第13話 ドラゴンフライ
今日も畑の拡張を目指すべく、水たまり……じゃなくて池の近くで水路堀りをしていた。
昨日にひとまずの畑を作った。だがあの畑で作物が収穫できるようになっても、港町の人口全員を食べさせるには全く足りていない。
今の小人たちは一日一食、魚介のスープのみだ。これでは栄養など足りるわけもないし、いずれ限界が来るだろう。
その前に食料供給率を増やさなければどうにもならない。やはり炭水化物というか、パンとか米みたいなものが必須だ。
……正直に言うと負い目もある。実は俺だけ特別扱いで毎日三食もらうことになった。
昨日町に戻って空腹で苦しんでいたところ、女王陛下が優遇してくれた。俺も一食では動ける自信がなく申し訳ないが頂いている。
腹をすかせた小人たちのことを考えると、自分だけ多めに食べているのは気まずい。
だが女王陛下が「貴方が動けなくなれば終わりです。それにこの食事があるのも貴方のおかげですので、気兼ねなく食べてください」と言ってきたのだ。
実際空腹で倒れそうだった。なので内心謝りながら食事はしっかりとらせてもらうことにする。
俺ごときが優遇されるのは本当に申し訳ない。その分、小人たちよりも多く働かなければ。
そういう状況なので早急に食料を確保して、みんなで三食気兼ねなく食べたいよ……。
『スズキ、どうしたの?』
俺の左肩に座っているエリサが話しかけてくる。
彼女はもうそこが固定ポジションみたいになってきてるな。
「体調が優れないのでしょうか? それなら看病いたしますので港町に戻りましょう」
そして俺の左にはレティシアちゃんが浮いている。彼女の服についてる小さい木のプロペラがくるくる回っていた。
そういえばエリサとレティシアちゃんの飛行魔法は、かなり別枠のものらしい。というかレティシアちゃんがかなり特殊な魔法だそうだ。
エリサが使う普通の飛行魔法は、身体を魔力で浮かせるのだがせいぜい五分しか飛び続けられない。なのでエリサはいつも俺の肩に乗っている。
だがレティシアちゃんは飛行魔法ではなく、風魔法で身体を浮かせているらしい。彼女は特異体質で風魔法の魔力消費が異常に低く、常時発動していられるとか。
話を聞く限りだと普通の飛行魔法は無重力を作り出していて、レティシアちゃんはジェット噴射で浮いてるとかそんな感じだと思う。
実際彼女の足からはホバーみたいに噴射してるらしいし、プロペラボタンも回ってるわけだし。
「いや大丈夫だ。ちょっと考え事をしていた。もう少し畑を作る場所とか、ちゃんと計画立てた方がいいかもなと思ってな」
ひとまず池の周囲に雑に畑と水路を作っているが、今度のことを考えるともう少し計画を練った方がいいかも。
ほら都市計画とかあるじゃん。水路から引ける水にも限りがあるだろうし。
てきとうに造ったらあとで問題が起きるかもしれない。
『気にしなくていいんじゃない? 困ったら作り直せばいいよ』
「スズキ様のお力ならば、わずかな期間で水路を掘れますから」
「確かにそうか。それならまずは雑でもいいかな」
地図とか見るの得意じゃないからそのほうがありがたい。
そう考えてまたシャベルで地面を掘ろうとすると、ブーンと細長い小さなナニカが顔近くを飛び去って行った。
フォルム的にトンボか? この世界にもトンボがいるんだなぁ……。
田舎で赤トンボの集団を見たことあるけど、あいつらわりとあまり移動しなかったりする……。
『あ、ああ……わ、ワイバーン……!? ワイバーン!?』
「スズキ様! 緊急事態です! ワイバーンの群れが! 町を襲おうとしてます! あんなのに襲われたらひとたまりもありません!」
「なにっ!?」
思わず振り向くと赤トンボの集団が、町に向かって飛んでいた。
いや違う。目を凝らすと細長いトカゲっぽい!? この世界だとトンボは小人より大きいから、空飛ぶドラゴンってことか!
