第41話 そしてどうする


 捕縛した男は結局死んでしまった。


 死因は毒殺。強力な毒を持つ虫が、なんと口の中から出てきたのだ。


 エリサが言うにはその虫は従属の魔法をかけられているので、きっと誰かの命令で男を殺したのだろうと。


 そうなるとこの男は、常に毒虫を潜まされていたことになる。


 俺たちは男の死体を葬った後、女王陛下の屋敷の応接室に集まっていた。


「まさかブラクア帝国が壊滅した後に、新しい国が建っていたなんてね……」


 エリサがため息とともに口を開いた。


 ブラクア帝国は黒獄虫を世界にばら撒いた挙句、その黒獄虫たちに滅ぼされたと言われていた。だが実際はメーリオとかいう奴が、黒獄虫を操って滅ぼしただけと。


 あの男の言葉を全て信じるわけではない。確かにそちらの方がしっくりくる気がする。


 俺が見る限り、あのアリたちは虫とは思えないほどに頭がいい時がある。人間に操られていると言われた方が納得できる。


「黒獄虫に占領された街は、一切情報が入ってきませんからね……」


 女王陛下も顔に困惑の色を浮かべている。


 そりゃそうだよな。今まで黒獄虫こそが敵と思っていたのに、その裏に人間がいたなんて。


「というか意味分からないわよ! もしメーリオとかいうのが黒獄虫を操れるなら、なんで世界を滅ぼそうとするのよ! 占領するんじゃなくて!」


 エリサの怒り声が部屋に響く。


 正直怒鳴りたい気持ちはわからなくもない。


「それに人を殺さずに捕られていた理由も分かりません。魔力を集めていたようですがその目的も」


 レティシアちゃんが小さく呟いた。


 そこも謎だな。黒獄虫は圧倒的な強さで世界を滅ぼしかけているのに、これ以上の魔力をなにに使うと言うのだろうか?


 謎が謎を呼ぶというか、謎ばかりでわけわからない。


 ただひとつだけわかることがある。


「だが真の敵の存在を知れたのは前進なんじゃないか? それに敵が見えたことで取れる手段もあるはずだ。そのメーリオとやらを叩けば、黒獄虫は大人しくなるかも」


 今までは敵はアリどもで、ようは世界中に敵が散らばっている感じだった。


 なので地道にしらみ潰しならぬアリ潰ししていくしかないと。


 だが黒獄虫たちを操っている者がいるのならば、そいつを捕まえたり最悪殺せば状況が大きく好転するかもしれない。


「どうやって叩くのよ。ブラクア帝国はここから馬でも二か月以上かかるほど……あ、そうか」

「そうだ。俺の足ならかかっても二、三日程度なんじゃないか?」


 ブラクア帝国はここから凄まじく遠い。だがそれは小人視点での話だ。


 この世界において俺は、馬なんかとは比べ物にならないほど速い。そんな俺が全力で走れば、それこそ小人基準なら新幹線よりスピードがあるだろう。


 それに山なども乗り越えればいいので、ブラクア帝国までの最短ルートを進めるのも大きい。


 そして俺ならそのメーリオとかいう奴だろうが、勝つことは可能だろう。


「いいわねそれ! スズキがブラクア帝国までひとっ走りして、メーリオとやらをぶっ潰す! これで終わりよ!」


 だが俺はエリサの言葉に首を横に振る。ここまでならすごく楽勝そうに聞こえるが……。


「ただ問題は、俺がこの町を数日も離れられないことだが……」


 この町の防衛力に少し不安が残ることだ。


「巨獣を従属させたんだから、命じて守らせるとかどう?」

「もちろん考えている。ただどれくらい信用できるか分からないからな……所詮は犬だ」


 番犬と言えば聞こえはいいがただのワンちゃんだ。


 俺の命令に対して、聞く頭がどれだけあるかわからない。


 それに正確に言うなら町を踏みつぶせる小型犬だ。下手に町を守らせたはいいが、敵との戦いの最中でむしろ守るべき町を破壊してしまう可能性もある。


「なのでまずはワンちゃんがどれくらい使えるか試そう。そのうえで町の食料の備蓄を増やしていき、俺が数日離れても問題ない状況を作り出す。もしメーリオとやらを倒せても、戻ってきたら町が滅んでましたじゃ困るだろ?」

「た、確かに。スズキの案がよさそうね……」

「スズキ様に従います」


 俺の言葉にエリサとレティシアちゃんも同意してくれる。


 後は女王様だけと視線を向けると、


「……申し訳ありません。結局、巨人様に全てを押し付けてしまうことに」

「いえいえ、これくらい楽勝ですよ。相手が小人なら何千人来ようが物の数ではありません」


 女王陛下も頭を下げてきたので、今後の展望は決まったようだ。


 まずはワンちゃんがどれくらい使えるか試して、問題なければ番犬として扱う。


 次に食料の確保、これがたぶん一番難しいだろう。


 なにせ町の人だけではなくて、ワンちゃんの分も必要だからな……この世界ではすごく大きい巨獣のワンちゃんのだ。


 正直この問題の解決が一番難しい気がする。でもワンちゃんがいなかったらそれはそれで、結局防衛力の関係で俺は町から離れられない。ままならないものだ。


 だが展望は見え始めた。世界を救うための。


「よし。じゃあ頑張って問題を解決して、ブラクア帝国へ向かうぞ!」

「「おー!!」」


 俺たちは一致団結して、今後の目標のために声を合わせるのだった。



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これで第一部完結とさせて頂きます。

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