第37話 拷問なんて無理では?


「知ってることを全て話しなさい! 言わないと拷問するわよ! あんなところにいて、なにもしらないなんて嘘に決まってるんだから!」


 話し合いを終えて男の寝ている部屋へ戻った瞬間、エリサがストレートに脅し始めた。


 あまりにも直球過ぎる……いや確かに最終的にはそう言う予定だったが、前交渉とか色々とありそうなものだが。


「エリサ、少しは前置きとか前交渉を……」

「なにを言ってるのよ! どうせ記憶を失ってるなんて嘘なんだから、グダグダ言ってるのは時間のムダよ! 私たちには時間がないの! 特にスズキがこんなところで時間を浪費するなんてダメよ! この間にも本当なら畑増やしたりできたのに!」


 そう言われるとエリサの言葉にも一理ある。


 記憶喪失のフリをしている相手に交渉しても、どうせ「記憶がない」とか言われるだけで話が進まないだろう。


 それなら最初からど真ん中ストレートの方が話は早いかも。


 そして男の方もそれは自覚しているのか、クツクツと笑い始めた。


「……流石に騙せはしないか。そうだよ、俺は記憶を失ってなんぞいない」


 どうやら俺たちを騙すのは諦めたようだ。


 うん、流石に彼自身も自覚はあったようだ。あの状況での記憶喪失なんてのは無茶だと。


 すると我が意を得たりとばかりに、エリサがさらに畳みかけるように叫ぶ。


「ほらやっぱり! 知ってること全部吐きなさい!」

「吐いて欲しいならそれ相応の態度があるんじゃないか? まず腹いっぱい美味い物を食わせてもらおうか。それにそうだな、女も欲しい。お前ら三人抱かせてくれたら考えてやるよ」


 先ほどまでの態度はどこへやら、男はものすごく偉そうに口を開く。


 …………ところでこいつ、もしかしなくてもロリコンだ! 女王陛下はともかくとして、エリサやレティシアちゃんまでとは。


 そして今の言葉にエリサはさらにブチギレた。


「女王陛下! もうこいつは殺さない程度に痛めつけるべきです! 半殺しにして情報聞き出して、それからもう半殺しにしましょう!」

「エリサ、それ全殺しだ」

「ははっ、拷問なんぞしてもムダだぜ。対拷問への訓練も受けてるからな」


 男は余裕綽々とばかりに笑っている。


 これはエリサに迫力がなさすぎるのか、それとも拷問を怖がっていないのかは微妙なところだ。


 だがそもそもの話で俺たちは拷問なんて出来ない。エリサは強気に話しているが無理だ、何故なら拷問官がいないからだ。


 半殺しなどと簡単に言うが、実際半殺しで止めるのって難しいと思うんだよな。


 よく拷問の専門官がーって話があるが、それは彼らにプロフェッショナルな技術が必要だからなのだろう。


 実際に俺はどうすれば人が苦しむとか、どうすると殺さずに痛めつけられるとか分からない。


 そのため迂闊な拷問はできない。貴重な情報源を迂闊に殺すわけにもいかず、かといって下手に痛めつけたら死んでしまうかも。


 軽く痛めつけるのを続けるという選択肢もある。だがそれで大したことのない拷問をしても、訓練を受けた者は一言も漏らさない気がする。


「このっ……! 燃やすわよ!」

「おお燃やせよ! そうしたら俺は死んで、お前らはなにも知れずだ!」


 エリサの怒りに男は挑発を返す。


 今のやり取りで男がなにか隠しているのは明らかだが、たぶんそれは向こうも意図的に漏らしているのだろう。


 どうせ疑われているのなら隠す必要はない。むしろ貴重な情報を持っているとあえて教えることで、迂闊に殺せないようにしている気がする。


「このっ……! 言わないと巨獣のエサにするわよ!」

「はっ! そうしたら死ぬから言えねぇなぁ!」

「女王陛下! もう本当にエサにしちゃいましょう! こいつどうせ言いませんし、食料を与えて生かすのも勿体ないです!」


 おっとエリサが脅しを……いや違うな、あれは本気で言っている。怒りが限界突破したようで、殺す方向にシフトし始めたようだ。


 実際、この町の食料には微塵も余裕がない。塵一つ余裕がない。


 成人男性一人を養うのも辛いので、エリサの言うことも一理はあってしまったりする。そのため彼女も若干本気で、こんな男に食料を与える必要はないと言っているのだろう。


「……はっ! そんなことしたらお前らはもう何も知れないぜ! 貴重な情報を持つ俺を殺していいはずないよなぁ!」

 

 む? いま男の声が少し震えた気がする。


 どうやらエリサが若干本気で殺すことを考えたせいで、それを感じたのだろうか。


 なるほどこの男も好んで死にたいわけではないようだ。そりゃそうか。


 さてどうするかと考えていると、様子を見ていた女王陛下が小さくため息をついた。

 

「どうか知っていることをお話して頂けませんか? 私たちも物騒なことをしたくはないのです」」

「だから考えるって言ってるだろ。大量の美味い飯に、あんたらを好き放題させてくれたら」

「……」


 女王陛下の真摯な説得に、男は下卑た笑みで返す。


 これはダメだ、交渉として論外過ぎる。そもそも仮に要求に全て答えて、こいつが情報を漏らしても信憑性もないだろう。


 いや拷問して得た情報も本当かはわからないが、それでも脅してる分だけまだ本当な可能性は上がるくらいか。


「最終警告よ! 言わないなら拷問するわよ!」


 だがエリサの警告に対して、男は馬鹿にしたように笑みを浮かべた。


「もう許さない! お前に見たことない拷問をしてやるわ! スズキ、手伝って!」

「お、おう……」


 いったいエリサはなにをするつもりなのだろうか……。

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