つまりトンボの群れの襲来は、ドラゴンの集団が町を空から襲う絵面ってことに……ヤバい! あいつら飛んでるから堀も城壁も意味ないぞ!?
「うおおおおお! させるかああああぁぁぁっぁ!!!!」
俺はシャベルを捨てて猛ダッシュでワイバーンたちに近づく。
だが空飛ぶトンボを素手で倒すのは難しい! かくなるうえは……!
俺は手元に魔力を集中して武器を作り出す。相手がトンボならば獲物は決まっている。
顕現したのはプラスチックの棒、そして先端に網。つまりは虫取り網。
網が破れないか心配だがそんなこと言ってる間に攻撃したほうが早い! ダメならバット辺りに持ち帰ればいいだろ!
「おおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
俺は必死に網を振り回して、ワイバーンを一匹捕らえる。
どうやら網は思ったより丈夫で、ワイバーンたちに当てても特に破れる様子はない。
さてこいつを網ごと踏みつぶして……。
『スズキ! ワイバーンはお肉が食べられるって聞くわ! 捕らえて!』
お肉と聞いて必死に念じてみると、プラスチック製の虫籠も作れた!
逃がさないようにワイバーンを網から虫かごにいれて、さらに網で捕まえてさらに一匹ずつとやっていく。
はたから見たらスーツ姿の虫取り野郎とかいう姿だが、そんなこと言ってる場合じゃない!
網で城壁に掴まったワイバーンを捕縛し、飛んでいるやつに向けて振り回してるとワイバーンはいなくなっていた。虫かごには十匹以上捕縛している。
網振り回してすごく疲れた。もう息切れヤバい。
そもそも虫を捕らえるのって、普通は木にとまってるところを狙うよな……。
『ワイバーンをいっぱい捕らえるなんて! 一匹でも厄介な魔物なのに!』
「お、おう……。ところでこんな奴らが、この世界にはいっぱいいるのか? こいつらもなんとか帝国の魔物?」
アリもどきとか巨獣が特別だと思っていたが、他にもこんな外敵が多くいたら流石にヤバいぞ。
空飛んで襲ってこられたら守るにも限度があるし。
だがレティシアちゃんは首を横に振った。
「ワイバーンの群れが町を襲ってくるなど、聞いたことがありません。黒獄虫のせいで食料がなくなり、人の町に集まってきたのでしょうか」
『ブラクア帝国の魔物は基本的に大きな虫か獣よ。ドラゴンとかを使っているのは見たことないわ』
どうやらこの世界にはドラゴンとか普通にいるらしい。
そういえばトンボって英語でドラゴンフライだったっけ。確かにパッと見だとあいつらトンボに見えたな。
「ワイバーンの群れが町を襲ってきたのは、アリもどきで生態系が破壊されたからか……しかしブラクア帝国はなんで虫を使役したんだろうな。ドラゴンのほうが強そうだが」
『知らないわよ。そんなのブラクア帝国に聞いてよ』
「残念ながらわかっていません。あの帝国の魔物使役に関しては謎だらけですから」
どうやら彼女らもブラクア帝国についてはあまりわかってないようだ。もう滅んだし確認のしようもないが。
それなら仕方ない。ワイバーンの入ったカゴへと目を向けると。
「ところでこのワイバーン、どうしようか。俺が手放したら虫かごが消えちゃうから、それまでに殺しておかないと」
このドラゴンたちはお肉にする。可哀そうだとか言ってる余裕はない。
ただカゴの中の虫を殺すの案外難しいよな。飛べるから下手にフタを開けてると逃げられそうだし。
「水の中にいれてフタを開けるのはいかがでしょうか?」
『土をいれて生き埋めとか?』
俺たちは虫かごの中のワイバーンの殺し方を相談するのだった。
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刃の罠を仕掛けて、勝手にワイバーンが切れる装置作りましょう。
蜻蛉切りみたいな感じで。
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