから! それであんたらを見張っていたら、襲われて振り落とされて……!」

「巨獣の頭に乗ってた? 証拠はあるの? ないならどうなるか……!」

「あ、ある! あんたら以前に見たはずだ! 巨獣同士が頭をぶつけあったことがあったろ! あれは乗り換えてたんだよ!」


 ……そういえば以前に中型犬を燃やした時に、犬たちがそんなことをしてたな。


 妙な行動だと思っていた。犬の頭に乗っていたと言われたら納得もできる。


「なんで巨獣の頭になんか乗ってたのよ!」

「移動手段だよ! 乗ってりゃ黒獄虫に襲われない! それにあいつら大きいから、馬なんかよりも遥かに速く移動できる!」


 犬を足代わりにしていたということか。確かにこの世界でなら、小型犬ですら山のような大きさだ。


 どう考えても小人が用意できる移動手段より速い。


 そして今、気になることを言ったな。


「お前は黒獄虫とは関係がないのか?」

「……っ!?」


 俺がそう問いただした瞬間、男は驚愕の顔を浮かべた。


 まるで「しまった」と言わんばかりの表情だ。


「な、ない! ないね! あんなアリどもとは何の関係もない! それよりも知ってることは全部話したから開放しろ!」


 男はごまかすかのように必死に叫んでいる。


 どう考えても様子がおかしく、明らかに何かを知っている素振りだ。


 ……というかそもそもだ。黒獄虫をアリと呼んでいるのは俺だけのはず。


「はぁ!? あんた絶対になにか知ってるでしょ! 言わないとスズキにかみ砕かせるわよ!」


 どうやらそう感じたのは俺だけじゃないらしく、エリサがぶちギレた。


「お願いします。知っていることを全て教えてください。そうでなければ……本当に、しなければなりません。貴方が歯によってぐちゃくちゃに潰され、苦しみながら死ぬように命じなければなりません」


 そして女王陛下が優しい口調で追い打ち。


 エリサよりも穏やかで、かつ生々しい表現がすごく怖い。エリサがきゃんきゃん吠える小型犬ならば、女王陛下は大人しい大型犬のようだ。


「や、やめろっ! 頼む、許してくれっ! それを言ったら俺は殺される!」

「じゃあ言わないなら私がこの場で殺してやるわよ!」


 ブチギレエリサは杖を構えるとその先端を男に向ける。


 だいぶ過激ではあるが仕方ない。この地獄みたいな世界で、犯罪者にも人権をとか言っている余裕はないのだ。


「ひ、ひいっ!? わ、わかった! 言う! 言うから俺を守ってくれ!」

「わかりました、善処しますのでお教えください」


 そして女王陛下がすかさず優しく包み込む。


 実際は決して守ると約束していないのだが、男はすがるように女王陛下に顔を向けた。どうやら勝手に勘違いしたようだな。


「あ、あの黒獄虫たちは俺たちのボスの! メーリオ様が召喚して従属させてるんだ!」


 男は息も絶え絶えに必死に叫ぶ。


 メーリオ? いったい誰なんだろう? この世界では有名人なのかと思ったが、俺と視線が合ったレティシアちゃんが首を横に振った。


 どうやらそういうわけでもないらしい。


「メーリオって誰よ!」

「ぶ、ブラクア帝国の元将軍! そして新ブラクア帝国の帝王だ!」

「はぁ!? 意味不明なこと言ってるんじゃないわよ! ブラクア帝国は滅んだでしょ!」

  

 ブラクア帝国。何度かエリサから聞いたことがあるが、この世界を地獄に導いた元凶の国だ。


 黒獄虫や巨獣を召喚した上、そいつらを操り切れなくて滅んだとの話だったが……。


「た、確かに滅んだ。前帝王は死んだし、ブラクア帝国は壊滅した。いやメーリオ様たちがさせた! だが彼は新しく国を建て直した! 選ばれた一万人ほどでな! それで黒獄虫どもを操って世界を滅ぼしてる!」


 ……俺は男の言うことに納得していた。


 あのアリたちはまるで人のように、頭脳を持っているかのように行動していた。


 例えば俺を眠らせないように、港町を波状で襲ってくるのを繰り返したりだ。


 だがあの黒獄虫自体の知能が高そうとは思えない。俺が見た限りでは地球にいたアリと同じくらいだ。


 だが裏に人間がいて、黒獄虫を操っていたならばどうだろうか。それならば納得がいってしまう。


「なんでそんな意味不明なことするのよ! なにが狙いよ!」

「し、しらねぇ! 本当にしらねぇんだ!」

「じゃああの大量の黒獄虫はどうやって召喚できてるのよ! あんなにいっぱいは無理でしょ!」

「それも知らない!」

「知らないばかりで助かる気があるのあんた!? 殺すわよ!」

「だって知らないものは知らないんだよぉ!?」

 

 男は本当に何も知らなそうに見える。ここまで来たらもう隠す必要もないだろうし。


 ……まさかあの黒獄虫どもが、人間によって操られているとは。


 しかしそうなると余計に分からない。なんで世界を滅ぼそうとしているのだろうか。

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